前のめりに差し出された首を狙った刹那、燃え上がるような覇気が飛彩の動きを止める。
「ふざ、けるな」
「!?」
「悪こそ、お前達の本質なのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」
黒い炎のような展開力が縦に伸び、周囲へと広がっていく。
命を代償とした力の増幅が猛攻を繰り広げていた飛彩をいとも簡単に吹き飛ばした。
足場を転がる飛彩は刀を突き刺して、吹き飛ぶのを堪えたが今まで以上に堅牢な足場や空間に違和感が隠しきれない。
「さっきより展開域が多い……何かやってんな」
黒炎の領域を従えるフェイウォンの展開域は周囲の全てを固定し、狭間の世界の奔流をも固定した。
どんどんと広がっていくそれは「なかったことにする」能力でも止められず。
「お前を否定するために我が命を捧げた。それが限界を超える力をもたらすのだ」
黒炎はフェイウォンの身すら灼いている。
瞳を全て黒に染め上げたフェイウォンは展開域との同化を強め、再び炎のように髪を逆立たせた。
肉体もまた展開力によって波紋を起こしつつ、実態のないような状態へと変わる。
もはや黒い炎を携える悪魔といったところか。
「この展開域、まるであっちの世界も……」
「ああ、そうさ。悪の世が来ないのであれば、全て無に帰すのみ……共に死んでもらうぞ、隠雅飛彩ぉ!」
「心中する趣味はねぇ!」
幾度も乗り越えてきた頂点はまた圧倒的に塗り替えられてしまう。
それでも飛彩は立ち向かうことをやめなかった。
悪の力で縛られた世界は間違っているとフェイウォンにつきつけ、自分を正義に目覚めさせた仲間たちの元に戻るためにも。
「ヴィランなんて全部消してやるよ!」
鎧と肉体が混じり、羽のように展開域を広げていくフェイウォンは通常の展開域に炎の効果を付与して燃やし尽くす覚悟である。
「ならば生きとし生けるもの、その世界全てを焼き尽くすまでだ!」
立ち上り、下にもさらに広がっていく領域を引き連れるフェイウォン。
もはやどちらが本体なのかも分からない相手だろうが、飛彩は臆せず攻めた。
「その最後の炎もなかったことするぜ!」
遠距離からの一閃は空間なぞるだけでフェイウォンと展開黒炎を切り離す。
切られた部分は確実に「なかったこと」になったはずだが、命を代償にした「全てを焼き尽くす世界展開」は燃え尽きることはない。
「無限……なわけねぇよな?」
と言いつつも、無尽蔵の展開力を感じる飛彩は危険を承知で接近戦を敢行する。
白刀に展開力を込め、触手のように差し向けられた炎を斬り伏せて進んでいった。
「通してもらうぜ!」
片手で軽々と刀を振り回すだけでなく、全身に展開力を漲らせた手刀や脚撃も炎の呪縛を断ち切っていった。
斬撃の勢いのままに回転、着地した瞬間の衝撃をそのまま踏み込みに生かすことで攻撃に転ずる。
フェイウォンがどれだけ飛彩に黒炎を費やそうとその勢いを止めることは出来ない。
「頂点は、私だぁぁぁぁ!」
「そんなもんに意味はねぇって言ってんだろがぁぁぁぁぁ!」
幾度なかったことにする攻撃を放っただろうか。
それでも再び吹き上がる怨霊のような展開力に攻撃の勢いはありつつも飛彩は攻めあぐねる。
だが、飛彩に残されたのは力の全てをフェイウォンへと炸裂させて内部から消し去る方法のみ。
守ることの出来ない箇所からの一撃で全てを無に還すつもりなのだ。
「世界展開は理想を現実へと付与する力! 私が望むは今や全ての破滅!」
「手に入らないからってわがままなヤローだ!」
「全てを消し去り……ヴィランのみの、悪の世界を創り直してくれる!」
災害と言った方が適切なフェイウォンの力。
荒れ狂う炎の隙を見ながら先を進む飛彩に恐れはない。
刀に宿る仲間たちの展開力が、一人で戦っているわけではないと示してくれている。
「相手を消し去るまで燃え続ける炎だ! 貴様と同じだなぁ!」
「そんな危ねぇものと一緒にすんな」
だが、奇しくも二人の最後の力は似通ったものとなる。
全てを破壊し尽くし、無へと還す新たな世界に君臨する頂点の最終形態。
世界展開という偽りの世界を「なかったこと」にして、無にする未完ノ王冠。
互いの存在を賭けて、互いを否定する戦い。命をも捧げる戦いに歯止めがかかるはずもなく。
「悠久を生きてきた私が間違ってたまるものか!」
「そういう何万年も生きたせいか老害がひでぇなあ? んなもん認めねぇよ!」
「だから勝利し、私が思う正しい世界の土壌を作るのだ!」
世界の命運を握る二人の戦い。
それは二人にとって、終わりがないのではと感じるほどの攻防だった。
フェイウォンが無差別に展開を広げるおかげで足場は通常より構築しやすく、飛彩も縦横無尽に斬撃を浴びせていく。
(ありえねぇ、無限に展開力なんて出せるわけが……いや!)
炎を断ち切りながら本体へと突き進んでいた飛彩は、突貫をやめて円を描くように駆け回って様子を伺う。
無限のエネルギーの源とは何か、その問いの答えは始祖ゆえに並外れたものと言えよう。
(そもそも世界展開は奴が作った力! その限界も何もかも自分で決められるってのか!?)
憶測でしかないものの、これが答えで間違いないと飛彩は感じとる。
それほどにフェイウォンは悪のみの世界を創りたいと願っているのだろう。
「悪の世界のためなんかに、世界を壊させてたまるか!」
「ヴィランのいる世界こそ、悪こそ世界の真実だ!」
「同じような事ばっか喋りやがって!」
命を代償とした存在が残せるものとはなんだろうか。
全てを更地にしたのが悪なのであれば、そこから新たに芽生えるものも悪であると信じているのかフェイウォンはますます己の身を焦がす。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!