【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

ヒロインズ・ボンド

公開日時: 2021年2月11日(木) 00:04
文字数:2,192

「でも飛彩ちゃんは、いなかったわけをちゃんと話したでしょう? それ以上、怒る必要はないんじゃなくて?」


「それは……」


 言い淀む蘭華だが、ララクの言葉が正しいと理解できるようになっていく。少しずつ怒りより冷静さが勝るようになったのだろう。


「蘭華ちゃん、飛彩ちゃんとは長い付き合いなのでしょう? ララクの言葉を信じないのは結構だけど、飛彩ちゃんの言葉を信じないのはどうかと思うわ」


「っ!」


 荘厳な女王のような気迫を見せるララクに全員が瞠目する。

 高貴な威圧感を放つララクの言葉は怒りを鎮めさせ蘭華に冷静に言葉を聞き入れる余裕を作り上げらせた。


「ララク、そういうの違うと思う」


「……そうね」


 意外にも素直に過ちを認める蘭華。

 それだけでなくホリィやカクリも頭ごなしに疑ったことを反省した。


 寝ていないと言う特殊な状況や飛彩のためを思って駆け回ったのにという行き違いが怒りだけを高めてしまい、飛彩の言葉を信じると言う当たり前のことすら忘れていた。


「そうよね。そもそも飛彩はナンパなんて出来るほど甲斐性があるわけじゃないし」


「なぁ。何で俺ばっかディスられるんだ?」


 責められたことを気にしていない様子の飛彩だが、それよりもララクの女王のような荘厳さに気を取られてしまう。

 むしろ畏れに近い感覚に、ホリィたちも身構えてしまうほどだ。


「飛彩ちゃんも三人にお礼は言ったの? 一晩中、探し回ってくれる子たちなんてそうそういないよ?」


「え、いや……」


「だったら飛彩ちゃんはお礼を言って、蘭華ちゃんたちは言いすぎたことを謝まればおしまい。それならもっと楽しくなるわよね?」


 些細な行き違いの元凶になったララク本人に言いくるめられるように結ばれる調停。

 ララクの自信ありげな顔に気の抜けてしまった飛彩たちは笑い合った。


「飛彩……その、ごめんね。言いすぎたわ。しかもいっぱい奢らせちゃったし……」


「私たち調子に乗ってました」


「ごめんなさい、飛彩さん」


「お、おいおい。そんな畏って謝らないでくれって。俺が悪い奴みたいじゃねえか」


 頭を掻く飛彩はバツが悪そうに苦笑いを浮かべたあと、テーブルに両手を置いて頭を下げる。


「心配かけて悪かった。それと……ありがとな。お前らの優しさに感謝するぜ」


 気恥ずかしそうな間が流れた瞬間にララクは嬉しそうに手を叩き、一同の視線を集めた。

 満面の笑みを浮かべたララクに対する恐怖心は消え去り、幽霊だ何だと考えてしまったことを飛彩は恥じる。


「これで一件落着ね!」


「ララクも悪かったな、なんつーか、色々ビビったりしちまって」


「そんな細かいこと、ララクは気にしないわっ」


 時折見せる覇気のようなものには驚かされつつも、抱いていた恐怖はただの幻想で必要以上に怯えてしまったことを飛彩は恥じる。


「飛彩ったらララクのこと、幽霊だと思ってたのよ?」


「いきなり洋館に連れ込まれたら、そう思ってもおかしくないかもしれませんね〜」


「あははっ、流石に大胆だったかしら! でも飛彩ちゃんのこと、貴方達と同じように気に入ってしまったの!」


 友情が芽生えそうだった空気に再び戦慄が走る。

 これ以上見目麗しい恋敵が増えるのを容認できない蘭華は、おずおずとその意図を問う。


「き、気に入ったってどういう意味かしら?」


「飛彩ってばとっても強いでしょ? だからこっちでのボディーガードにしたいって思ってたの!」


 ヴィランがやってくることを除けば安全な国でボディーガードとは、と蘭華たちは苦笑する。

 高貴な佇まいからもしかしたらどこかの国の重要人物なのかもしれないと勘ぐってしまうほどだ。


「ボディーガードねぇ……ま、それなら大丈夫かな?」


「守り守られる中で、好きになってしまうかもしれませんよ、蘭華ちゃん!」


「私たちみたいに?」


「そ、そうだけど……真顔で言わないでよ、恥ずかしくなっちゃうから」


 こそこそ話を続ける二人だったが、顔を真っ赤に染めたホリィが椅子に深く寄り掛かった事で話は終わる。

 ララクは凛とした眼差しで飛彩を見つめているものの、今はボディーガードの説得よりも一緒に遊ぶことを優先したいようだ。


「それ、まだ諦めてなかったのかよ……」


「もちろん! ララクは欲しいものを必ず手に入れちゃうんだから!」


 不思議な魅力のララクに一同は笑い合い、元通りの絆を育んでいく。

 一時は警戒したララクが彼らの輪の中に入っていくのは、あまりにも自然なことのようで。


 恐怖を感じた飛彩も余計なことを気にしなくて良くなりいつもの気楽さが戻り、蘭華達も今日という日を楽しもうと気分を切り替える。


「ボディーガードの交渉は続けるとして……みんな、ララクの友達たちなってくれる?」


「はぁ? 何言ってるのよ? もう友達でしょ?」


「色々あったけけど、ララクさんはいい人ですっ」


「こちらこそよろしくお願いします、ララクちゃん」


「みんな……ありがとう! ララク、こっちに来てよかった!」


 その様子微笑ましく見つめる飛彩は恐怖心や絞られた金のことも忘れてしまっていた。

 クラッシャーにつけられた差のことを思うと胸がいまだにざわつくが、この光景を見て一つの答えに辿り着く。



(俺はヴィランに勝つことが目標じゃねえ……ヒーローの変身途中を守る、ってことは変身する前の日常も守るってことだ)


 守りたいのは世界ではない。

 自分の守りたいものだけというエゴの強い思いだが、少年の視界の中にあるものこそ、彼の世界の全てなのかもしれない。

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