「さぁて、私はまだボディーガードの話は諦めていないわ!」
「まだ言っていたのか? ん、んなもんやるわけねぇだろ……」
言葉遣いは凶暴なままだが、若干動揺からか焦りで声が震えている。
腕を組んで震えを押さえ込もうとするが全身が小さく震えてしまうだけだったが。
「えぇ〜!」
気絶するように眠っていたからか全く疲れが取れていない飛彩は再びベットへと腰を下ろした。
幽霊だと考えた飛彩は、ララクを成仏させるために出来る限りのことをしなければ呪い殺されるかも知れない、とあり得ない想像にも取り憑かれてしまったようだ。
(こうなったら、この幽霊を喜ばせて成仏させるしかねぇ……!)
一歩突き抜けたらただの馬鹿さ加減が天井知らずの飛彩だが、自分の信じた仮説へと全力で走り抜けていく。
今までのテレビや雑誌から得た眉唾物の知識を駆使して飛彩は除霊に臨もうとする。
「ボディーガードは御免だが、ダチならなってもいいぜ?」
「えっ、お友達!?」
再び表情を輝かせるララクは嬉しそうに飛彩の隣へと寄り添った。
望んでいたものがどんどん手に入ったかのように喜ぶ様子を見せているものの、対する飛彩は、隙を見て逃げなければという臨戦態勢は解いていない。
(こういう幽霊は寂しがりって蘭華の漫画に書いてあったぜ。少し付き合えば満足して消えるかもしれねぇ!)
「ほ、本当にいいの?」
「むしろボディーガードよりハードル低いだろ」
恐るべき相手なのか、ただの馬鹿なのか未だに掴めずにいる飛彩だがララクの笑顔を見ているとどうにも蘭華たちと接している時のように気が緩んでしまう。
「まずボディーガードを囲ってから、友達を作りに行こうと思ってたけど……」
「いや順序がおかしいだろ。そもそもボディーガードなんていなくても友達なんていくらでも出来るっつーの」
「わ、私、友達誰もいないから……」
急に辿々しくなったララクの言葉遣いに、ますます怪しさを飛彩は募らせる。
ホリィや蘭華たちにも劣らぬ美少女に友人がいないわけがないと僻み体質が故の偏見を強めた。
(やっぱり幽霊かなんかだ……生前ダチが少なくて悲しい思いをした良いとこのお嬢様ってところか?)
またまたメイがいれば大爆笑者で、下手をしたら窒息死するかもしれない飛彩の馬鹿さ加減は天井を知らないほどに高まっている。
気を緩めずに修行しなければならないと息巻いていた少年は、呪いを解く必要があるという妄想に駆られて大暴走しているようだ。
「ありがとう飛彩ちゃん!」
「ちゃ、ちゃん!?」
「早速で悪いけど……友達だったら遊んでくれるよね?」
隣に座っている少女の視線が恐怖の対象でしかない飛彩は唾を飲みながら頷く。
しかし、いつ遊ぶかは名言していない飛彩は一旦この場からの脱出を優先した。
「あ、遊んでもいいけどよぉ。見てくれよ汗でベトベトだし、まも……じゃねぇや学校の制服なんだぜ? こんな汚いやつが隣にいたら恥ずかしいだろ?」
デートや友人と遊ぶことを目標にしているのならば、それをより良い形で行いたいはずだ。
この挑発に乗ってくれ、と心の中で何回も頭を下げる飛彩はなるべく焦りが顔に出ないように真剣な顔つきを心がける。
「んー、確かにそうね!」
「じゃ、じゃあ俺……一旦帰るわ」
「また遊びにきてね! 絶対よ!」
とんとん拍子に進む話に、飛彩は勝利を確信する。
とにかく笑われても構わないと飛彩はすぐにメイに連絡を入れて何とかしたいという考えで頭の中がいっぱいになっていた。
「あ、ああ!」
勢いよく立ち上がった飛彩は、阻まれなかった扉の向こうへと踏み出す。
蜘蛛の巣が至るところにあり埃臭いものが鼻をつく。
「うっ……」
何故こんなところで平然と暮らしているのか、という思考から振り返ってしまう。
すると満面の笑顔のララクがぴったりと後をつけてきていた。
「うおっ!?」
木の軋む音が洋館中に響く中、ララクは飛彩の手を取って歩き出す。
うろたえる飛彩はなすがままにして廊下を引きずられていく。
「出口分からないでしょ? 案内してあげる」
「引っ張るな! あの世に連れてく気か!?」
「あの世……? ああ、それも良いかもね!」
ヴィランであるララクに対し、飛彩は地縛霊か何かだと勘違いしている。
二人の思い描く「あの世」に行き違いが生じ、飛彩の誤った考えがより深まっていった。
(くそっ……あんな時間にウロつくもんじゃねーな。まさか呪われちまうとは……)
怯える飛彩とは裏腹に、何の狙いも見せないララクは普通に下の階へ飛彩を連れていく。
大きな玄関口から差し込む光を求めるようにして飛彩はララクの手を離し、久方ぶりに感じる外に出た。
「次はいつ着てくれる?」
「あー、うーん……準備が出来たらすぐ来るぜ」
「本当に!? ありがとう!」
外と建物の中という境界線を感じながらも、ララクの見せる表情に飛彩は少し懐かしい気持ちになってしまう。
何故か幼く感じてしまう彼女には何故か幼き日々を想起させられる感覚になるようだ。
(なんつーか、ガキの頃のダチみてぇだ……)
ララクのペースに飲まれる前に歩き出した飛彩は何度も古ぼけた洋館を振り返っては手を振り続けているララクを視界に収めた。
——その度に夢ではないと感じながら。
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