飛彩はもはや格の違う存在へと昇り詰め、戦いを援護するなどもはや不可能で。
バトンをつなぎ、飛彩を覚醒させた時点で祈ることしかホリィたちには許されていない。
「能力がいくつあるのか知らねぇが、直接見せてくれた方が楽なんだよな」
「……やはり封印系の能力か。ならば、それを封印するまで!」
黒いオーラが鬼のような形になって浮かび上がるも、それはすぐ白い光を放って霧散した。
「今のが封印のヴィランの力だな」
「馬鹿な! 封印を発動した時点でお前の力は……」
「俺の力は三下から借りた力じゃ止められないぜ?」
腕を捻り上げただけでフェイウォンの両足は宙から浮き上がる。
まるで合気道のように鎧の塊を振り回し、そのままボールのように全力で蹴り飛ばした。
「ぐっ!? 解除の能力を使って……」
空中で姿勢を整えるフェイウォンはさすがだと言わざるをえないが、発動条件に当てはまるものがないことで表情はさらに険しくなっていく。
「そもそも封印なんざやってねぇよ」
吹き飛ぶのが弱まった地点に一瞬で移動した飛彩は、さらに踵落としで崩れゆく異世にフェイウォンを打ち付ける。
残り十分もない崩壊の序曲を早めるような攻撃に、そう時間はかからないと示しているようで。
土の味を思い知らされるフェイウォンは生まれて初めての侮りを感じさせられる。
「こんな感情を教えてくれるとは……実に面白い!」
「キモいこと言ってんじゃねぇよ。クソ老害が!」
もともとフェイウォンは格闘術に秀でていたわけではない。
単純に拳や蹴りをを打ち出す速さと力が展開力で増幅されていることで、頂点に昇り詰めているのだ。
それとほぼ同等の展開力を有した飛彩にとって、フェイウォンの攻撃は充分見切れるものになっている。
「ふっ!」
(ぐっ、頂点に立つ私が何故押される? それに、能力が少しずつ減らされて……)
感じたことのない喪失感と共に多くの能力が秒ごとに消えていく感覚がフェイウォンにはあった。
(これは奴の支配の能力か?)
「もっと見せてくれよ? ヴィランの力、全部使えるんだろ?」
白と黒の競演は次第に苛烈を極めていく。しかも、飛彩の圧倒的優位という形で。
黒の鎧に拳を減り込ますたびにフェイウォンの動きは精彩を欠いていく。
それを端から見ていた四人は付け入る隙のない戦いを眺めつつ、こちらに影響を及ばさないように戦っている余裕さにも驚かされていた。
「くそっ、どんだけ差をつけてくるんだよ……」
「リージェったらまだ、飛彩ちゃんに勝つ気でいたの?」
「この世界を僕が手に入れるために今は奴を利用してるだけだと言ったろ」
「ふふっ、素直じゃないわね。ヒーローが負けるわけないじゃない」
もはや安心感すら立ち込めるギャラリーで、リージェもまたライバルという絆を強く感じながら世界を支配することよりも「飛彩に負けたくない」想いが湧き上がる。
「……負けるわけがない、か」
心の内に湧く暖かな感情。
繋がりを想う中に、自分という命があることを理解したリージェは敵であることを忘れ、称賛する気持ちには素直に従う。
「それは、認めよう」
そして隣で戦いたいと願っていたホリィは、離れて蘭華を守るしかない状況に少しばかり焦燥を覚えていた。
「私たちが入っても邪魔になるわ」
焦りの表情を見透かす蘭華はホリィを見ることなく飛彩の戦いを見つめながら呟いた。
「……わかっています。でも、みんなが繋いでくれたこの場所で何も出来ずにいるなんて」
未来確定の力を燃やし、この場に至るまでの未来を確定させ続けただけでも凄まじい。
それは少しだけ離れてにララクと戦いを眺めるリージェも認めている。
「でも、私たちが介入するタイミングが必ず来る」
見透かすような蘭華は優勢に安堵しつつも、フェイウォンを誰よりも侮らずにいた。
人間の限界で見える挙動全てを記憶し続け、戦うための情報を組み上げていく。
「さっきから君、まるで予言者だな」
「戦えない以上、予測して備えるしか出来ない。でも、その時になったら皆の力を貸して」
臆面もなくリージェにも協力を求める蘭華は、訪れるであろうターニングポイントに向けて拳銃を握りしめる。
始祖は簡単に勝利をよこしてはくれない、と。
「……」
この戦いがどれだけ続くのか、短期決戦になることは間違いと思いつつララクは異世の崩壊が近づいていることを悟る。
「━━もう、十分を切ったわ」
ヴィランしか悟れない終わりへのカウントダウンを二人にも告げるべきかどうか、ララクは逡巡を続けた。
(飛彩ちゃん、早く……!)
その願いに呼応するかのように、飛彩の展開力が鋭い槍のように伸びてフェイウォンの四肢を貫く。
「これで何個吹っ飛ぶかな?」
刹那の間、身動きの取れなくなったフェイウォンの顎目掛けて勢いよく放たれた膝蹴り。
さらに拘束が解かれ、空中に浮いた鎧をそのまま飛彩は駆け上がる。
「バニシングブレイク!」
踏みつけながら昇った飛彩はその場で宙を何度も周り、遠心力を味方につけた踵落しを炸裂させた。
白い展開力を纏った蹴りは、もはや一本の大剣の如き重撃となる。
「ぐばはっ!?」
フェイウォンの黒い展開力が液体のようにあたりに飛び散った。
(なんだ? 痛みは後回しいでいい。しかし、権能が、私から、消えていく……いや、そもそもそんな力は私に存在したのか?)
わからない飛彩の力に対し、フェイウォンに残されたのは展開力を使った回復のみ。
どのヴィランにも与えられているような権能とも言えない基本能力のみが許されているような錯覚に、フェイウォンはより表情を険しくした。
「少しはわかってきたようだな?」
立場は一変し、今度は飛彩が挑発的な姿勢をフェイウォンに見せつける。
「俺の見立てじゃ、残り百を切ったと思うんだがどうだい?」
その数字が最初は何のことかフェイウォンには皆目見当も付かなかった。
だが、即座に自分に残されたヴィランの力が「その数以下」になっていることに気づく。
「っ……!?」
「お前も仮面つけたらどうだ? 焦りが顔に出てるぜ?」
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