丸い眼鏡がわずかに理知的な雰囲気をララクに付与したが、美貌は変わらず新しい一面を見たかのような感じがしてしまい、再び頬を染める。
「い、いいんじゃ……」
「似合ってる似合ってる!」
「カクリもそう思います!」
「飛彩くんは眼鏡女子も好き、と……」
感想の言葉どころかララクを飛彩の視界から遮るように人混みを作った蘭華たちに気圧されて、飛彩は何も言えなくなってしまった。
少しでも褒めようものならボコボコにされると野性の勘がそう囁いているのも感じ取りつつ。
「……」
好きだなんだと言われたせいでララクをついつい視線で追ってしまう飛彩だが、目が合いそうになるたびにサッと視線を逸らした。
その先の花壇には見目麗しい花々が咲き乱れており、丁寧に切り揃えられた街路樹などから手入れを怠っていないことが伺える。
気が滅入ってしまう入院生活に少しでも華やかな気持ちを持って欲しいということなのだろう。
「わー、やっぱりこっちはカラフルでいいわね! あっちは黒一色で……」
「そういうこと言うなって言われたばっかりだろお前」
口を右手で塞ぐ飛彩の凄みに圧倒されたのかララクはそのまま首を縦に振り回して両手で口を噤んだ。
軽々と異性に触ることはない飛彩がララクに対してはかなり心を許しているらしい。
そのことが少女たちにとっては体調のことよりも、気になって仕方ないようだ。
隠れて聞いていたララクへの気持ちについて、蘭華がたまらず話題に切り出してしまうほどに。
「そ、それで好きかどうかって! 実際のところどうなの!? さっきまでそんな話してたんでしょ!?」
「なんだよ、そんなに躍起になるんじゃねぇって」
「なるわよ! 全人類皆気になることでしょ?」
「大袈裟か!」
「さあ、飛彩さんどうなんです?」
「わ、私も気になるなぁ……」
「わかった。わかったから! えっと……俺にとってララクは大事な仲間で、なんか気になっちまうのは……」
ゴクリと唾を飲む女性陣。
口を塞いでいるララクも潤んだ瞳で飛彩を見つめている。
飛彩もまた自分の感情を紐解こうと必死に脳内を整理した。
そもそも年頃の男子の時点で簡単に意識してしまうものの、ララクに対する「守りたい」や「放っておけない」のような気持ちは何なのかと自問自答する。
回答を待つ熱視線を受けながら飛彩は頬をかきつつも言い表すならこれしかない、と一言だけ言葉を漏らした。
「——妹、みたいだから、かな?」
頬を膨らませるララクと安堵の表情を浮かべる三人。
顔を見合わせた女性陣はララクに対して憐憫を含んだ視線を向ける。
恋愛という乙女の戦いにおいて、妹視というのは最も距離が近いにもかかわらず、眼中にないとも言える凶悪なポジションだ。
もちろん飛彩には妹系が好きという嗜好は持ち合わせていない。
歳の離れた妹に降りかかる火のこを振り払う頼れる兄が如く飛彩はララクに世話を焼いてしまうのだ。
「なんか、ごめんね」
「強く生きましょう」
「今日の夕ご飯に出るデザート、私の分もあげますから」
「何その急な気の遣い方ー! 余計傷つくよ!」
妹発言は不味かったのか、と顔を曇らせる飛彩へと真剣な表情で詰め寄るララクは両手を自分より背の高い相手へと伸ばした。
「お、おい? 何すんだよ?」
掌が置かれた両頬がむにっと変形する中、瞳をうるませたララクは一切の視線を逸らさず高らかに宣言する。
「なぁーにが妹よ! 絶対にララクに夢中にさせて、その発言を撤回することになるわ!」
「はいだめー!」
手刀で二人を引き剥がした蘭華は、ララクには負けないと笑いかける。
対等な恋のライバルとして見れる三人とララクの間には一切の遠慮もなければ人とヴィランという垣根も存在しないのだ。
「私も負けないから! 飛彩も覚悟しなさいよね!」
「ん? あぁ……って何を?」
飛彩にもわかるように事細かに説明してしまえば告白も同然なので、あえてそれ以上は何も言わなず女性陣明けで歩き出した。
「飛彩はいい加減、女心も勉強して」
「でも、誰かれ構わずは、私もよくないかな〜って思うなぁ」
去り際に飛彩への忠告を残す蘭華とホリィ。
むしろこの恋の騒動でどんどん深まっていく絆にむしろ飛彩も嫉妬心を覚えてしまうほどだ。
「ま、よくわかんねーが……助けたことはやっぱり間違いじゃなかったな」
笑い合って歩いている四人は昔からの付き合いがあるようにも思え、一切の遠慮もない完璧に気を許し合った仲のようになっている。
ララクの心からの笑みを見た飛彩もつられて笑みを溢す。
「どんな事が起きても後悔はしねぇ。世界もあいつらも守る。これからもずっと……な」
「飛彩さーん。置いてっちゃいますよー」
「あのね、蘭華とホリィが飛彩ちゃんのここがかっこいいて、むぐぐ……」
「ララク? そういうのは女の子だけで喋るものなの。わかる?」
「あ、あはは……と、とにかく飛彩くんも行きましょう? こっちのお花も綺麗ですよ」
よくわからない言葉も聞こえていたが飛彩は、今行くとだけ呟いて彼女たちの後ろ姿を歩きながら追っていく。
自分が守り、掴み取った今をがどうにも飛彩には誇らしいようだ。
そんな彼女たちの笑顔を守ることが飛彩の中でも大きな原動力になっていることは、未だに本人も知らぬところなのであった……
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