【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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第3部 4章 〜エボリューション・テラー〜

イントゥ・ザ・ララクワールド

公開日時: 2021年2月18日(木) 00:02
文字数:3,969

そして。


カクリ以外の異次元空間に飛ばされた蘭華達は、一箇所にまとまった状態で目を覚ました。


「ここは……どこ?」


「あ、蘭華ちゃん。気がついた?」


 頭痛に苦しむようなそぶりを見せた蘭華は上半身を起こし、近くにあった壁へともたれかかる。


「夜……? 私、もしかして結構気絶してた?」


「カクリ達も起きたばっかりです。スマホの光で辺りを照らしましたが、どうやら廃墟の住宅地のようですね」


 家と家の間の狭い路地にいた一行は、月明かりや外灯の存在しない場所で光がどれだけ恋しいものなのかを思い知らされた。


「ここ、まるで誘導区域みたいね」


「というかそうかもしれません。ヴィランの気配がします」


 ヒーローのホリィが言うのであれば間違いない、と身構える蘭華達だが何の武装も持っていないことに苦虫を潰したような表情へと変わる。


「通信は……効かないみたいね。じゃあ、カクリ、いつものワープで帰るわよ」


「で、でもホリィさんが……」


「あ……世界展開(リアライズ)を持ってる人は運べないんだったわね……だったらカクリだけでも先に帰還しなさい。どこかの誘導区域の中にいるみたいだから助けを呼んできて」


「ごめんね、カクリちゃんに負担をかけて……」


「大丈夫です。こういう時こそカクリの真骨頂を発揮する時です……では、えい!」


 大きく両手を広げてわざとらしくワープホールの生成を叫ぶものの、暗黒の眼前には何も起こらない。


蘭華やホリィが首を傾げるよりも、額より汗を伝わせるカクリの方が何倍も驚きに襲われ心臓の鼓動が早くなっていた。


「……大変です」


 引きつった声は能力の不発が原因ではなく、不発になってしまう原理にある。


「嘘でしょ? カクリ、調子が悪いだけよね?」


「お、お二人とも何をそんなに焦っているんです? 蘭華ちゃんが疲れているなら少し休んでからでも……」


「違うんです……ここは間違いなく侵略区域の中です」


 その場にへたり込んだカクリは自分の世界展開(リアライズ)である「ふわふわの星」について震えながら話し始めた。


「カクリの能力は空間と空間をつなげる瞬間移動です……ただ、世界展開(リアライズ)を持つヒーローは運べないのと、異なる世界には移動できない制限があります」


 そこで合点のいったホリィは自身の世界展開(リアライズ)を発動しようというくらいに気が動転したが、右腕を瞬時に掴んだ蘭華によってそれは制限される。


「廃墟があることから……ここは残り四つの侵略区域のどこか、ということになります……」


 自分たちが大声で会話していたことを憂いながらも、こっそりと路地裏を這うように移動する蘭華達は全神経を暗闇の中で研ぎ澄ませながら歩いていく。


「飛彩が悪霊だなんだって言ってたけど、あながち間違いじゃなかったみたいね……」


「ここに連れ込まれたなら……じゃあ彼女はヴィラン?」


「それにしては仲良くなれそうな気がしますけど……どうなんでしょう?」


 拳を突きつけられなかった飛彩同様に蘭華達も押し黙ってしまった。

今は安全な隠れ場所を探さなければという大義名分のもと、ララクへの気持ちを後回しにしたのである。


 事実、友人のように笑いあい、自分たちを想ってくれたあの存在がヴィランなはずがない、仮にヴィランだったとしても手を取り合える。


そう感じてしまうほどに。


 だが、それを誰も口には出さなかった。いや、出せなかったのである。

それほどに人間とヴィランの間には大きな隔たりがあるのだから。


「とりあえず、どこか廃墟の中に隠れましょう。今のところ近くにヴィランがいる気配はないけど、身を隠して救助を待つ場所が必要だわ」


「いや、ここが侵略区域なら壁があるはずです。なるべく壁際の廃墟を探しましょう」


「ダメよ。ここがどのくらいの大きさなのかもわからないんだから、とりあえず近くの廃墟の中に。あいつが助けに来てくれたら距離なんて関係ない」


 あいつ、たったそれだけの言葉でホリィやカクリ、言葉を放った蘭華にすら希望を感じさせてくる。

飛彩の存在が彼女達の中であまりにも大きく、時間の感覚が狂う中での唯一の希望と言えた。


「そう、ですね。飛彩くんならきっと来てくれる」


「それに飛彩さんも、ここに飛ばされているかもしれません」


「ええ。ララクが私たちをここに招いたのなら、もしかしたら飛彩も……」


 横一列になって歩いていた彼女達の足が希望によって不意に止まってしまった。

ララクという余計な言葉を放ってしまったが故に、死神の足音が一気に蘭華達へと肉薄しその背後まで迫ったのかもしれない。




「今、お嬢様の名を呼びましたね?」




 振り向けば死、そう感じるほどの威圧感。


周りに漂っていた微かな光が消え去ったような錯覚に襲われる。


自分の姿以外が真っ暗闇の中に包まれ広大な宇宙空間に浮いているような恐怖から、蘭華達はその場へとへたり込む。


「答えなさい、人間達」


 その場に留められる重力にも似た恐怖と威圧に蘭華達は震えながらも抗いながらもゆっくりと振り返っていく。


「受肉した……ヴィラン?」


「ほう、人間の割りには博識ですね」


 その場に佇むは燕尾服のような鎧を纏うヴィランであり、ララクの廃家筆頭であるコクジョー。

 切れ長な瞳が三人を射抜いた瞬間に、彼女達の意識はそこで途絶えた。



虫の知らせのようなものに反応した飛彩は強化スーツを纏っていた動きをそこで止める。


「準備は出来た?」


 ちょうど更衣室に入ってきたのは全身を覆うロングコートの中に武装を隠し持つ春嶺だった。

 今回の隠密作戦には適任ということもあり、メイの推薦で飛彩と二人一組を組むことになる。


「お前は?」


「私は大丈夫。跳弾響ブラッド・バレットの再組み込みも終わった。これで前のように扱える」


「前のようにじゃ困るぜ? 俺についてきてもらわねぇといけねぇんだからな?」


 長い前髪で視線を隠す春嶺は座っていた飛彩の顔へと迫っていき、微かな分け目から見開いた瞳を飛彩に向かって光らせた。


「お前こそ、私から引き離されるなよ?」


「おー、怖っ」


 おどけるくらいの調子を取り戻した飛彩は強化スーツをインジェクターや武装の入った小さなバックパックを装着し、ゆっくりと立ち上がる。


「お雨が蘭華を危険な目に合わせたんだ。死んでも救え」


「言われなくても、そのつもりだよ」


 光さす出入り口に向かう二人は凄まじい気迫を放ち、ヒーローとは到底呼べぬ修羅の如きオーラを見せ付けている。


 全ては仲間を助けるためだけに。






 蘭華達が暗闇の侵略区域に拐われてから数時間。


 首都から離れた郊外のヘッドタウンのさらに外れへと向かう飛彩達は、人が寄り付かないようになっている封鎖戦を乗り越えて該当の区域前へと到着する。


「やっとついたな……カクリで楽をしすぎてたぜ」


「にしても、こんな誰にでもわかりそうな場所にあるなんてね……」


「一般人も俺たちも好き好んでこんな何もねぇところにはこねぇだろ。知られてなくて当然だ」


 ヒーロー本部が設置した封鎖用の建物の中に入っていくと、ヴィランの展開による黒いモヤで出来た巨大なドーム状の領域が視界に飛び込んでくる。


「こりゃあ、俺たちが封鎖しなくてもいいっていう理由がわかるぜ」


「かなり濃密な展開力……左腕や右足で破れる?」


「当たり前だ。とっとと助けに行くぞ」


 深く息を吸い込み、左腕へとわずかな展開力を集めていった瞬間、冷静さを失ったメイの通信が飛んでくる。


「飛彩! 第三誘導区域にララクが出たわ!」


「何っ!?」


「至急戻ってきて! 受肉した存在には飛彩抜きじゃ勝てないわ!」


 再び風雲急を告げる事態となった護利隊陣営だが、状況が状況故に飛彩も即答出来ずに歯噛みする。


「隠雅、ここに穴を開けていってくれれば私一人でも……」


「馬鹿野郎、そんな危ねぇ真似させられっか」


 その声には確実に焦りが含まれていた。

 自分でしか止められないような受肉した存在と助けるべき仲間たちというものは、世界の安全が仲間の命かを天秤にかけさせる行為に他ならない。


「おいおい待て待て皆。こういう時はヒーローに頼るのが定石だろう?」


 飛彩たちの通信に割り込んできたのは熱い思いを内に秘め、冷静な声音で語りかけてくる熱太であった。


「ララクとやらには俺たちがいく。お前はホーリーフォーチュンたちを救助してから向かってくれ」


「だが、お前の変身途中を守るにはただの銃火器なんかじゃ……」


「安心しろ。秘策がある」


「ちょ、ちょっと! 二人とも勝手に話を進めないで! 飛彩なしでの出撃なんて認められるはずが……」


 上層部の一員として勝手な行動を許すことのできないメイが遮るものの、熱太の決意は固く揺るぎないものだった。


「いつまでも飛彩に守られるヒーローで良いわけがない! ヒーローは皆を守るものだ!」


 決死の覚悟を見せられたメイは通信機越しの作戦指令室で怯んでしまうものの、飛彩は自身とヒーローの違いを再認識する。


 迷いを捨て、友の覚悟を飛彩は信じることにした。この決断で今生の別れになろうとも。


「わかった……そっちは熱太に任せる」


「あー、もう! 分かった! 分かったけど! ララクがその区域にいないならとっとと全員回収してカクリちゃんの力で合流して! いいわね?」


「ああ、必ず助けに行く」


「その前に終わってるかもしれんぞ?」


「抜かせ。じゃあ切るぞ……そっちは頼む」


「おう!」


 上官である黒斗やメイが心変わりする前に速やかに作戦に移行する飛彩は左腕の力を解放する。


 通常の飛彩ならば右足の破壊力で派手に中央突破を魅せるところだが、速やかに蘭華たちを救出することを目的としただけあって今までにない冷静さだ。


「天弾、お前も簡易展開を頼む。最高全力状態で一気に突破するぞ」


「わ、分かったわ」


 光の柱を発生させない変身方法を見せる春嶺を尻目に飛彩は展開力のドームに左腕をかざしてどんどんとエネルギーを吸い込んでいく。


「脆くなったところを中央突破する……行くぜ!」

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