「け、刑!? 危ないぞ!」
最後に調節しておいた刑の展開力が熱太たちを取り囲んでいた死鎧を吹き飛ばす。
そのまま熱太の足元に、メイと刑の展開力がこもった銀と緑に輝く太刀が突き刺さった。
再び背中にそれが刺さったことでレギオンも悶え苦しんでいる。
「あとは、頼む、よ……」
意識を失うように倒れ込む刑に、エレナと翔香を向かわせる。
レギオンを仕留めるのは自分だと息巻いた熱太でも、力を漲らせている刀を扱い切れるのかと不安を覚えながら握りしめた。
「このレギオンはタフね……完全に息の根を止めないと多分展開力は消せないわ」
「わかっている。ヒーローとして、飛彩の親友として! 大一番というわけだ!」
あえて緊張が乗る言葉を背負うことにした熱太は、次の一太刀で決めるという覚悟と刀の柄を握りしめた。
「ぐっ……!」
誰も扱っていない限りは展開力を保持するだけの刀だが、いざ振るおうとすれば攻撃の軌跡以外にも溢れてしまいそうで仲間を巻き込んでしまう懸念もある。
(飛彩に渡す前に、こんな危険な得物を……扱い切れるのか?)
死鎧を近づかせないように銃撃する春嶺にも、いつか限界は訪れる。
もはや迷っている暇はないと刀を引き抜き、構え直すもその姿勢で留めるのに精一杯だった。
迷ったまま刀を振りそうになった刹那、黄色と蒼の展開域が現れて熱太だけを包んでいく。
「エレナ? 翔香?」
「こうなったら私たちの全力もあげるわ」
「最低限の武装になっちゃうんで、速く助けにきてくださいね。刑さんも無事に確保しなくちゃいけないんで」
短い通信の後、かつてリージェを瀕死にまで追い詰めたレスキューワールドの最終形態が黒の世界に三色の光を迸らせる。
そして、かつて隣に並んで一緒に戦おうという約束を思い出した熱太は一つの思いに駆られた。
(俺は飛彩に抜かされたまま、追いつくこともままならなかったな……)
エレナたちの装甲をその身に受けとる中で、芽生えたのは悔しさではなく『希望』で。
(飛彩。新しい約束を結ぼう。俺たちは死ぬまで親友だ……お前が何者であろうと!)
その決意が、灼熱の展開域を刀の中へと限定する形で全開にするという緻密な操作を可能にした。
「お前たちの想いも……受け取ったぞ!」
飛来する青と黄色の装甲を装着する熱太は二人の展開力に後押しされる形で、その刀を完全に制御する。
「超変身! ハイパーレスキューレッド!」
熱太自身の展開力だけで刀を握らず、外部からエレナと翔香の力を使って刀を抑え込む荒技はこの三人だからこそ出来る芸当だろう。
「新志熱太! 私に構わず、レギオンをやれ! 骨は拾ってやる!」
「恩に着る!」
直後、再び起き上がろうとするレギオンに対し、攻撃のチャンスは一回のみと熱太は悟る。
その背水の陣が、集中力をより洗練させていった。
熱太がいる場所はちょうどレギオンの中心部分で分厚い胴と溶け掛けの鎧が死鎧の集合体をいまだに守っている。
そして、首などの切りやすい場所に移動する時間も余力もなく。
マスクの下の素顔をより真剣なものに変えた熱太は呼吸が整ったその一瞬に自身の展開力を全て注ぎ込んだ斬撃を横に両断するように振り下ろした。
「この一撃に全てを賭ける! トリニティー! レスキュースラッシュ!」
三色の閃斬がレギオンに線を引いたように通っていった。
一閃がわずかな静寂を生み、その行く末を全員が固唾を飲んで見守っている。
「ギャッ、ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
そのまま断面がゆっくりずれていき、レギオンは胸から上と下で完璧に両断された。
「やった、熱太先輩がやったんだ!」
刑に肩を貸す二人は少し浮いていた上腕部が地面に落ちたところを見計らい一気に下へと降り立つ。
見上げると倒れ込んだレギオンの断面は虹色の光を放っておりヒーローの力が結集した凄まじい一撃を物語っていた。
死鎧たちの気配は消え失せ、黒い展開力がホリィたちの走っていた方角に引き潮のように下がっていく。
「やったな、新志熱太」
「そう、か……成功したか、無我夢中でわけがわから……」
そのままレスキューレッドの状態に戻った熱太は刀と共にレギオンの亡骸の上に倒れ込む。
限界がきて眠りについただけだとバイタルサインを感知していた春嶺は、様々な色のオーラを纏わせる刀を見下ろす。
「隠雅飛彩……私は正直、お前がヴィランだろうと人間だろうと、どうでもいい」
熱太の見せた内側と外側から展開力で挟むように刀を持ち上げるという方法から、展開力を使って操作する分には暴走しにくいという特性を春嶺は見抜いていた。
「だが……気付けばお前とも強固な絆で結ばれていた、な」
暴れ馬ならぬ暴れ剣を、無理やり制御した刑や熱太には敵わないと思いつつ、冷静に跳弾響の展開力をマグナムタイプの銃へと集中させていく。
「お前が絆で結ばれた皆を……蘭華を笑顔にするならば! 私も全てをお前に託す!」
もはや刀を一直線に飛ばすのに小細工はいらない。
ただまっすぐ飛ばすだけということにのみ集中した春嶺の射撃はマグナムやバズーカの比ではなく。
「世界の命運なんてどうでもいい! お前が為すべきことをしろ! 隠雅飛彩ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
空中に浮かせた刀を包み込むようにして発射した春嶺に残された全ての展開力。
桃色の展開が付与されたそれは一筋の流星となり、黒い世界を射抜いていった。
いつになく大声を張り上げた春嶺は何度か咳き込んだ後、自身の展開力を見送る。
そのまま力なく熱太の隣へ片膝をついた。
むしろ展開力のほとんどを全て託したにも関わらず意識を保っているのは、仲間を守ろうとする春嶺の意地だろう。
「骨は拾うと、言ったのにな……すまない翔香。こちらにも、迎えを、たのむ……」
「うん! すぐに行くから待ってて!」
慌てるような足音が通信機越しに聞こえ、そのまま視界でも黄色い翔香が向かってきているのはよくわかった。
「あとは始祖を……お前が頼りだからな、隠雅、飛彩」
巨大な死鎧龍は、ただの肉塊と化した。
頂上決戦に寄せ付けないためにフェイウォンが放った展開力は決して少ないものではない。
異世の形成を行っていた展開力の半分以上を費やした大軍勢もヒーローたちの仲間を想う気持ちによって打ち砕かれたのだ。
仲間たちの心は一つ、今も昔も変わらぬ飛彩への信頼と絆が勝利を手繰り寄せるのである。
そして、飛彩がそれを受け入れられるのか、仲間が信じてくれる自分を信じられるのかが、世界を巻き込む決戦の境目になることは間違いなかった。
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