異世崩壊の前兆に唯一気づくことの出来たメイだが、立ち止まって説明出来るほどフェイウォンと飛彩の展開域は安全な場所ではない。
少しでも動揺して展開力の集中が乱れれば、そこからヒーロー達は闇に溶けてしまうだろう。
故にメイはあえて押し黙り、飛彩を助けることを優先していた。
撤退すると期待していた飛彩の思いとは裏腹に、メイは全員の命を危険に晒してでも飛彩を助けることを優先したのである。
(今ここで無理やり撤退したら……この子達の心が死ぬ。もう、こんなに想われてるんだから怯えずに素直に泣きつけばよかったのに!)
仲間を信じるようになった飛彩でも、流石に出来ないことはあるかとすぐに心の中で訂正したメイ。
フェイウォンと同じく数十分以内に脱出しなければ崩壊に巻き込まれると、見立てを立てている。
裏を返せば少しだけ猶予が残されているわけだ。
「皆! 辺りの様子がおかしいわ、急ぎましょう!」
熱太を筆頭に矢印のような陣形で走っていた集団は、メイの言葉に頷きつつも走る速度を緩めない。
一行はまるで黒い荒海を渡る一艘の船のように突き進んでいく。
「悪いわね翔香、おんぶしてもらって……」
「蘭華ちゃんが来ないと隠雅だって本気出せないし、足には自信があるから遠慮しないで!」
事実、翔香は蘭華をおんぶしたままで熱太達に追随している上に、武器を構えつつ走っている味方達は息を切らしている。
レスキューワールドのスピードスターは伊達じゃない、背中に乗る蘭華も頼もしさから笑みを溢した。
それと同時に、何も出来ない自分が出来るのは分析だとバイザー型のデバイスを付け直して少しでも展開力が薄い部分を探っていく。
「二人の戦いが激しいからか展開力が波立ってるわ……薄いところだけ歩くのは無理みたい」
「蘭華ちゃん、良い目の付け所ね」
「でも、このままじゃみんなの消耗が……って、もしかしてメイさんはわかるの?」
「ええ。だから私の展開強度に合わせて出力を調整して。少しでも消耗を抑えましょう」
参謀としてのポジションもメイには叶わない。
飛彩を誰よりも救いたいと思っている蘭華にとって、現実はあまりにも過酷だった。
しかし、ヒーロー達は全力で飛彩の元に向かいながら緻密な展開操作を要求されている。
故に唯一周囲に警戒を配ることが出来た蘭華だからこそ、遠くに見える異変を感じ取れた。
「皆! 何かくる!」
黒い展開域に飲み込まれた周囲はもはや城下町の程を成していない。
展開域が分厚く海のように地面に乗っているが故にある程度平らなところを突き進んでいる。
それ故に地平線と足場の境が曖昧かつ、強大すぎるフェイウォンと飛彩の展開域の影響で忍び寄る黒きもの達に気づけていなかったのだ。
合図用のフレアを空へ向けて放つ蘭華が見たものは、黒いドロドロとした鎧の軍勢であった。
それはフェイウォンと飛彩の戦場に迫る蘭華達を妨害するように波のように歩んでいる。
「な、何だあれは!」
「すごく、嫌な予感がする……」
先手を打たなければと銃にも展開力を込め出した春嶺。
追随するように遠距離を担当できるホリィもまた攻撃へとリソースを割いた。
「死んだはずのヴィラン達……フェイウォンに吸収されて、意のままに使われてるのかも」
「すべての能力を使えるのは伊達じゃなさそうだ」
全力で戦い続けている刑も、昔のように悪態をついてしまうほどの絶望。
足場を組むだけでも精一杯な状況の中で勝利するのは極めて難しいだろう。
飛彩とフェイウォンが放つ領域の先が見えない以上、ゴールの見えない戦いなのは明白だった。
「展開能力っていうのはね、願望が反映されるの。フェイウォンはどうしても私たちと飛彩を会わせたくないみたい」
「もしかして完全にヴィランにして配下にするため、とか?」
予想しつつも口にはしたくない未来。エレナのその言葉にメイはおそらく、とだけ返した。
「ヴィランはほぼ全滅……優秀な部下が欲しいでしょうからね」
言葉にはしていないが、フェイウォンもまた飛彩を欲している。
その真偽は定かではないが、他者の介入を拒む気持ちが仲間に今の自分を見て欲しくない逃避の心が混ざり、壁となる敵を生み出しているのかもしれない。
「くっ、本気を出せればあの程度の連中……!」
足を止めて周囲の展開域に抗うメイ達だが、遠距離からの春嶺とホリィの攻撃では焼け石に水だ。
せめて足場をどうにか出来れば、ヒーロー達はゾンビのように這い寄るドロドロとしたヴィランへと出来る限りの攻撃を飛ばしていく。
「くっ、始祖の展開域のせいで威力が弱まります!」
「ホリィの言うとおり……展開跳弾で威力を高めてもすぐ薄くなってしまう」
遠距離組ですらどうにもならない、そう思った瞬間。
『リジェクティブワールド』
もう一つの巨大な展開域が周囲へと広がり、足場の展開域を押し固めるように無理やりにコーティングしていった。
「始祖と隠雅飛彩の展開域がヒーロー陣営に与える影響を拒絶する……!」
「リージェ!?」
空中から自身の周囲を守りつつ、広範囲へと放った拒絶の力はヒーローに味方するもの。
ララクも驚いたまま背後に振り向くが、リージェから余裕さはみるみるうちになくなっていく。
拒絶による恩恵の対象を絞っていることで効果を上げているが、それでも全てを蝕む黒い瘴気を押し固めるには自身の存在をかけるほどだった。
「ぐっ、くぅっ……!?」
「リージェ、どうして!」
「ララク! そしてヒーローども! 勘違いするなよ! 僕は、いや、俺は! 隠雅飛彩との決着をつけたいだけだ!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!