【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

彼我の差

公開日時: 2021年7月1日(木) 00:14
文字数:2,284

 追い縋る死鎧も数を大きく減らし、ララク一人で十分に後衛を努められている。


 目の前に迫る巨大なドーム状の展開域はすでにホリィやリージェの間合いの中にあった。

 城下町を全て押しつぶすように広がったフェイウォンの展開域をヒーローたちは押し返しきったのである。


「もうすぐね……でも、あの展開域、どうやって壊す?」


「ララクとリージェ、ホリィが全力で攻撃すれば……」


 真面目に分析するララクだが突如、巨大な展開力を携えて飛んできた刀にいち早く反応する。


「うわっ!」


 それはあっという間にホリィたちを追い抜いて、ドーム状の展開域とぶつかり合う。

 持ち主もいないままにフェイウォンの展開力を鬩ぎ合うそれに、リージェすらも希望を抱いた。


「ホーリーフォーチュン! 雑魚は僕が抑えてやる! お前とララクで打ち破れ!」


 振り返ったリージェはより強い拒絶の領域を周囲へと張り巡らせ、後方から追ってくる死鎧たちに波動を放ち続ける。

 蘭華も狙撃銃で死鎧それぞれの再生が遅くなっている部分を見抜いて牽制を続けた。


「ホリィ! ララク! 頼んだわよ!」


「ここまでやってくる未来は成功しました……ここからは私自身で未来を拓く!」


 飛び上がり刀を握った瞬間、装備が揺らめくほどに溢れていた展開力が刀に振り回されないように集中するための膂力へと変換される。


 それでも振るうことの出来ない刀に対し、ララクがそっとホリィの手を握った。


「ララクちゃん! ヒーローの展開力が詰まってるこれを握ったら……!」


「大丈夫、私がホリィちゃんを支えるから。一緒に、飛彩ちゃんを助けに行こう?」


 一人で受けきれない力でも二人ならば。

 溢れ出てしまう力をララクが受け持ってくれるだけで、剣に眠る仲間の力を解き放つことにホリィは集中できた。


 毒を浴びるようなララクのためにもホリィは一緒にそのまま地面へ向かいながら展開域へと斬撃を放つ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「飛彩ちゃん、今行くから!」


 黒い球体へ虹色の軌跡が刻まれ、リージェや蘭華も行く末へと視線が釘付けになる。


「飛彩……!」


 零した言葉は斬撃から溢れ出た展開力の奔流と共に眩い光に包まれていった。



 

 そのわずか数十秒前、激戦を繰り広げている飛彩はフェイウォンに満ちる油断に活路を見出した。


 見下すように顎を上げて弱点を晒し、両腕両足を大きく広げる構えは緩み切っている。

 一方的に痛めつけ、片膝を着くので精一杯な相手に狩りの成功を感じているのだ。


「許しを請え。であれば尊厳くらいは残してやろう」


 目の前まで悠然と歩み寄ってくるフェイウォンに対し、飛彩の目はいまだ死んでいない。


(今だ!)


 飛びかかった飛彩が拳に溜めていたのはヴィランの持つ空間亀裂の能力。


「なっ!?」


 開かれた異世界への扉が、始祖を飲み込もうと口を開く。

 いかに始祖といえど、狭間の奔流に飲まれてしまえば消滅するまで世界の間で押し潰され続けるだろう。


「一緒に死んでもらうぜ!」


 フェイウォンの視線がわずかに後ろを向いた瞬間を狙ったタックルが炸裂する。

 ここまで近づいてしまえば、離さなければいいだけだと防御を捨てて両腕に全ての力を飛彩は込めた。


 まさに一瞬の出来事で、油断したフェイウォンを抱えて飛彩は次元の狭間へと身を投げる。


 おそらくヴィランでなかったとしても、飛彩は同じことをしていただろう。

 仲間たちが幸せに暮らせる世界を求め、そこに自分がいなくとも良いと考えるヒーローとしての自己犠牲を抱いて。


「いかにお前でも狭間に落ちれば!」


 認識しにくい異空間の間は揺らめき、形を常に変え続けているかのようにうねり続けた。


 落ちているのかどうかも分からないままに、両足からも展開力を噴射してさらに勢いをつけて進んでいく。

 身を磨り潰すような感覚に、大気圏の突入はこんな感じなのだろうかと余裕の思考さえ浮かぶほどで。


「死してなお、世界を守るか」


「ああ……たとえ俺がいなくても、お前の……悪いヴィランがいない世界を作れるのなら!」 


「それは無理だ」


 直後、周囲の景色が砕け散った。

 そのまま時を巻き戻すかのように、異世の展開領域の中に二人は落ちていく。


「なっ!?」


「無礼だぞ、離せ」


 突き飛ばされた飛彩は簡単に拘束を解かれ、再び片膝をついてフェイウォンを睨みつける。


「狭間に作り上げたのが我が異世ぞ? その大きさや位置を変えることなど、造作もない」


「そん、な……!」


 自滅特攻さえ無意味。

 突きつけられた彼我の差は、今度こそ飛彩の万策を尽きさせた。


 フェイウォンはあの一瞬で落ちていく自分たちに合わせて異世の座標そのものを再編成したのだ。


 異世にいる全ての存在ごと運び上げる展開力の多さに、まだまだ対等に戦えるような相手ではない。


「この世界への展開力は切ったが、今も私の手足も同然なのだよ。逃げることも決して許されないさ」


「……化け物が」


「化け物? 何回殴っても立ち上がるお前の方が化け物だよ」


 笑みを浮かべるフェイウォンは、飛彩の為す術の無さを感じ取ったのか仕上げをするかのように再び飛彩へと歩み寄った。


「これでも人であることに固執するか?」


 軽々と展開力を用いた念動力で飛彩は持ち上げられ、締め上げられた首を解こうともがき続ける。


「いい加減に認めろ、貴様はヴィランなのだ」


 フェイウォンの右手に集まりゆく漆黒の展開力。

 それは手刀を覆い、刃のように洗練されていく。


「一度、人としての死を味わえ」


 心臓目掛けて放たれる手刀、飛彩はその攻撃が届くまでの時間が限りなくゆっくりになったことに気づく。


 それでも走馬灯は巡らずに死に対する恐怖だけが飛彩の脳を席巻した。



「お前の中にあるヴィランは……それを許さない」


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