【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

拒絶と再生

公開日時: 2020年11月15日(日) 20:54
文字数:2,016

「ふざけてるね、君は……」


 薄く引き伸ばした展開力で生身の部分を覆うもリージェにもはや余裕そうな笑みを浮かべる余力はない。


「ちょっと面食らったけど、もう油断はしないから……!」


「そうか、まあ関係ないけどよ」


 人としての精神力、ヒーローとしての展開力、それら全てが満ち満ちた状態の飛彩は穏やかな様相となっていた。

 自身の能力に怯えた情けない姿でもなければ、恐怖を振り払うように自棄な目標へ一心不乱に走り続けた危うさもない。


「あれが……」


「飛彩、なの?」


 黒斗や蘭華ですら見まごうその姿に、体力の回復以外にも心の安心が配られた。

 この飛彩になら全てを委ねられると。


 だが対峙するリージェはどうだ。

 戦意がないようにも見える飛彩に対し、これほど心が震えるとは思っていなかっただろう。

 もはやリージェには飛彩が自分を見据えて戦っていないようにも思えていた。


 それほど飛彩には戦意の欠片も存在していない。故に恐怖が輪にかけて増していくのだ。


「……どうした? 来ないのか?」


「うるさいなぁ……余裕ぶりやがって! 結局お前も群れなきゃいけない雑魚だ!」


 異世化した部分や、ドームから漏れ出る異世そのものをリージェが一気に吸収し、自身の半径数メートルに凝縮させる。


「リジェクト・ワールド……僕への敵意を全て拒絶し、任意の対象に反射させる! これで君の仲間も手出しできない! 群れても雑魚は雑魚なんだよ!」


 その展開領域を可変させながらリージェは巧みな接近戦を演じた。

 攻撃するときは一気に展開を収縮させて拳に拒絶能力を付与する。

 飛彩がうまく凌ぎ切り反撃に転ずると再び展開を大きく貼り直し、そこでも飛彩を地面へとめり込ませた。


 しかし、飛彩はもはや勝負はついたというような穏やかな瞳でリージェを見据える。


「ああ。俺たち守られないと戦えない弱者かもしれねぇ」


「気に入らない。君みたいなやつが一番気に入らないんだよぉ!」


 最強の拒絶力を両手に携えるリージェ。

 球体型に膨らんだ拒絶の展開が超速回転し、今にも飛彩目掛けて飛び出そうと震えている。


 攻撃が大きく弾かれる性質を持つその拒絶球に挟まれれば最後、擦り切れるまで自身の攻撃の中で命を減り潰すことになるだろう。


 完全な一撃必殺の攻撃を向けられてもなお、飛彩の眼差しに畏怖が宿ることはなかった。

 一切隙のない構えのまま右足により深い緑色のオーラが間欠泉のように吹き出していく。


「でも、それでいいんだ。一人では無理なことも仲間と一緒なら出来る……俺はそれを認めなきゃならなかったんだ!」


 全身にそのオーラを纏わせた飛彩は、あふれるその威力の反動に耐えるために右足、左腕と全ての力を解放する。


 力を纏わせたまま走るだけで自身の展開力に吹き飛ばされそうになった。


 しかし飛彩は歯を食いしばり、一歩また一歩と速度を上げていく。


「これで終わりだ!」


 対するリージェもまた全ての展開力を載せた二つの球体を携えた拳で飛彩を上下に挟み込むように殴りかかる。




「リジェクトール! ハンマー!」




「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」




 竜巻のように荒れ狂うオーラを纏わせた飛び蹴りがリージェの拒絶球とぶつかり合う。

 そのぶつかりあった余波は軽々と樹々をなぎ倒し、満身創痍の仲間たちを地に伏せさせる。


「なんて量の展開だ……!」


「飛彩、頑張って!」


「ここで負ければ男が廃るぞ! やれ!」


 叫べる者たちは飛彩の勝利を願い、力の限り叫んだ。

 声を出す力がない物も瞳を閉じて勝利を祈った。


「な、何故だ! 何故拒絶できない!」


「俺たちの戦いは展開力で決まるんだろ? お前の展開が弱いんじゃねぇのか!?」


「うるさい! 僕が人間に遅れをとっていいはずが……いいはずがないだろ!」


 そこで均衡が少しだけ崩れた。

 飛彩の展開が拒絶の中で押しつぶされ始めたのである。

 その窮地を感じとった一部のヒーローは一瞬、蒼白とした気分になった。


 だが、ホリィだけは違った。

 未だに彼女が放ったビジョンははるか頭上で打ち上げられているリージェを映している。

 なぜ未来の確定が訪れないのかと焦っていたホリィだが、全てはこのためだったのだ、と瞳を閉じて深く息を吸う。


「勝って! 飛彩くん!」


 応援も声援も無意味。飛彩はかつてそう思っていた。


「フッ……!」


 ところが今はどうだ。

 四肢に力が漲り、今にも押しつぶされそうになっている左足が勝利できると吠えている。


 心の奥底に燃料がどんどん投下され、ただ前だけ見ていればいいと飛彩はより左足を突き出した。


「後ろを守ってくれる仲間がいる、それだけで俺は負けねぇ!」


「そんなのは雑魚の言い訳だよ! このまま擦り潰れちゃえ!」


 二つの攻撃が再び拮抗する中、飛彩は新たなる能力を解放し緑風を吹き荒れさせた。


 生命ノ奔流ライフル・ストリームが司る再生と癒しの力。

 無尽蔵の回復能力は身体や精神力だけではない。


 今、飛彩のが必殺技として放っている螺旋の展開力を纏わせた貫通蹴り。


 それをあえて飛彩は拒絶させ、必殺の一撃を崩壊させる。

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