「熱太……!」
世界展開できるからヒーローなのではなく、心構えが人をヒーローにすると作戦前に飛彩達は語っていた。
それは世界を救うための心構えであって、ただの肉体はその殻を破ることはない。
だからこそ飛彩を主軸とした奇襲を組み立てたわけだが、それだけでは成り立たなかったということだろう。
皆がヒーローに戻るという望みを厳しい作戦に組み込んだ時点で、味方の予想を遥かに超える行動をそれぞれに求められるのかもしれない。
故に人間のままではヴィランを相手取れないという通説を覆す力が必要だったのだ。
護利隊の面々でも戦うことが出来ることから、熱太達は無意識のうちに自分たちへ出来ないというレッテルを貼ってしまっていたのだろう。
「約束の日はいつかじゃない! 今だ!」
その言葉に幼き日の約束、共にヒーローとして戦うという誓いを飛彩は思い出した。そして無意識にあった侮りに言葉を詰まらせる。
「頼ってもいいんだ、って何回学べばいいんだろうな俺は」
「お前が空を駆けるならば、俺は地を駆け回るのみ!」
集まってきたヴィランに叫ぶ熱太は充分敵を引きつけている。
そして飛彩、春嶺、熱太の三人へと分散された敵戦力により戦線はより戦いやすいものへ変わっていった。
「これが最善手だなんて……非情になりきれなかった私の不手際ね」
ヒーローに変身出来ない仲間達にヴィランを引きつけろなど考えもしなかった蘭華だが、そもそも自分たちはそのような処遇を受けていたことを思い出して小さく笑う。
「これがこの奇襲の真の姿よ! 三人に負担をかけないように早く亀裂を消しちゃいましょう!」
「了解です、蘭華ちゃん」
「わかったわ」
「まだまだ走り足りないと思ってたとこ!」
「引きつける役目は交代は出来ない……三人とも持ち堪えてくれ!」
最後に放たれた刑の言葉が一気に攻めるぞとやる気にあふれていた全員の心を一瞬で冷やす。
観測されてからは絶対に振り切ることの出来ない大軍相手に、疲れたからと言って役割交代は許されないのだ。
「飛彩は言わずもがな、春嶺もヴィランを翻弄している……エレナや翔香を守るためにも漢を魅せる時だぞ、俺!」
覚悟を決めた熱太はヒーローの時と異なり、一瞬しか剣に展開力が乗らないことからあえて自分から突撃する。
ヴィランからすれば飛彩以外は春嶺も熱太も透明な存在も同然で、かつて飛彩が苦戦したスティージェンの時に似た現象が起きていた。
一対一ではこのような状況にはならなかったのだろうが亀裂を発生させるための展開力稼働により、ただの人間の索敵は不可能に近い。
目視しか方法がないものの、そもそも味方しかいないはずの場所で索敵する必要はなく、高ランクのヴィランでも飛彩以外の面々による奇襲に苦戦する。
「弱すぎる存在がこうも面倒とは……!」
「見えない敵を相手するに等しいな」
そうヴィランが一息ついてしまえば、彼方から飛んでくる赤と緑の閃光に蹴り飛ばされるだけだ。
「ぐガァ!?」
「な、一撃で……!?」
「俺たちも休憩なしでやってんだ。お前らも休まず戦ってくれよ」
実感として戦いやすくなった、そう思う飛彩は呼吸を整えつつ立て続けにヴィランを蹴り抜いていく。
このスピードについてこれるヴィランは皆無に等しく、熱太や春嶺を狙うヴィランが隙を晒せば飛彩は一瞬でトップスピードまで加速して硬い鎧を両断する。
「やはりあいつを先に消すぞ!」
とヴィランが飛彩へと標的を切り替えれば。
「私相手に背中晒すなんてね」
「隙だらけの相手ならば容易いわ!」
春嶺の跳弾、熱太の両断が襲いかかる。
さらに陰ながら蘭華やホリィ、エレナ達の援護がそれぞれのメンバーをアシストしているのだ。
犠牲を払うかもしれない危険な陣形ではあるが、互いがより互いを信頼し合うヒーロー陣営の最終陣形とも言えよう。
リージェやかつてのララクのような指揮者のヴィランなどはそうそう存在しない。故に組織としては烏合も同然のヴィラン達に飛彩達は相手部隊を次々と瓦解させていく。
「よし、空間亀裂を七十五パーセント消滅させた! 封印弾により、その場所には異世の亀裂を発生させられない!」
刑の通信は異世よりも現世側への朗報だろう。侵攻するヴィランが減れば、ヴィラン一体当たりに注ぎ込める戦力が格段に増していく。
「聞きましたか? 順調ですねっエレナ先輩! このままいけば……」
「本当に順調なケースは蘭華ちゃん以外の私たち全員が変身出来ることよ。気を抜かないで」
「……はい!」
もはや少しの攻勢で浮き足立つような者は存在しない。
飛彩と蘭華以外の誰もがヒーローになるために能力を思い描きながらヴィランと戦っている。
この覚悟を決めた九人を止めるにはリージェクラスでも骨が折れるだろう。
故に、悪夢が訪れるのかもしれない。
「……天弾!」
直後、城の方から飛来した紫色の流星が住居を破壊しながら降り立った。その屋根に立っていた春嶺を飛彩がすんでのところで抱き抱える。
「なっ!?」
「無事か、天弾?」
「無事だが、こ、このような抱き方は別の意味で緊張する、は、離してもらおう」
お姫様抱っこで春嶺を抱えていた飛彩は悪いと言いつつも、砂煙の向こうにいる存在から視線を切らさない。
むしろ春嶺を降ろした瞬間に飛彩の両足は爆ぜるように砂煙の中へ突貫する。
「か、隠雅飛彩!」
「こういうのは先手必勝だろ!」
鎧と鎧がぶつかり合う金属音と共に巻き起こる衝撃の余波が砂煙はおろか黒い瓦礫を周囲へ弾け飛んでいく。
「先手必勝? であれば私が先だったんじゃない?」
「受肉したヴィランか!」
「本当に人間が乗り込んできてるなんて……報告通りで虫唾が走るわ」
券圧によりたなびく薄紫の長髪、冷静な仮面を貼り付けた淑女「ユリラ」が戦場に舞い降りた。
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