【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

守るのは

公開日時: 2020年10月11日(日) 19:47
文字数:1,932

振り返ることすらままならない飛彩を救うように、長刀による閃斬と一発の銃弾がリージェを引き離す。


「!?」


「おやおや?」


夜になり、月明かりが差す中で徐々に異世化していく世界へとリージェも踏み出す中、飛彩との間を遮るように日本刀を携えた男が割って入った。


さらに今度は何度も爆音が轟き、こちらの世界に渡ろうとしていたヴィランたちが入り口ごと押し返される。


「——あれ? 援軍?」


音のない摺り足で距離をつめたその人物は飛彩に一本の注射器を打ち込み、瞬く間にリージェに居合切りを数回放った。


わずか数秒の間に居合という予備動作がかかる斬撃を放たれたことに瞠目するリージェは能力の行使ではなく通常の回避を選んだ。いや、あまりの速さに選ばざるを得なかったとも言える。


「次から次へと……」


「悪いな、飛彩は返してもらう」


十分な間合いができた瞬間、飛彩はすでにその人物に襟を掴まれつつ自我の回復に至っていた。


右足の力は消えつつも鮮明な意識を取り戻した飛彩は息を切らしながらその人物の名を告げる。


「黒斗……お前、何やってんだ?」


眼鏡を冷静に掛け直した後、普通の物よりも数十センチも長い刀身を持つそれの柄に手をかける。


リージェですらどう攻撃して良いかわからない気迫に飛彩もまた気圧された。


「お前は休んでいろ。状況が変わった」


「ど、どういうことだよ?」


負荷の大きい能力の行使によってもはや飛彩は指一本すら動かせない。


先ほど黒斗に抱えられた時に無理やりつけられたヘッドセットから甲高い怒号が飛んだ。


「このバカ飛彩! 何やってんのよ! 本当バカなんじゃないの!?」


「ら、蘭華? どうしてお前がここに? わけわかんねぇぞ説明しろ黒斗!」


戦いの疲れがのしかかる中、あり得ない人物たちの介入により脳の疲れもどっと増えていく。


困惑する飛彩を置いてリージェに剣戟を挑む黒斗とそれを援護する蘭華。


「それは私が説明してあげる」


「メイさんまで!? 黒斗のやつ、黙ってくれてたんじゃなかったのかよ……」


「それは違うわ。司令官はちゃ〜んと黙って! 何も言わずに! 出かけてくれたわよ」


戦闘中の黒斗の気を散らすような発言をしつつもメイは一言でこの状況をまとめる。


「私がこうなることを全て予測しただけ……ってとこかな」


「は、はぁ?」


気が抜けてしまうような返事を漏らしてしまう中、メイの洞察力があれば不可能なことはないと思えてしまう飛彩がいた。


「まぁ飛彩が自暴自棄になることも考えられたけど……ただで転ぶことはない。やるとしたら責任を取ってからだと思ったの。その中でも一番ド派手な方法と考えれば」


簡単に読まれていた自分の思考を恥ずかしがりながら聞き続ける。


体力の回復を妨げてしまうような分析力に飛彩はそれ以上を尋ねないことにした。


「飛彩! また勝手して心配ばっかりかけて!」


今度は怒りが収まらぬ蘭華の怒号だ。


蘭華としては命がけで救った相手が、死場所を探しているというのだから腹が立つのも仕方あるまい。


「もう二度と勝手にいなくならないでよ! 責任の取り方間違ってるんだから!」


狙撃手でありながらどこにいるのか丸わかりになってしまうような悪目立ちをする蘭華をどう落ち着かさればいいのかと困惑してしまう。


すると桃色の髪で目元まで隠す一人の少女と金色の髪を靡かせる目元を潤ませた少女が飛彩の近くへとやってきた。



「天弾、春嶺……メガフルオート」



「キラキラ未来は私が決める! 聖なる未来へ! ホーリーフォーチュン!」



すでに世界展開(リアライズ)を遂げた二人の少女が飛彩を守るように力強く地面を踏み締める。


「ホリィに天弾まで……しかもどうやって変身したんだ?」


「誰かさんがドームを壊しながら戦っていたからですよー」


「そういう、こと……とにかく助けにきた」


春嶺はともかくホリィは何か言いたげな表情を浮かべていたが、それを飲み込んで目の前の強大な敵であるリージェへと展開を差し向ける。


「後で蘭華ちゃんとお説教ですから!」


「蘭華が怒るなら、私も怒るから」


反論することも許されぬまま、二人は黒斗と入れ替わるように戦いに身を投じた。


拒絶の力と未来確定、さらに縦横無尽の跳弾が入り乱れる戦場には生半可な戦士では割り込めない。


「……思惑とは違ったが……そこで見ていろ飛彩」


「お、俺ってまだ戦える! 守るのは俺だ!」


「吠えるな。お前が守るしかないと思っていた仲間たちの強さを知れ」


緩急のある動きで揺らめきながら切り込む黒斗は全ての展開の合間を縫うようにリージェに斬撃を当てていた。


春嶺の跳弾やホリィの未来確定ですら拒絶で逃げ切るというのに的確に切り刻むことが出来るのはまさしく経験の差というものだろうか。


「次から次へとお客がいっぱいだ! 僕らも盛大に迎えよう! 今度は邪魔させないよ!」


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