レギオンが数十体もいれば城下は完全に囲まれる。
四方八方からの炎や暴風などの物量を得意とする大技を放たれればヒーロー陣営は全滅するだろう。
城や町の損壊などユリラは全く気にしていない。新たに生まれるヴィランを調教して街の復興にあたらせれば良い、とまで冷静な判断を下している。
何よりフェイウォンは世界には執着するのものの、建物や街には執着していないからだ。
「新しい世界を手に入れるために、この荒野の世界には生贄になってもらいましょう」
全てを指揮下に置く参謀の真髄が戦局を大きく動かした。
「ユリラめ、僕やララクのことも少しは気にしてくれよ」
遠くの熱線に今後巻き込まれる予感を覚えながらも、援護にも共倒れにもなりかねないレギオンの投入は集中力を削ってくる。
「ま、どうでもいいや。君たちを殺してから目的を達成できればいい」
「それはどうかしら?」
リージェの脚部に鞭が絡み、すかさず左右から翔香の打撃と熱太の斬撃が突き立てられる。
(配分変更、防御優先!)
「ぬっ!?」
弾き飛ばされたのは熱太のみで、翔香の蹴りは合気の要領でリージェは投げ返した。
変身後の熱太達は全身に未来感あふれるアーマーを装備しているためアイコンタクトなどは不可能だがエレナは何かを察してリージェの捕縛を解除する。
「いいのかい?」
「攻撃のタイミングが読めない方がやりにくいだろう」
三方向から取り囲む状況は何度か発生していたが、リージェにとっては一番面倒なパターンとなっていた。
「ちぇっ、よく見てるなぁ」
すでに変身を終えて全力を出せる熱太達に対してリージェは未だに誓約を拒絶し続けている。
攻撃や防御に展開力を費やす時には誓約の解除に費やす量を抑えており、逆の場合もまた然りというわけだ。
リージェが本気を出すまではどんな時も誓約の解除を優先していたようだが、今は天才的な展開力のコントロールを発揮して平常時と遜色ない動きを見せている。
しかし、その綱渡り的な戦い方が付け入る隙になると熱太は確信した。
通信や声に出せば聞かれる可能性があり、何かを繰り出すかもしれないという予感は味方の動きに差異を作ってしまう。
そこで熱太がとった行動は大きな深呼吸だった。
「ふぅ……」
「さて、レギオンの巻き添えくらう前に君たちを……」
そして、二人に向けて一言叫ぶ。
「お前達! 俺を信じろ!」
「はぁ? ここにきて根性論……!?」
呆れた声は一瞬で戰慄へと変貌を遂げる。通信もなければ何か合図があったわけでもない。
ただの一声でエレナと翔香は攻撃を始めていた。
レスキューワールドは三位一体のヒーローであり、その能力の一つに連携強化というものが存在する。
展開域が重なっている味方に対して以心伝心のような状態になれることが特徴で、緻密な連携を絶え間なく続けることが出来るのだ。
そこに加えられるのは揺るぎない味方への信頼である。
熱太だけでなくエレナも翔香もまた、誰かのミスで失敗したとしても咎める気はない。そもそも失敗はないという確信の元で戦っているのだ。
以心伝心効果と信頼という伝達ロスを極限にまで減らした攻撃は片手間の展開力では封じることが出来ない。
「くっ!?」
鞭が飛来したかと思えばブラフで、同士討ちになってしまう寸前で入れ替わるように翔香の前蹴りが襲いかかる。
「遅い遅い!」
そのまま展開力の込められた右足から放たれた前蹴りの連打は、あまりの速さに数カ所同時と言っても過言ではない速さでリージェの鎧を叩く。
「がぁっ!」
拒絶を戦闘用に常時全開にして、精神力で誓約に抗わなければ命がないという淵までリージェは追い詰められた。
(今の蹴り……展開力分だけで拒絶しようと思ったが、最初から込められてない、だと!?)
拒絶する箇所を限定にして効果を高めようとするリージェだったが、込められていたはずの展開力は途中で消えており効果は不発に終わる。
「もらった!」
踏み台にするように飛んだ翔香によってリージェの姿勢が前のめりになっていく。
直前まで視界が翔香だけだったリージェにとっては急に現れた新たに対処が出来なかった。
「ブレイジングディザスター!」
灼熱の炎を剣の中に凝縮した赤い閃光を携える一突きが、剣の達人である熱太の膂力と重なり必殺の刺突へ変貌する。
その一撃は鎧を溶かし、受肉した身体すら灰に変えると直感したリージェは両手に拒絶の力を込めて迎え撃つ。
しかし、今翔香に行われたブラフの流れが頭から抜け落ちてしまったことに炎の勢いが消えた瞬間に気付かされた。
難なく剣先を白刃取りするリージェだが、その呆気ない流れに背後へと集中力と展開力を全開にする。
片手に剣を預け、振り返った時には二人が技を放つ瞬間で。
(どっちだ!? 青か、黄色の女か!?)
「俺たちの能力は複数あってな……その一つに展開内の中にいる味方への展開力譲渡というものがある」
ブラフを連続させた戦い方の種明かしをする熱太だが、それはリージェに対する正々堂々とした態度の証明だった。
(こいつは何を言っている? 能力の開示に何の意味が?)
いくら連携が能力の要とはいえ、不意打ちの連続という見方も出来る。
故に熱太達はこの戦い方を長い間、隠し通してきたのだ。
それを解禁したものの、熱太は矜恃を捨てずに一度渡した展開力を再度剣へと呼び戻す。
「しまっ……!?」
役割を果たしたことで、捨て駒という烙印を押させた上での展開力の呼び戻しは流石の拒絶でも追いつくことは出来ない。
さらに緻密な展開力の操作により疲弊したことで、能力の調整により時間を弄するようになっている。
「ブレイジング……!」
「っつ!?」
鎧を通して届けられた熱により、リージェは反射的に手を離してしまった。
もはや掴んでいても防げない一撃だったが、至近距離からの突きの威力を遮るものはもう何も存在しない。
「ディザスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
剣が鎧をバターのように溶かしていき、赤い光が周囲を包み込んでいく。
異世にはあるはずのない太陽がその場に現れたかのようで、光を浴びたことのない影達は観るも無残に存在を消していった。
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