【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

トゥルー・ドレス

公開日時: 2021年2月25日(木) 00:03
文字数:2,262

「ひゃっ! 鎧じゃない部分は生身なんだよ〜!」


 足から凍りついているというのに冷たい海に足をつけた時の乙女じみた反応に、拘束の失敗をエレナは予感した。

 だからと言って攻撃を失敗で終わらせる気はない。


 無理やり足を動かしただけで、腰まで伸びていた分厚い氷は簡単に砕け散る。


 その一歩前に踏み出した瞬間に、エレナは思い切り鞭を引いた。重心がバラついたその一瞬で体幹を崩そうとするもララクも残された左足で踏ん張った。


「もらいっ!」


 背後へと一気に駆け出した翔香に警戒し、ララクは必要以上に大振りな動きで凍てつく鞭を振り解いてしまう。

 自分を相手取るのだから渾身の一撃が来るのだろうという奢りが、熱太たちのコンビネーションという本質を見誤ってしまう。


「狙いはそこじゃないよ!」


 背後目掛けて大きく振り込まれたはずの右足は途中で下降し、ララクの膝裏を撃ち抜く。

 無防備にさらしていたその部分に攻撃を受け、ララクは両膝を地面に下ろしてしまった。


「もらった!」


 救援のおかげで呼吸を整えた熱太は八艘の構えから一気にララクの首へと灼熱の剣を振り下ろす。


「がっ!」


 少女の見た目をした存在を切り飛ばすのに抵抗がないのかと言われれば、その刹那に熱太の心の中には迷いばかりが渦巻いていた。


 人間と何が違う、飛彩の友人だ、話せば分かり合えるかもしれない、様々な雑念が刃に乗っていくことを感じていた。


(エレナ達が作ってくれたチャンスを……無駄には出来ん!)


 迷いを振り払うために、相手を無効化する方法として熱太が選んだ方法は「峰打ち」である。

 故にララクの左肩へと叩き込まれた峰打ち確実な手応えがあり、声にならない声を漏らした後は力なく世界に全身を預けた。


 攻撃の威力が乾いた区域に白煙を巻き起こさせてしまい、ララクはその中に包まれて姿を眩ませる。


「やったか……!」


 未だに起き上がる気配もなく、アスファルトや砂が巻き起こした煙は揺らぐこともなく立ち込めたままだ。

 命を奪えずとも意識を刈り取ることは出来たと熱太は一安心する。


「エレナ、翔香……迷惑をかけたな。メイさんに連絡して一時的にララクを封じるぞ」


「ええ」


 だが、受肉した存在が峰打ちで気絶するならば今人類は苦戦するようなことになっていないだろう。

 二人が踵を返そうとした瞬間、翔香が音もなく身体を折り曲げた姿勢で二人の間を横切っていった。


 翔香はそのままロケット弾のように住宅街を打ち壊して吹き飛んでいき、誘導区域の端の封印地帯まで転がっていく。


「なっ……!」


「翔香ちゃん!」


 煙の中からゆっくりと現れたララクは黒い瞳をわずかに細め、身体の調子を確かめながら二人の視界へと躍り出る。

 片手を振り上げたララクは肩口の変化した鎧を忌々しげに押さえつつ、すぐには元のドレスに戻らないことを察してため息をついた。


 ドレスになる前の本来の鎧がその部分だけ露呈したのだ。

 心底忌々しいような表情を浮かべており、黒い瞳を歪ませ眉間にしわを寄せた悪鬼にも見える。ドレスからのぞいていた肩から首にかけての素肌と癒着したように現れたよりは刺々しく竜の鱗のように頑強そうなものとなっていた。


 生命の危機に対し、該当部分の鎧が命を守ろうと元の防御力重視の姿へと回帰したのだろう。


「甘いなぁ〜峰打ちじゃなかったら、傷くらい負ってたかもね」


「抜かったか……」


「でもすごい威力だったわ。ドレスが前の形に戻ろうとしてるくらい……だからこそ許せないの」


 淡々と話しながらも周りを圧倒する展開を発揮するララクに木々は揺れ、いくつかの護利隊員は直接対峙していないにも関わらず泡を噴いて倒れて行ってしまう。


「私、元のすがたが何よりも嫌いなのよね。鎧はゴツゴツしてるし、全然可愛くないんだもん」


 眠っている状態でも災厄に等しい獅子を目覚めさせてしまった。

 士気は瓦解し、熱太もエレナも相手を倒す戦いから生き残るために戦いに変わったと悟る。


「ならば何度でもやってやるまでだ!」


「絶対零度で凍てつくといいわ!」


 一歩ずつ距離をつめるララクの両脇から迫る熱太とエレナは同時に攻撃を仕掛け、ララクの意識を分散させる作戦に打って出た。

 踏み込み切りと鞭の拘束に対し、ララクは両腕を振り上げるだけで対応する。


「だから峰打ちはやめなさいって」


 右手でブレイザーブレイバーを白刃取りするだけでなく左腕に巻きついたフローズンウィップの氷結効果をものともせずにエレナを引っ張り込んでそのまま熱太の方へと投げ飛ばす。


「くっ!」


「きゃああっ!?」


 握られた剣を振り払うものの、飛ばされてきたエレナが熱太へとぶつかって二人は力なく地面に抱擁した。


「無理矢理にでも連れていくわ。その方が飛彩ちゃんも喜ぶでしょう?」


「さぁ、どうかな……!」


 剣を杖にして起き上がった熱太はどこから攻撃が来るかを脳内で予測し、今までの経験則を全て動員して反撃の隙を探った。


 だがその反撃も敵の動きが見えればの話だ。

 気がつけば腹部に叩き込まれていた傘の一撃に視覚よりも先に痛覚が熱太の脳へと敵襲を叫ぶ。


「ぐっ、ぐおぉぉっ!?」


 混乱が大きかったおかげで痛みを痩せ我慢出来たこともあり、ブレイザーブレイバーをアスファルトに突き刺して地面へと前進を縫い付けた。

 それでも数十メートル轍を作って後退させられた熱太は力なく片膝をつく。


「言ったわよね。ララク、展開の能力使ってないのよ?」


 そんなものは戦いをやめる理由にはならないがエレナは一撃で戦闘不能に匹敵するダメージを負った二人を見て、飛彩の到着を求めてしまう。



 あんな化け物を自分たちだけで止められるはずがない、と。

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