「雑兵かと思ってたけど……やるじゃないか」
飛彩以外にここまで追い込まれると思っていなかったのか、ぐちゃぐちゃになった鎧を眺めてリージェは深いため息をついた。
醜態を晒し続ける自分になのかはわからないが、その顔に笑みを浮かべることはもうないらしい。
「今この中で一番強いのは君だろうけど……君の展開をよく見てご覧?」
「何だと……こ、これは!?」
混ざり合っていた三色の展開が一色ずつに戻ろうとしていた。
強化展開の制限時間ということもあるが、それをリージェが拒絶して早めているのだ。
「くっ……!」
「一つに戻ってしまえば恐るに足りないよ!」
一気に間合いを詰めたリージェの拳が熱太の身体を掠めるたびに展開力が弱まっていく。一時は世界を覆ってしまうのではないかという気迫を見せていた熱太だが、攻撃されるたびに展開が引き剥がされていった。
「他の連中は力を使い果たしてる。あとは君だけだ!」
追い詰められ、吹き飛ばされた熱太は元のレッドだけの形態どころか一気に展開を解除させられる。それに反応してエレナや翔香の変身も解除されてしまう。
「そんな!」
「熱太先輩!」
万事休す。
誰もがそう思う中、ホリィは何故確定した未来が訪れないのかと震えていた。
時運がもたらす結果まであまりにも遠い。もしくは拒絶の力で弾かれたのか、と戦意が折れかけた。
「さあ、この茶番も終わりにしよう」
そこで息を潜めていた黒斗の斬撃と蘭華の銃弾が死角からリージェを襲う。
「させるか!」
「これで!」
だが展開力のない二人の行動は全て捕捉されていたようで、銃弾は発射された軌道をなぞり銃を破裂させる。
勢いよく引き抜かれた刀は鞘まで戻されてしまい、その勢いで黒斗は地面に叩きつけられた。
「くそっ……飛彩!」
「ごめん……時間稼げなかった……」
その場に立っているのはもはや飛彩とリージェのみ。
飛彩を守って傷ついた満身創痍の仲間たちは最後の希望に視線を集めた。
「悪ぃ、みんな……時間稼ぎなんかさせちまって」
「おいおい。君が戦えば終わりみたいな言い方じゃないか?」
「ああ、そう言ったんだよ」
情けない姿を晒していた飛彩に挑発されたのが気に喰わな買ったのか、額に青筋を浮かべてよりリージェは激昂の表情を漏らした。
「いい加減にしてよね。君たちの攻撃は確かにすごい……けど、僕の命までは取れないよ!」
超加速。
その場にいることを拒絶するという荒技を何度も繰り返し、音速を遥かに超える速度で飛彩へと踏み込んでいく。
「これで終わりだぁ!」
だが、飛彩にはその光景が止まって見えていた。
緑色の生命力あふれるオーラを迸らせていた飛彩が願ったのは暴虐の限りを尽くす力でもなければ、何もかもを支配する力でもなかった。
仲間を救い、癒す事が出来る力、ただそれだけだ。
もはや飛彩にとってリージェなど眼中にはなく、助けにきてくれた仲間たちに報いたいという感情だけが飛彩を突き動かす。
凄まじい勢いで手刀を差し向けてくるリージェに対し、飛彩は何故か右足を軸に回転した左足の回し蹴りで迎え撃った。
「——え?」
「オラァ!」
突き出した手刀を弾き飛ばされたリージェは地面を転がっていき、ありえないという表情を浮かべながらすぐに起き上がった。
「皆……待たせたな」
そして異世に侵され、死に絶えたはずの土地に緑が溢れ始めた。
その時、全員が目にしたのは深い緑色の鎧に包まれた飛彩の左足だ。
機械的な右足と同じような装甲だが自然を感じさせるような丸みを帯びたデザインになっている。
飛彩はまたもその名を知っていたかのように能力の名を告げる。
「封印されていた左足……生命ノ奔流」
「何だそれは……何だそれはぁ!」
辺りを埋め尽くしていた全ての異世空間を飛彩の左足が吸い取っていくだけでなく元の実りある大地へと生まれ変わらせていった。
「異世化した場所を浄化している……!?」
驚愕したのは黒斗だけではない。
蹴り飛ばされたリージェ自身も力が抜けたのを感じていた。
封印されていた左腕による支配下とは根本的に違い、命そのものを作り替えられてしまうような恐怖にリージェは包まれる。
「もう誰も傷つけさせねぇ」
その右足から放たれる緑光は傷ついたヒーローや蘭華たちを癒し始め、戦闘意志や精神力を満ちさせていく。
漲る力にもう一度戦えると思えてしまうほどに。
「下がっててくれ皆。ここからは俺が守りきる」
「偉そうだなぁ! そういうのは僕に勝ってから言ってくれよ!」
「——わかった」
そこで飛彩は左足から迸るオーラを塊にし、両腕でリージェへと放つ。
攻撃を拒絶するリージェだがその波動は一切軌道を変えず、鎧へと着弾する。
「これは……?」
「そんな見てくれじゃ戦いにくいだろ?」
ヴィランですら回復させるその効果に全員が驚いた。
異世を元の世界に復活させるだけでなく、ありとあらゆる命を全回復させるような神のごとき癒しの力を飛彩は従えたのだ。
「……何の真似だい?」
「悪いな。中の状態は分かんなかったから鎧しか直してやれなかった」
「だから何の真似だって言ってるんだよ!」
怒りをむき出しにしたリージェの拳を左膝で受け止める。
そのダメージを吸収するだけでなく、エネルギーに変換できるその力でリージェの両足が蔦に絡め取られた。
「文句言わずに受け取っておけよ」
「ハンデだって言いたいのか!?」
その場で見を翻し、後ろ回し蹴りをリージェの胴体に叩き込む。
「グアッ!?」
吹き飛ぶはずだったリージェは辺りから伸びた蔦に絡め取られ、その場へと押しとどめられる。
「この能力は全てを癒すが、お前らにとっては毒かもしれねぇぜ?」
「何を!?」
「まあ、味わってみろって!」
すかさず繰り出される前蹴りが、空を斬る音を置き去りにして鎧の修復した部分を砕き散らした。
今までの攻防を全て耐え切ってきた堅牢な鎧の崩壊に、リージェはすぐに拒絶の力を発揮して距離を取る。
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