【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

決着……?

公開日時: 2020年10月9日(金) 18:02
文字数:4,036

「きょ、拒絶できない!? 僕を狙ってるのに!?」


「ナルシストかテメー。毎回毎回、お前ばかり狙うわけねぇだろ?」


そう、最初から飛彩の狙いは唯一塞いでいない方向に土壁を作り上げることだったのだ。


蹴りの方向を地面へと向け、リージェを完全に包囲する土の壁を完成させる。


さらに唯一塞がっていない虚空の方向へリージェは鋭敏に反応した。


伸びた機銃や、天井に仕掛けられた銃が逃げ場を失った悪しき存在を捉えている。


「一斉掃射!」


塵も残さないという覚悟の黒斗は持てる弾丸の全てを注ぎ込むという勢いで銃を乱射させる。


「ナメないでよね!」


降り注ぐ弾丸の雨を拒絶し、逆に機銃を撃ち壊していく。


それを繰り返しつつも銃弾の嵐に飲まれるリージェは少しずつ押されていた。


物量を侮ったことを認め、より強い拒絶の力を発揮し自身に近づく全ての銃弾をほぼ同時に全て跳ね返していく。


「人間風情が……僕を倒せると思うなぁ!」


意識が外に向いた。飛彩はそれを察した。好機ということも判断できる。


しかし、自分の力ではリージェを倒すことは出来ない。それもまた理解できた。


今自分が放つことの出来る不意打ちは間違いなくただの不意打ちで終わってしまい、有効なダメージをただ与えるだけに過ぎない。



「それじゃぁ、ダメだよな」



右足の暴力本能を解放すればこの封印区域がどうなるか分からない。


しかし、それを使わなければ勝利をもぎ取れない相手に、飛彩は左腕の支配の力を解除した。


「黒斗、本当にやばくなったら俺をあっちの世界に追いやって、入り口を塞いでくれ」


「ひ、飛彩!」


返答よりも早く、赤の奔流が飛彩を余すところなく包み込んだ。


振り抜いた右足が土壁を簡単に斬り裂く。

土壁が割れた瞬間、中にいたリージェはかろうじて紅い脚撃による衝撃波を受け止めていた。


「何いっ!?」


能力が途切れたことで全身に特殊な銃弾が突き刺さっていく。


鎧に大きな衝撃が発生する中、そこから救い出したのは敵である飛彩だった。


「ど、どういう風の吹き回し……」


しかし、リージェにはそれが獲物を奪い取った猛獣の眼光だったと理解する。


変な笑いがこみ上げる中で、勢いよく地面へ叩きつけられたリージェは次々と繰り出されるら荒々しくも流麗な飛彩の拳と脚撃の乱打に地面をボールのように転がっていった。


「ブッ殺ス……!」


「ぐふっ……やっぱり君はこっちの方が向いてるって」


そこから問答は起こらなかった突き出された手刀を拒絶でいなし、すかさず繰り出される反撃に野獣の反応速度で対応する飛彩。


互いにどんどん相手の上に行こうとする攻撃姿勢により速度が凄まじい勢いで跳ね上がっていき、気がつけば黒い軌跡と紅い軌跡しかカメラには映らなくなってしまった。






こうなってしまえば援護も出来ない上に侵略区域を保護するドームが崩壊を迎えるのも時間の問題だろう。


「馬鹿者が……」


暴走する力を忌避していた飛彩。

それに身を落とさねば勝利できないと踏んだことは黒斗にとって想像に難くない。


事実、|残虐ノ王(キリングキング)に全てを委ねれば超速再生が付与されることが判明している。


基本的に白兵戦に有利になることは明白だが、本能だけで勝利できる存在ではないことが黒斗の焦りを加速させる。


「司令官殿、隠雅隊員に当てないように援護は不可能です!」


「わかっている」


戦力差に歯噛みする黒斗はこれ以上の援軍を呼べない現状に嘆息した。


仮に黒斗自身が戦場へ出たとしてもリージェに対する決定打が足りない。


ヒーローの援軍を呼ぶにしても黒斗が要請できるヒーローは限られている。


飛彩のためなら地球の裏からでも駆けつけるであろうレスキューワールドやホーリーフォーチュンが陸路や空路で駆けつける頃にはどちらかの死と広がる異世が決着を物語っているだろう。


「近くのヒーローに応援要請を出すべきでしょうか」


「無駄だ。死体が増えるだけだろう」


動揺が広がると共に愚鈍な案が黒斗の耳に何度も投げかけられた。


現実から目を逸らすことを呟いて心を落ち着けたいのだろう。それら全てを捌きながら黒斗は全力で頭脳を動かし続けた。


(考えろ、落ち着け……何か方法が……)




その時、中央制御室の自動ドアが静かな駆動音と共に開いた。誰もその場に注目していない中、聡明な高い声が黒斗の耳を撫でる。



「そんなに考え込んでたらおじいちゃんになっちゃうわよ?」



驚きながら顔を向けると、より驚愕が現実味を帯びていき余計に心臓が早まった。


ありえない、この場所は誰にも告げずにきたのに、と脳内に言い訳が過ぎる。

真っ白な白衣と緑がかった髪を揺らすその女性は優雅な様子で部屋へと入ってきた。



「どうして、ここに……?」








一方、一進一退の攻防が続く区域内。


想像以上の格闘能力を誇る飛彩にリージェは瞠目しつつも能力を用いて的確に飛彩の攻撃をいなしていく。


「う〜ん、やりにくいねぇ君!」


「黙レェェェェェェ!!!!!」


何度も放たれた拒絶の力に対し、飛彩は純粋な膂力で争い続ける。


動きを止めようとしても無理やり逃げることの出来る飛彩に対し、リージェは防御でしか能力を有効に使えずにいた。


「君、痛覚なくなってるの? イカれちゃった?」


「オ前を殺セルなら、どうなッテモ構わナイ!」


以前よりは自我が残っているようだが、相手を殺すという純粋な戦闘本能についてしか飛彩は考えられていなかった。


攻撃の余波で侵略区域を守るドームが崩れるなど思考の片隅にも置かれていない。


「ブッ殺す!」


「あははっ! やってみせてよ!」


能力で縛りきることが出来ずとも、リージェもまた飛彩に勝るとも劣らない格闘技術を持っている。


そして冷静に戦いの対局を見据える頭脳が残されていた。


「オラァァァァァァァァ!」


「うあぁっ〜!」


わざとらしくリージェが逃げ惑ったことで飛彩の蹴りは封印のドームに大きな亀裂を作り上げる。


そのような攻防を何度も繰り返していくことでリージェはドームを崩壊させることに徹することにしたのだ。


リージェは狡猾ではないが飛彩を部下にすることも諦めず、領土を増やすことも諦めてはいない。


「このままじゃこの場所壊れちゃうよ〜?」


「知ルカァ!」


追い詰められたフリをして一番亀裂が大きくなっているところへ攻撃を誘い込む。


そこへ飛彩は全力の前蹴りを突き出した。


砕けちる音と共に、外の光がとうとう区域の中へ差し込んでくる。


「あ〜らら」


口角が上がるのを抑えられないリージェはわざとその場に留まり、飛彩の攻撃を誘い続けた。


自身の防御に能力を使うことを徹すれば膂力と速度が上がった飛彩とはいえ、攻撃を捌き切れない相手にはならない。


「死ネェェェェェェェェェェェェェ!!」


機銃掃射のような蹴りの嵐がどんどんとドームを打ち壊していく。


リージェは自身に攻撃が当たらないように拒絶する力を使い、攻撃を滑らせていくも凄まじい勢いで加速していく飛彩の蹴りがその鎧を掠め始めた。


「き、君の方がよっぽど化物だよ!」


目論見ごと攻撃の嵐に飲み込まれたリージェはその身に蹴りを叩きつけられ始めるも強引に拒絶し、飛彩を大きく吹き飛ばす。


「はぁ……はぁ……狂犬だな、君は」


そう比喩しながらもそんな生優しいものではないと唾を吐くリージェ。


勢いを少しでも軽減しなければ戦いにくいと今度は受けではなく攻めに回る。


すでに目的の封印の破壊はほとんど達成したようなもの。


漏れ出した異世の瘴気があればそちらから侵略を開始することも可能なのだ。


「飼い慣らしてあげよう!」


再び拳と脚撃が苛烈さを増し、互いの生身の部分に生傷が増えていく。


飛彩の大振りな回し蹴りを拒絶し、関節へ拳を打ち込むが痛みを無視する飛彩は拒絶や敵の攻撃すら意に介さず自身の攻撃を振り抜いていく。


「なっ!?」


堅牢な鎧に亀裂の走る音が響いた。


それが信じられないことだとしても地面を転がされたことで単純な膂力では敵わないと現実が理解させようとしてくる。


それがどうにも気に入らないのか、青筋を浮かべながらすぐに体勢を立て直して飛彩に突貫した。


「あーやめやめ! 負けっ放しでいられるほど、大人じゃないんだよね!」


回避と防御を拒絶させられた飛彩は、全ての攻撃を余すところなくその身に受け入れる。


血を吹き出しつつも能力で即座に回復する飛彩はもはや生き地獄とも言える状態だが、一切戦意が衰えることはなく。


「殺ス!」


なすがままだった中で無我夢中に伸ばした腕がリージェの拳を受け止めた。


拒絶をすり抜けたことに驚愕したのも束の間、今度は眦を咲いた飛彩が拳と蹴りの連打でリージェを吹き飛ばしていく。


殺風景な景色がリージェの視界を駆け巡ったと思いきや、飛彩は一瞬でその背後へと回り込み拳を振り下ろす。


さらに紅い閃光がその落下地点へ先回りして針山のように脚撃を繰り出した。


「ぐふっ!?」


背面へ反るような形になったリージェの足を掴み、再びドームへと叩きつける。


一糸乱れぬ攻撃はまさに純粋な殺意だった。


壁に叩きつけられ、視界に火花を散らしたリージェへと渾身の膝蹴りが叩き込まれる。


巨大な穴が開いた封印区域から大量の異世の展開が漏れ出していく。


「ウオォォォォォォォォォ!」


「は、ははは……バカだねぇ。こんなことしたら僕らが侵略しやすくなるだけなのにさ」


広がる異世の展開に合わせ、いくつもの次元の裂け目が森林地帯に発生した。


その光景を見ても何も思わぬ飛彩だが、倒れていたはずのリージェに背後をとられ微動だに出来なくなる。


「その心臓の鼓動を拒絶させようか……こういうのは時間がかかるから、やりたくなかったけど君は特別だ。飼いならせない獣は処分するしかないね」


喉元に鋒を突き立てられた時のような気迫。


戦いの中で恐れとは何よりも重要な事項となる。


本能のままに突き動かされる獣でも恐怖を感じて動けなくなってしまうのだから。


「グゥッ……!?」


ただ背中に手を当てているだけ。


それだけで飛彩の動きを縛り上げる。

拒絶とリージェ自身の能力を考えれば容易いことなのかもしれない。



「じゃあ、さよならしよっか?」



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