【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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コンティニュード・ダークネス

公開日時: 2021年3月8日(月) 00:04
文字数:2,351

「——覚めてるよ。ずっと、ずっと前から」


 だが、ホリィが信じたのは「こうあってほしい」という楽観的な未来に過ぎない。


「!?」


 二人を中心に広がっていた閃光が止み、異世に侵された大地や建物が完全に消滅してホリィたちを中心に大きなクレーターを作り上げる。


「ホリィ!」


「まさか、ここまでの無茶を……!」


 盾を投げ飛ばす刑はちぎれた尻尾の鎧を見つめ、勝利を確信したい気持ちに初めてなれた。

 飛彩も同じく今ので決着がついていてくれと願ってしまうが二人とも「勝った」と確信できないことがララクの脅威を物語っているだろう。


「ホリィ! 無事か!」


 数メートル下にいるはずの二人を覗き込むとうつ伏せで倒れるホリィと所々鎧が落ち、再び顔を覗かせているララクと視線が交差した。





「ララクの心配はしてくれないの?」





「嘘だろ……」


 ホーリーフォーチュンの放つ浄化の光はヴィランキラーと言っても過言ではないほどに強力なものだ。

 にも関わらず、鎧がいくらか剥がれ落ちただけで柔肌は若干煤けた程度のララクは余裕な態度を未だに崩さない。


「でも、ホリィちゃんはすごいね。ララクの龍の鎧を簡単に壊しちゃうんだもん」


「刑! 俺が抑えている間にホリィを頼む!」


 より強い重力空間に足を踏み入れたが如く、二人の足が歩みを拒否するも鋼の意思で二人はララクの両翼から駆け抜けていく。


「そんなゆっくり歩いてたら、ホリィちゃんは永遠に私のものだよ?」


 禍々しい展開力がララクの左腕へと巻きつき、黒い龍の頭部が再び形作られる。

 人など簡単に咀嚼出来てしまいそうな顎門がホリィの細いウエストを挟んだ。


「ホリィ!」


 跳んだところでホリィの返り血を浴びるだけだと分かっていても飛び出さずにはいられない飛彩と刑は展開力を練り上げながら泥沼を進むような感覚の中で必死に手を伸ばした。



 その時、一発の銃弾が静かな侵略区域を突き進んだ。ララクの後頭部から肉の花を咲かせようとしたものの龍の展開を振り回して簡単にそれを吹き飛ばす。


「蘭華ちゃん……」


「展開力がないと遊ぶ仲間にも入れてもらえないかしら?」


 春嶺に肩を貸しながら、狙撃銃を軽々と扱ってララクへと正確無比な射撃を行う技術はさすがというところだがララクがそんなもので死ぬはずもなく。


「ねぇ蘭華ちゃん、ふざけてるの?」


「こういう悪ふざけは友達相手にやらないわよ。ま、それだけ時間稼げれば大丈夫でしょう」


 素早く刑がホリィを抱えて蘭華の元へと駆け抜けていき、それを守るかのようにララクの前に飛彩が立ちはだかる。


「ありがとな、蘭華。お前が来なかったどうなってたか……」


「お礼は後。状況は全然変わってないんだから」


「っし、こっからだぜララク!」


 目まぐるしく変わる戦況の中、息を整えて全員が逃げる時間だけは稼ごうと後ろ向きな思考に包まれる飛彩の視界に新たな影が横切る。


「!?」


 これ以上の増援はない、と知っていたが故に飛彩は敵の影だとすぐに理解できた。

 すぐに攻撃を仕掛けなくてはと刑に目配せするよりも先に、侵略区域に激震が走る。


「どうも皆さん」


 拳を交えた低い声の相手を飛彩はすぐさま思い出した。

 ララクの後ろに回り込んだ男は背中の中央へと掌底を打ち込み、残る鎧を粉々に剥がしていく。


「けはっ!?」


 今までの攻勢とは打って変わって情けなく地面に身体を預けるララクは、うつぶせの姿勢のまま痛みに喘ぐことしか出来ない。


「お、お前は……!」


 身に纏うのは薄布だけになってしまうララクは驚きのあまり大きく目を見開いて、飛彩たちと戦っていた時とは打って変わって弱々しくクレーターの中を転がっていく。


「ど、どうして……」


 色濃い闇が晴れるようにして、ララクの背中を足で押さえつける人物が飛彩たちの視界にも飛び込んできた。


「お久しぶりですね、皆様」





「コクジョー!?」




 ホリィを下ろす刑は止めを刺したはずの相手の登場に、すぐさま銀の槍を引き抜くも戦った時以上の禍々しい展開力に穂先が揺らいでしまう。


「な、何してるのコクジョー……?」


 裏切られたばかりのララクは、何が起こったか分かっていないという様子だ。

 老紳士が使うようなステッキを倒れ込むララクのチョーカーへと押し当てて完璧に身動きを封じる。


 燕尾服の鎧をはためかせながら、コクジョーは満面の笑みを浮かべていた。


「いやぁ。ヒーローの皆さんのおかげでこのクソお嬢様とお別れを告げることが出来ます」


「その足を退けろ!」


「意味がわかりませんね?」


 空いている左手から放たれた黒い光弾が飛彩の腹部で爆発し、その場で力なく倒れていく。

 隠れていた爪を発揮したコクジョーの強さはララクに勝るとも劣らないことを体感しながら、飛彩は両膝を地面へと突き立てた。


「倒れませんか。では次は壊れるように」


「あ、あぁぁぁ……!? コクジョー、ど、どうして……!?」


「わかりませんか? わかりませんよねぇ。わがままなお嬢様には!」


 押さえ込んでいた杖で頬を思い切り振り抜いたコクジョーはサディスティックな笑みを浮かべてララクが静かになるまで頬を何度も殴りつける。


「や、やめろ……!」


「だから意味がわからないんですよ? さっきまで貴方はララク様と戦っていましたよね? 友達だなんだと言いながら、ララク様の首に枷を嵌めようとして!」


 再び爆発する光弾を受けた飛彩は、子供のおもちゃのように力なく何度も後転する。


ラ ラクと同じようにうつ伏せで倒れてやっと爆撃の雨が止んだ。


「あ、あいつは確率操作のヴィランのはずなのに……」


「教えてあげますよ! そこの銀色のヒーロー! 私の本当の能力を!」


 再び地面にめり込むくらいララクを強く踏みつけたコクジョーへ、黒いオーラが立ち上りどんどんと吸い込まれていく。




「私は『簒奪の悪』コクジョー! 他のヴィランの能力を奪い取り、自らの物とする王になる資格を持つ者だ!」

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