「それは都合の良い解釈すぎやしませんか?」
「ま、どっちでも良いが……実際バレなきゃ何やっても咎められるこたぁねぇ」
苦笑するカクリだが、飛彩はこの場のメンバーで充分に完全犯罪を行えると宣言する。
ハッキングと狙撃を得意とする蘭華、把握していれば、どんな場所でも送り届けることの出来るカクリ、常人離れした身体能力を持つ飛彩の三人ならばどんな警備があっても潜り抜けることができると。
「協力してくれるよな?」
一人で飛彩が暴走して逮捕されたりするよりかは自分たちが参加して気の済むようにさせるべきだと視線で会話する蘭華たちは机に突っ伏したり頬杖をつきながら気怠そうに答える。
「やるわやるわ。アンタが暴走したら止められないもの」
「協力するだけですからね」
作戦に付き合うのは問題ないが、恋敵に塩を送ってしまうことで損な役回りになっていることが気がかりな二人。
それでも友人が暗い気持ちになっているのならば放っておくわけにはいかないと気合を入れて飛彩を見やる。
「報酬は二人だけで遊びにいくこと、良いわね?」
「カクリも同じもので!」
「えぇ〜。めんどくさ、一緒の日にしてくれよ」
「「別々で!!」」
凄まじい剣幕で迫られた飛彩は黒斗の説教よりも苦々しい表情を浮かべ、縮こまりながら了承するのであった。
この隠密作戦によってホリィとのデートの件が忘れられているという大きな命拾いに飛彩はまだ気付いていない。
場所を飛彩の自室へと移し、作戦会議を始める一同。
ここならば盗聴などの心配もないだろうというカクリの気遣いだが、単純に飛彩のいえに久しぶりに行きたかったという不純な動機である。
「へへ……飛彩さんが使ってるコップ……」
「悪いけど、それは飛彩の家に置いてる私のだから」
「はぁ!? なんでそんな恋人みたいなことしてるんですかぁ!」
「家が隣だと、こういう風にしておいた方が便利なこともあるってわけ」
ホリィに負けず劣らずの進展を見せている蘭華にカクリは額をぶつけ合って今時不良も行わないメンチの切り合いにまで発展していた。
「ったく、飲み物や菓子だせって言われてもそんなに常備してねぇよ」
文句を言いながらも近くのコンビニまで一走りしてきた飛彩が帰宅すると二人はにっこりとした笑顔で迎え入れた。
「ほら、飲め食え。さっさと始めるぞ」
六畳の居間部分はミニリマリストを体現しているが如く、テーブルと必要最低限の家具、そしてテレビだけが置かれている。
ちなみに隣の寝室にもベッドと筋トレ用品が置いてあるだけだ。
中央のテーブルに乱雑に置かれたスナック菓子や甘い炭酸飲料を配った飛彩はタブレット端末を持っている蘭華へと視線を送る。
「もうホリィの家の間取りは調べておいたよ……ちょっと面倒だけど」
ただカクリと喧嘩していたわけではない蘭華は、お菓子をかき分けてとあるマンションの図面を差し出した。
「都会にクソデケぇマンションなんか持ちやがって……で、何階だ?」
「全部」
その一言に飛彩とカクリは言葉を失うが、ホリィの家が財閥であることを思い出して呼吸を整える。
「こういうマンションや別荘を何個も持ってるみたいだけど……今、ホリィたちが家族で住んでるのは港区にあるリード・ヘブンっていう四十階建てのビルね」
「デカすぎてピンとこねぇ。ただホリィがどこにいるのか分からないってことだけは分かったぜ」
「カクリのワープもそう何回も使うことは出来ません。曲がりなりにもヒーロー本部のスポンサーですから飛彩さんやカクリの情報が流れてる可能性だってあります」
力任せに戦い、後始末のことを一切考えなくても良いヴィランと違って隠密作戦は面倒なことが多く、情報があまりにも少ない。
そして敵は自分たちの情報を把握しているかもしれない、と明らかに不利な状況だ。
「個人領域を使って透明になり続けるってのはどうだ?」
「それは一番警戒されてるはずよ。少なくともホリィが護利隊のことを認識した時から、家族にも情報が流れたと考えるべきね」
「かぁー、どうすりゃ良いんだよ!」
私服に着替えていた蘭華は薄手のジャケットからメガネを取り出し、髪を後ろに纏めた後に装着した。
テーブルの下の足をこっそりとあぐらにし、もう一つノートパソコンを背後から取り出す。
「一人はどこへでも侵入できる能力を持った女の子。一人は人類最強の脳筋……その手札で勝つ方法を作るのが私よ」
例のマンション、リード・ヘヴンにも穴はある。
そこで働く従業員などの口は封じても意識までは封じることは出来ない。
小さな情報から大きな情報につながるものを全てまとめていき、ホリィたちの住む階層を割り出していく。
「ん〜、少なくとも二十五階くらいまでセンテイア財閥のオフィスみたいね……」
「はっ、通勤時間なしで会社に行けるなぁ!」
どうでもよい飛彩のツッコミを無視して蘭華は他の情報を探っていく。
センテイア財閥に潜り込んだ自己顕示欲の高い孤独な人物が間違いなく何かを流していると、数多のソーシャルネットワークサービスの海を泳いでいく。
「……いた。無駄にセンテイアに就職できたことを自慢する馬鹿を」
オフィス勤務のやつの情報を知ったところで何があるのかと思いきや、それより上の改装を清掃員やホテルマンのような人物を検索していたのだ。
「さすがに目につくところで詳細をつぶやいたりしないでしょうけど……」
その短い一瞬のうちに、蘭華はその人物のスマートフォンの情報まで全て引っこ抜いてしまった。
「メールとかアプリとかで同僚と愚痴とか言い合ってるに違いないわ……そこにヒントがあるはず」
数分も経たないうちに情報の核心に迫っていく蘭華の情報収集能力に驚きを隠せない二人。
特に戦場を駆け回るばかりで援護役の仕事をちゃんと見たことのない飛彩は驚きながらも蘭華の異質な強さに感動を覚えるほどだった。
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