「ど、どこにそんな力、が……!?」
拮抗しているように見えるが、虹色の展開力がフェイウォンの右拳に亀裂を入れていった。
抗い黒い展開力で拳の勢いを増させるものの、腕が半分に切り落とされるのも時間の問題だろう。
「俺とお前は同じかもしれねぇが全然違うんだよ!」
迸る光の隙間から見えた飛彩の眼光に、フェイウォンは恐れるように無理やりに刀を弾く。
無理やり振り上げた右拳だが、飛彩の体幹は崩れずに次の攻撃に移るべくは顔の脇へ刀を構える。
対するフェイウォンは悪い足場と強引な振り払いにより、大きく体勢を崩していた。
「俺はヴィランだ、人間だ……その全てを引っくるめて隠雅飛彩だと、みんなが言ってくれた」
仲間が示してくれた道を、飛彩は迷うことはないだろう。
故に、虹色に迸っていた光は飛彩に最後の一太刀を譲るように白く輝く刀身へと変わる。
「俺が何者かは関係ないんだ。俺がどうあるべきなのかは仲間が示してくれた!」
「仲間仲間と言わせておけば!」
飛彩が静かなる展開力に対し、フェイウォンは力任せな剛の展開力と言えよう。
その力の噴出は凄まじく、崩れた足場が再構築されるほどだった。
飛彩のアドバンテージが消えるものの、刀を握る飛彩は動揺を見せることなく相手の命を狙っている。
「頂点立つ者に全て支配されていればよいのだよ!」
「俺は俺として……お前を殺して全てのヴィランを消すだけだ!」
白と黒の展開力は轟音を上げて互いの一撃を打ち砕かんとぶつかり合っていった。
「頂点に立つ私は、負けぬ……!」
「なら俺はその頂をなかったことにする!」
互いに一歩も譲らぬ戦いの中でも、飛彩はフェイウォンの心を掴めずにいる。
表層は殺意に溢れているものの、拳を幾度交えても頂点に立つ始祖の真意は読めずにいた。
最初こそ力の差かと思っていた飛彩だが、今もなおそれは続いていて。
(こいつ、本当に本気なのか?)
技の威力も自身の最大を発揮していると飛彩は自負している。
そんな斬撃と拮抗する拳を繰り出しておきながら、相手の攻撃に何の感情もこもっていないなどあり得ない、と。
「ぬぅぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
結果。その邪念が、勝負をわけてしまう事になる。
(しまっ━━)
刀に深刻なダメージを刻まれる前に飛彩は後方へと跳んだ。
「どうしたぁ? キレがなくなったが?」
まだ飛彩の後ろには余裕のある足場が残っているものの、フェイウォンの拳から放たれた波動を受け入れるほどの耐久力があるわけでもない。
飛彩は波動に対して刀で軌道をずらしつつ回避を続けたが全力のぶつかり合いでいまだフェイウォンに及ばないことが精神的なダメージとして残る。
(余計なことは考えるな、今はあいつを倒すことだけ……)
「何が仲間の意志だぁ? ふざけるな!」
砂煙を風圧で吹き飛ばし、追撃の飛び蹴りが飛彩に襲いかかる。
巨大な槍のような鋭い脚撃を回避したものの、流れるような肉弾戦への移行に飛彩は防戦一方になるまで追い詰められてしまう。
(刀で守れる、速さじゃ、ねぇ━━!)
「ふぅん!」
とうとう上回られた速度により、飛彩の背中へと拳を振り下ろされる。
鎧がなければ確実に背骨が折られていたであろう鉄槌に足場の浮島も半分に割れてしまった。
「がはっ!」
「何があと少しで私を倒せるだ? 調子に乗るなよ」
鈍い痛みはありつつも、展開域で割れた浮島を繋ぎ止める。
そのまま身体を反転させた飛彩は未だに見下ろしているフェイウォンの顎へとカウンターの一撃を放った。
「遅いわ」
「何っーー?」
足場の修復をしながらの拳は精彩に欠けるということか。
むしろ反撃を待っていたようなフェイウォンの右拳に威力は全て受け止められている。
「仲間だなんだと言いながら結局は互いを利用し、力を借りているだけに過ぎぬのだよ」
「知ったようなこと言いやがって!」
左手に握っていた刀での斬り上げは鎧のなくなった上半身の側面に叩き込まれるものの刃はまるで石に当たったかような衝撃を逆に飛彩へ伝える。
(嘘だろ、さっきまでの切れ味はどこに……)
「分かっただろう? 絆だなんだ言いながら力を借りているだけに過ぎないんだよ」
事実仲間がいなくなっただけで飛彩の攻撃は通らなくなってしまった。
先ほどまでの攻勢はヒーロー全員がいたからなのかと飛彩の表情に陰りが見える。
今だけは己の力を疑ってはいけないと言うのに。
「正しいのは頂点である私だと教えてやる!」
手動で飛彩の手から刀が叩き落とされる。
墓標のように突き刺さった刀を拾う隙もなく、フェイウォンの蹴り上げが飛彩の顎に命中した。
「く、そっ!」
身体は飛ばされても意識は飛ばされるなと明滅する視界で飛彩は歯を食いしばる。
「仮面は捨てなかった方がよかったな」
そんな嘲笑と共にフェイウォンは浮かび上がった飛彩の足首を掴み、地面へと叩きつけた。
「がはっ!?」
どんどんと壊れていく浮島だが、フェイウォンの展開域により再びそれらは元の位置に戻っていく。
狭間の世界に落とすことは簡単に勝敗を決するものであるが、フェイウォンにとって唯一頂点に肉薄する相手をそのようなつまらない方法で殺す気はないのだろう。
地面で悶える飛彩に対し、フェイウォンは追撃もせずにただただ見下ろした。
それは、どうすれば絶望の中で飛彩の息を止められるかを考えているに違いない。
「結局、互いの能力で力を増長させることを絆だ想いだと騒いでいたんだよ」
「うる、せえな……テメェこそムキになってんじゃねぇよ。友達もいないくせに」
ごろりと仰向けになった飛彩は挑発的な笑みを浮かべている。
いつもの調子を失っていないことが戦いの中でどれだけ重要だろうか。
フェイウォンが勝ち方に拘るだけに飛彩にも回復する時間が与えられたも同然で思考も落ち着いていく。
見下ろすフェイウォンは感情の籠らない瞳で不気味な様相となっていた。
「はっ。頂点にそんなものは必要ない」
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