誰もホリィを止めることは出来ないまま、カエザールは登壇していく娘を目の当たりにした。
姉妹で止められなかった時点でカエザールしか止められない進撃なのだ。
声を張り上げるわけにも、無様に駆け寄るわけにもいかずゆっくりと歩むしかない。
「皆様、本日はお集まり頂き誠にありがとうございます」
ヒーローとして人前で話すことはあっても、家族の会社関係の人の前に出ることはなかったようで若干の緊張が感じられる。
カエザールが近づいてくることに気づき心拍数が早まっていく。
(もう、引き下がれないんだ。ここで失敗するわけには……)
家族の鎖を解いたとしても、縛られていた痕が消えるわけではない。
過去の恐怖が脳裏にフラッシュバックしていく中、落とした視線が飛彩と交差する。
その時、言葉は交わさなくともホリィは気後した心に再び意志の力が働いた。
そこからは流れるような挨拶を続け、センテイア家にふさわしい姿を衆目に見せつける。
「——さて、皆様も私がホーリーフォーチュンとして活動していることはご存知のはずです」
飛彩とカエザールは同じくして目を細める。
ヒーローを選ぶのか、家族の使命を果たすのかそのどちらかをホリィは今選ぼうとしているのだ。
「ヴィランの侵攻は苛烈さを極め、今も余談を許さない状況です。だからこそ私は奪還作戦を提示しました」
ざわめく会場は記者会見とは違い野次を飛ばすものはいなかったが、不安そうな声が波及していくのは見て取れた。
ヒーローの戦いをありがたがりつつも、自分たちに被害が及んで欲しくないという市井の人々は悪でもなんでもなく弱いだけだ。
そして多数の弱さというものは得てして強きものの足を引く。
「——皆さんのお心にもあるかもしれませんが、奪われた部分は明け渡して下手に刺激せず防衛に努めるべきだという声も上がっております」
その意見はカエザールもほぼ同意見らしく小さく頷く。
危険を犯してまで何もかも守ろうなど、人間には過ぎたことなのだと感じているようだ。
現にセンテイア財閥には侵略区域を奪い返したところで何の利益も出ない。
「私は奪還することも正しいと思います。ただ防衛に徹することも間違いだとは思いません……事実、どうするべきなのか非常に悩みました」
どちらの結論を選んだのか。
それをカエザールは固唾を飲んで見守る。
飛彩はどんな結果だろうと構わないと少しリラックスした様子だった。
どんな結論に達しようとホリィはホリィであることに変わりなく、飛彩の大切な仲間だからだ。
ホリィの結論に至るまでの時間は、ほんのわずかなものだったが頭の中では色々な想いが錯綜して言葉を紡ぐのに時間をかからせている。
(私はヒロインになりたかった)
だからこそ、飾らない言葉で全て話そうと決めた。
(この窮屈で嘘にまみれた鳥籠から連れ出してくれる英雄を……でも、今は違う!)
そして本当の意味でホリィがヒーローになる瞬間まで守り抜いた飛彩は、言葉を発する前から全てを察し、あふれる嬉しさと共に笑いかける。
「今日こそ、お前が本当に変身した日だ。ホリィ」
その言葉に勇気という燃料を与えられたホリィは会場のどこを見るでもなく、カエザールやマリーアジュたちを見つけて語りかけるように叫ぶ。
「ヒーローだからどうしたいかじゃない! センテイア家の次女だからどうしたいとかじゃない! 私は私として道を切り拓く!」
だが、この言葉はセンテイア家のヒーローとして衆目へと届けられる。
カエザールたちに自分の本心を伝えつつ、対外的にはセンテイア家の決定として伝えるという強かな思惑にセンテイアの一族は苦悶の表情を浮かべさせられた。
(ここで殻を破るか、ホリィよ……)
感じさせられた娘の成長を素直に喜べない状況まで追い込まれたことを、むしろ喜びたいくらいに思えるカエザールだが計画が狂うことへの怒りは絶えず燃え上がっていく。
「だが、お前は人を導く存在ではない。私に導かれる者だ」
思い描かれていた予定からは外れたものの、今からカエザールが壇上に登りマイクを奪ってしまえばいくらでも軌道修正は可能なのだから。
しかし、今のホリィを守るのがヒーローを守ることを生業とする飛彩の務め。
素早く人混みの中を泳ぎ、護衛に混じるかのようにカエザールの背後を取る。
「お父さんよぉ、もう少し黙ってちゃくれねぇかい?」
「——貴様か、ホリィに肩入れしているのは」
カエザールもまた表と裏の社会を牛耳っているだけに手練れの護衛や殺し屋を大量に見てきた過去がある。
その中でも背後をとった飛彩が別格であることに気づき、もはや一歩も動けない。
「黙って聞いてな」
気づきもせずホリィの演説に聞き入っている連中を全て解雇することを誓いながら、二人はホリィの言葉へと耳を向けた。
「そうだ。自分で切り開け……お前は未来を決める能力に選ばれたヒーローだ」
その言葉に呼応するかのようにホリィは決意の言葉を高らかに宣言する。
「私は決めました。ヒーローでもセンテイア家の者ではなく、私個人の意志で世界を救うと!」
その迷いを断ち切った宣誓は、ほとんどのものには当たり前の言葉に感じられただろう。
「私の友人……いえ、大切な人は言いました。逆に異世に乗り込んでこちらの世界との関わりを断つようにしたいと。今の私の夢は、それを一緒に成し遂げることです」
奪還作戦のその先を語るホリィに会場の期待は高まり、永遠に訪れないと思われていたこの世界と異世の関係に終わりを感じさせる。
まさにホリィは人々の希望となる姿を示すことが出来たのだ。
そして、家族の呪縛からもヒーローの使命からも解き放たれた少女はホリィ・センテイアとしてすべきことを見出すことが出来たのだ。
「ご来場の皆さん、拙いお話に耳を傾けてくださってありがとうございます。どうかこの会を終わりまでお楽しみください」
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