リージェの総べていた侵略区域とは違い、小さくヴィランの反応が多い比較的攻略しやすい場所から作戦を開始したことが功を奏して飛彩達は快進撃を続けた。
ヒーローに浮かれる暇はないものの、食事のひと時くらいは許されている。
「えー、我々の勝利を祝って〜」
「かてぇな。来賓祝辞かよ?」
集まるは護利隊の食堂。
夜になってもなお営業を続けているヒーロー本部の社員食堂とは違う寂しい空気の場所へ、作戦に参加した華やかなヒーローの一団が押し寄せていた。
「熱太さん、祝勝会には早すぎます。まだまだ侵略された区域は多いですし……」
手に持った炭酸飲料に視線を落とすホリィだが、少しだけ上がっている口角を隣に座っていた蘭華に見抜かれ肘で小突かれていた。
「とか言って、作戦が上手く行って嬉しいんでしょ〜?」
「それは……あの場所を奪われた方々にお返しできると思うと嬉しくて……」
「ホリィちゃんは喜ぶ理由も真面目だねぇ」
メイが気を利かせて注文してたオードブルを摘みながら、翔香は屈託のない笑顔を見せる。
この時ばかりはヒーローというよりは年相応の様子を見せる全員。
誰しもが暖かな食事を囲みながら勝利の美酒に酔っていた。
「まー、とりあえずは一勝だ。これから全部の負けを取り返してやろーぜ!」
この一団以外に誰もいない食堂で勢いよく立ち上がる飛彩は、今まで見せることのなかった笑顔に溢れていた。
それに気づいた蘭華は自分一人だけでは飛彩を心の闇から救えなかったとていたーローの仲間達へと感謝の気持ちを思い浮かべる。
「世界を引き合いに出すと数はもっとあるけど……この国にある侵略区域は全部で五つ。そのうち二つは完全に取り返したの」
「あと、三箇所奪い返せば!」
「ええ。この国に巣食うヴィランは全て倒せるってわけね」
きれいに盛り付けられている温野菜を摘みながら話すエレナの言葉に翔香は納得し、飛彩は武者震いする。
もはや奪い返すことではなく戦うことが目的になっていそうな勢いだが、動機はともかく結果が全てだ。
飛彩がいれば絶対に敗北はない、という安心感が場を包んでいる。
「——本当に、お前と肩を並べて戦う日が来るとはな」
一目散に食事に飛びつくはずの熱太も、目の前に並ぶステーキに目もくれず腕を組んで瞑想している。
「珍しいですね熱太先輩。私が食べちゃいますよ〜?」
「熱太、感傷に浸ってんじゃねーよ? 飯が冷めるぞ?」
口に肉を詰め込んでいく飛彩は、かつての約束のことを知りつつも全員の前で語られるには気恥ずかしいのか知らぬ存ぜぬの姿勢を見せつけた。
「——そうか」
少しばかり寂しげな表情を浮かべた熱太は丁寧にオードブルやメインディッシュの器に手を伸ばしていく。
一口目を運ぼうとした瞬間、流石に悪いと思った飛彩は照れながら口を開いた。
「そういうのは戦場で語ろうぜ?」
「ふっ……そうだな!」
いつものように元気よく食料をかっこみ始めた熱太の勢いは凄まじい。
少女達は自分の分を確保しながら嵐のように食べ進める男達にため息をついた。
「それでこそ熱太先輩っす!」
「いや翔香ちゃん感心するところじゃないでしょ」
同じチームメイトでも反応が違う中、男同士の友情を見続けるホリィは興奮した様子で蘭華に耳打ちする。
「男同士の熱い友情、いいですね〜!」
「ホリィはその少女漫画脳をなんとかしなさい」
付き合いきれないという様子で苦笑いしていたところ、食堂の扉が開いて春嶺とカクリが楽しそうに踏み込んできた。
もはやまともな食事が残っていないことを予想していた春嶺は、追加の食事を用意していたのだった。
「男ども、落ち着いて飯を食え……」
瞳の見えない春嶺の口から漏れる低い呪詛の声に、飛彩達の咀嚼が止まる。
「それだけ身体を作りたいのなら無限に鶏肉でも食っていろ……!」
「「は、はい」」
妙な剣幕に推された飛彩と熱太は可憐な御馳走から殺風景なタンパク質の塊を口に詰め込んでいく。
味に問題はないようで文句も言わず、黙々と食べ進めていた。
「カクリからは甘いものの追加です!」
「わぁ、ケーキがいっぱい!」
「お喋りしながらゆっくり食べるのもヒーローには必要な休息ですからねぇ〜」
到着早々ショートケーキの苺を口に放り込んだカクリは久しぶりの食事だったのか嬉しそうにその身を震わせた。
あの瞬間移動能力の維持にはかなりのカロリーを要するのかもしれない。
「私、ケーキ久しぶりだなぁ〜」
「そうなの翔香?」
甘いもの好きな蘭華は一目散に奪っていたミルクレープをチマチマと食べていた。
ヒーローゆえのストイックさを想像するも、実際の戦闘は展開の力が大きく左右するのだから好きに食べてもいいのではないかと首を傾げた。
「私たちは展開力以前に身体をどう動かせば、どう動くのかを理解しなきゃいけないからね。いつも適正体重にして動きにブレが起きないようにしてるの」
三人一組のコンビネーションの秘訣を話したエレナは今日ばかりは翔香に食べるなと強制はしなかった。
常に冷静なエレナでも今日の勝利は祝い事なのだろう。
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