【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

繋がるバトン

公開日時: 2021年6月28日(月) 22:15
文字数:2,380

 崩れた鎧だけが視界に広がる光量とした世界、それでも黒斗の相貌には飛彩たちが切り開く希望の未来を宿していた。


 それを現実にするため、命しか燃やすもののない黒斗が咆哮と共に刀を持ち上げ、思いきり後ろへと引く。


「あとは……頼んだぞォ!」


 いまだに残る展開力を起爆剤に、黒斗は遠方に見えるレギオン目掛けてその刀を力の限り投擲する。

 メイの展開力が籠るそれは、まるで音速をこえて空気の壁を突き破るように進んでいく。


「ヒーローたちの、助けになってくれ」


 最後の最後まで未来の可能性に賭けた黒斗とメイ。

 仕事をやり切った黒斗もまたメイの側に倒れ込む。



 消えゆく意識の中で重なった愛すべき仲間の手を強く握りしめて。





「まずいっ!」


 装甲龍ユリラ=レギオンは大きさによる物量だけでなく、頭脳となるユリラが導く機敏な攻撃や戦術も合わさり手がつけられなくなっていた。


「春嶺くん! なんとか隙を作れないか?」


「苦原刑、あなたの不可視斬撃の方が良いと思うが?」


「あの装甲が硬すぎてどうにもならないよ!」


「私もだ!」


 絶対的な防御力の前に攻撃は無意味。

 ヒーローたちの強みである連携を取れないように散り散りにしていくのはユリラの作戦だろう。


「シネェ……シネェェェェェェェェェ!」


 敵の猛攻に、足を縺れさせてしまったエレナ目掛けて、巨大な足が振り上げられる。


 瞳を閉じるしか出来ないエレナの耳に熱太の悲壮な叫びがこだました。


「エレナぁ!」


 そして、未来に繋がる一撃が飛来する。



「ぐガァ!?」



「なんだ!?」


 背中に突き刺さった刀にのけ反り、足が着地したのは瓦礫の山を平らにするのみだった。

 すかさず翔香が四つん這いになっているレギオンの下へと潜り込み、エレナを救出する。


「あれは……!」


 そこに合流しようとかけていた熱太は、背中に突き刺さった緑色の展開が残る刀を発見する。

 そこに残っていたメイの力に、離れたここまで援護してくれたのだと察して。


「装甲を貫く一撃……あれなら! みんな、あれを見てくれ!」


 熱太のマスクに映る映像が翔香とエレナの視界に。そして刑と春嶺の視界にも映像が浮かび上がる。


「メイさんの援護だ! 俺たちの展開力をあそこ目掛けて一気にぶつけるぞ!」


「この化け物に亀裂を入れるなんて、流石すぎるね」


「あれだけの隙間があれば充分だ」


「蹴って蹴って蹴りまくってやるもん!」


「皆、前へ前へすぎ……クールにいきましょ」


 展開域をより濃いものにした一同の中で最初に動いたのは刑だった。


「メイさんのようにはいかないけどね!」


 強度を上げるために不可視の状態を解いた大量の槍を雨のように降り注がせる。


 鎧に傷もつけられない一撃だが、それは着撃と同時に鎧と溶け合うように融合していく。


「破れずとも足場くらいは作れるさ!」


 よろよろと起き上がるレギオンは忌々しげに己の変化を見つめるが、同化したそれを外すには自身を傷つけるしかない。


 ブレスや範囲攻撃が得意なレギオンに跳躍での空中戦は危険すぎる。

 故に体に張り付くような戦い方を思いついた刑に全員がレギオンの身体をアスレチックのようにして登っていく。


「これなら私たちに攻撃するのに自分の身体も攻撃しなくちゃってことね!」


「走駆くんの言う通りだ。このまま背中の亀裂を目指そう!」


 さらに背後に回ってしまえばレギオンの攻撃で小さきものに対応する術はないのだ。


 一団から少し離れてしまっていたエレナと翔香は右足から背中を目指す。

 自慢の脚力と鞭を操り上に向かう二人がこの中では弱者と判断されたのだろうか、ユリラの毒牙が迫る。


「や、ラセナ、イ!」


「きゃっ!?」


 脳天から伸びていたユリラの上半身は泳ぐように鎧に波を立てながら、レギオンの右脹脛部分を登るエレナと翔香に立ちはだかった。


「お前たち!」


「熱太先輩は先に行ってて!」


 三位一体の仲間が窮地に陥った時は協力して切り抜けてきたレスキューワールドだが、あえて頭脳となる部分を二人だけで相手取ると宣言する。


「……頼むぞ!」


 一瞬の逡巡はあったものの、刑と共に熱太は前を進むことを優先した。


 頭脳部分を倒せずとも引き付けるだけでこの装甲龍は暴れるだけの木偶の坊となる。


「翔香ちゃん! 協力して拘束するわよ!」


「はい!」


「ダ、マ、レ!」


 見目麗しかったユリラは鎧と癒着したような醜悪な姿になっていた。

 白目をむき、関節のないような動きから繰り出される波動は、せっかくの脚力や鞭捌きを足場を移動させられるだけに押し留められてしまう。


「せめて鞭で縛り上げられれば……」


「そのまま関節技でもなんでも決めるのに!」


 青と黄の戦士の焦りは、熱太抜きで戦う格上に対して秒を追うごとに募っていく。


「……ダメ、ネ。時間稼ギ、と同じダワ」


 奇しくも、時間稼ぎという目的は達成しているわけだが、それしか出来ない相手にユリラが脅威を抱くはずもなく。


 この二人ではレギオンの装甲に傷をつけることも出来ない、そう放置して良い駒という判断が下された。


「っ!」


 展開域の戦いは、時に相手の感情を直接伝えるような場面がある。


 今まさにエレナと翔香が感じている「侮り」などだ。

 動きを止められれば、自分が止めれば誰かがやってくれる、熱太を中心とする戦い方故にそんな思考が通常だったのかもしれない。


「逃すかぁ!」


 後先顧みない翔香の駆け上がりながらの回し蹴りは延髄を鋭く叩き抜いた。

 まさか急に思い切った行動をするなど考えられなかったユリラはドロドロになった身体を強く揺さぶられる。


「熱太先輩や苦原さん、春嶺ちゃんが……隠雅に任せていいわけがないですよ! エレナさん!」


「翔香ちゃん……」


「私たちだってヒーローですよ! 誰かがやってくれるなんて……思っちゃダメだって!」


 かつて悪の蝶、ミューパと戦った時の記憶が翔香には鮮明に蘇っていた。

 『なれてしまったから』ヒーローになった翔香に覚悟を抱かせた戦いが、脚にここ一番の展開力を発揮させる。

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