熱太の言葉を本能的に理解してしまいそうになるリージェは何度も思考を外に追い出して何も考えないように目を固く閉じた。
(あいつが生きてるように見えるのに、僕はまだ僕が鎧の塊としか思えないのは、どうしてなんだよ……!)
ララクの中に命の輝きを見たなどとは、二度と思わないようにしなければと歯を食いしばって。
そのララクはもはや負ける気がしないという様子で飛彩のタッグを組み、春嶺と共に援護し、ホリィの未来確定で連携技を放つ。
ヴィランと人の架け橋として、始祖を倒そうとするララクは鎧を何度も破壊してフェイウォンに回復へ専念させている。
(蘭華とララクが戻ってきて想像以上に良い感じだ。負ける気がしねぇ!)
「飛彩ちゃんと一番息ピッタリなのは私ね!」
「何言ってんのよララク! 私の方が上よ!」
のような、蘭華とララクが軽口を叩けるほどの余裕が訪れているほどだ。
その間も熱太が炎を放つと、それに隠れて不可視の斬撃がフェイウォンを大きく切り裂く。
「熱太くんの炎はいい隠蓑だよ!」
「はっ、倒すつもりで放っているからな!」
反撃は翔香が抱えるように、さらにはエレナが鞭で刑の腰を巻いて後退させるという役割分担を明確にしていた。
「先輩たち張り切りすぎっすよ〜」
「鞭で男の子を引っ張るなんて、そう何回もやらせないでよね」
「ああ、僕にはそういう趣味はない」
無事にヒットアンドアウェイが成功し、さらにホリィとララクの白と黒の混じる展開弾が降り注いでいく。
「コネクト! ホーリーシャワー!」
「そりゃそりゃそりゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「物量勝負なら買ってやるぞ?」
「そんなわけないでしょう?」
ローブの中に隠しているスナイパーライフルから放たれた凝縮された一筋の展開照射。
それは二人の放つ展開弾の雨の中を跳弾しながら突き進み、背後からフェイウォンの心臓部を射抜く。
「ぐっ!」
「それだけの展開量を持ってるやつは緻密な操作に慣れてない、でしょう?」
同時に攻撃の手が止むも、それは勝利へと突き進む飛彩に開けられた栄光の駆け足だった。
回復しながら戦っていたことで左足に展開力を集中していたものの、踏み出すごとに右足に紅い装甲、右腕に蒼い装甲、左腕に黒い装甲、そして全身を虹色のオーラが包んでいく。
今の飛彩の持てる展開力を携えた左腕の黒拳が、崩れかけるフェイウォンの心臓部へと再び突き出された。
「吹き飛びやがれ!」
「ぐっ……ぬうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
胸部の鎧を砕く一撃、そのまま展開力が右脚に移っていく。
殴り抜けた勢いで反転しながらの踵落としは左肩から腕までの鎧に亀裂を入れる。
そのまま素早く足払いを放つことでフェイウォンを宙に投げ出しつつ、右足の鎧へと崩壊の兆しを植え付けた。
空中に寝転ぶように浮いたフェイウォンは痛みに喘ぎつつ、身動きが取れない刹那の訪れに目を見開く。
滅多に起きる事のない状況と久方振りに味わう死の気配に、フェイウォンは愉悦を感じてしまうほどで。
「さあ、次はどうするんだ?」
「そのナメた口をきけなくしてやるんだよッ!」
直後、飛彩から溢れていたはずの展開力が一瞬にして消え失せた。
そして、目にも留まらぬ速さで振り下ろされた蒼き右腕が鉄槌のようにフェイウォンの顔面へと浴びせられた。
骨が砕け散る鈍い音と共にフェイウォンから発せられていた禍々しい展開力が霧散する。
何度目かも分からない復活の兆しは今度こそ起きないように見えていた。
「これで……!?」
地面へと再びクレーターを作り上げ、その底で寝転ぶフェイウォンへ飛彩の拳は合わさったままになっている。
鎧や髪すらも展開力が具現化したような状態だったとはいえフェイウォンの顔は潰れている、その確かな実感が飛彩にはあった。
最初の攻防では展開無効の力で殴り抜けてしまったことが復活の要因だと考えており、自身と相手にだけ展開無効を突きつけ続けていれば必ず相手は死ぬと飛彩は歯を食い縛っている。
謎の威圧感と嫌悪により、今すぐに手を離したいところだったがそれを必死に堪えているのだ。
「良い加減、死んでくれ……!」
全員がクレーターの淵に集まって固唾を飲んで結末に注目していた。
消されている展開力にもかかわらず、胎動しているように飛彩も含めた全員が感じてしまう。
「踏ん張れ! 飛彩!」
「僕たちがついてる!」
「負けるなー!」
展開無効の力により、近づく事の出来ない熱太たちがせめてもの想いをぶつけていった。
それだけで隣に仲間がいるような感覚が心に宿り、より地面とフェイウォンを縫い付けるかのように飛彩は拳を強めた。
「……!?」
「━━よぉく観察させてもらったよ」
絶望の声音が、全員の耳元でそっと囁かれた。
戰慄の攻防が行われていた数分前。
「メイ、またあっちに戻るっていうのか!?」
「敵の侵攻が止まった。多分今来てる連中だけで全員なんだと思う……これだけだったら私がいなくても大丈夫でしょ」
「そういう意味じゃない、お前は病み上がりも同然だ」
「人間の黒斗くんの方がよっぽど重傷でしょ? 私とやりあって命があっただけ幸運に思った方がいいわ」
「メイ……!」
司令部に戻らずに亀裂から飛び出そうとしていたヴィランを瞬時に押し返していくメイ。
それを全力で追いかけ続ける黒斗は目覚めた後、休んでいろという言葉も聞かずに責任を感じる創造のヴィランを追いかけ続けている。
「よし、これだけ押し返せば通常兵器のみで平気なはず」
「だったら俺も連れて行け! 司令官としての責務を果たす!」
呆れ顔を浮かべさせられるメイは元気にさせるタイミングを間違えたかと額に手を当てた。
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