「俺も活躍したい〜っていう気持ちが丸見えですけど?」
その言葉で弾は空間亀裂から逸れるものの、爆風がなんとか標的をかき消す。
わかりやすい動揺にエレナは背中を預けていた熱太を小突く。
狭い路地から開けた場所にある亀裂を撃って、即座に狭い道を移動するヒットアンドアウェイの方法を取る熱太達は再び移動を開始した。
「翔香まで? お、俺は銃で戦うのは苦手だと考えてただけだ!」
脳筋と侮られながらもきっちりと地形を把握した熱太は狙撃地点へと二人を引き連れて走り始める。
たびたびエレナにこっちの方が近いと言われ、道を切り替えつつも暗い路地を充分に攻略していた。
刑達や熱太達も善戦はしている。しかし、それはあくまでも人間レベルであり飛彩の負担は計り知れない。
きっと現世側に侵攻を続けられているヴィランは少ないだろう。極めて少ない戦力でヴィランを狭間へと叩き落として敵の数を大きく減らせている。
だが、それは。
「ぐっ!?」
数多のヴィランを飛彩がたった一人で相手しているからに過ぎない。
「受肉したからって調子に乗りやがって……」
ヴィラン達は飛彩を、調子に乗って功績を独り占めしようとしているヴィランだと勘違いしているようだ。
それに飛彩自身も気付いたようで、攻撃に若干の戸惑いがあった理由を悟る。
「悪いなぁ。ライバルは少ない方が出世しやすいだろ」
勘違いは助長させておいた方がいいと、飛彩はさらに撹乱的な言葉を投げつけた。
「貴様ァ! いい加減にシロ!」
「フェイウォン様の城下で暴れれば何が起こるのか知らんのカ!」
二体のヴィランが「捕縛」「電流」それぞれの権能を放つ。
本来のヴィランであれば団体行動などもっての他だが、今はフェイウォンの意志の元で一つの組織として動いている。
それを損なうなど言語道断と考えているのか、現世では見せてこなかった連携技が飛彩へと繰り出され始めた。
「ランクCくらいか? はっ、調子に乗るんじゃねぇ!」
雷を纏う黒い網を飛彩は黒き左腕で殴りつける。
完全に支配下に置くことは出来なくとも、拳が触れた部分の電流解除と捕縛能力を支配してただの展開力の塊へと変換する。
無事に掴むことが出来るようになった網で逆に他のヴィランを絡めとっていく。
「一網打尽だ! 感謝するぜ!」
「くっ、くそぉ!」
そうなってしまえば電流のヴィランも捕縛のヴィランも一時的に能力を解除せざるを得ない。
その一瞬の隙を与えてしまったが最後、ヴィランの視界には紅い軌跡のみが映る。
「あ……?」
「食らってから振り向いても遅いだろ?」
左腕と右足を刃で覆うような展開を発動し、取り囲んでいた上級ヴィランを一瞬で灰へと変える。
鎧が黒い地面に乾いた音を立てた後、いくつかの鎧がため込んでいた展開力を暴発させて大爆発を起こした。
その狼煙のせいでますます飛彩は囲まれていく。
「おい、蘭華……誰か変身出来そうなやつはいないのか?」
気を遣いたくとも、全員へと届いてしまう通信に飛彩は荒い息まで漏らしていた。
ヒーロー達に答えさせるわけにはいかない、と蘭華は非情に徹して現状の事実を告げる。
「ごめん、まだ誰にもその予兆はないわ」
「そうか……仕方ねぇ。どんだけかかろうと、どれだけ敵が集まってこようと……」
複数の正体を消したかと思えば、さらにその倍以上の数のヴィランが集まり始めている。
派手な戦闘音や荒波立つような展開力のざわめきが起きていれば異変に気づかない方が難しいだろう。
一瞬で敵を葬っている飛彩も一撃で倒せるように過剰に展開力を込めて鎧を裂いていたのだ。
自身でも予想していなかった想像以上の消耗に、己の力を過信していたと自虐的に口角を上げる。
しかし、それでも護利隊として飛彩はヴィランへと拳を向けて頭のバイザーをかぶり直す。
黒い短髪が自身の展開力で揺らめく中、途切れそうになる集中力を奮い立たせて。
「俺はヒーローの変身時間を守ってみせる」
その言葉を置き去りにする踏み込みは、向かってきていたヴィランの一団を凄まじい速さで葬り去っていく。
「さ、流石飛彩くんです。私たちも早く変身しないと」
「ああ、そのようだな」
苦々しい口調の刑に頬に汗を伝わせる春嶺が神妙そうに頷く。
「さっきまでは目立つような戦い方をしていたが、俺たちと同じようなヒットアンドアウェイに切り替えた」
「余裕がなくなってきてる証拠」
「そんな……飛彩くんでも……」
ヴィランに対して多対一の経験がある飛彩でも、ここまでの連戦経験は流石にない。
絶え間ない戦いの後に控える始祖との決戦は集中力を削り呼吸をどんどん早めていく。
その光景は飛彩以外の全員の焦燥を加速させるには充分だった。
飛彩と蘭華だけが想定を超える働きを見せるばかりで、世界を救うはずのヒーロー達は予定通りの働きしか出来ていない。
そして負担は飛彩にだけ集中している。
並大抵のヴィランでは飛彩に歯が立たないとしても始祖のヴィランまでもっと温存するはずだった。
異世ならばヒーロー達の展開が発動するかもしれない、そのヒーロー達へ向けられた信頼を計画に組み込んでいたわけで。
わずかな望みにかけて、異世へと進行するという大博打はメイの設計図にはなかっただろう。
それでも世界を救うために打って出なければ戦力差で押し切られるのは目に見えていた。
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