【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

断たれた救援

公開日時: 2021年5月27日(木) 00:23
文字数:2,229

 珍しく大声をあげたホリィだが、覚悟としてララクに気づかれても良いという覚悟があった。


「なんのためにここに来たんですか、なんのために一人で勝手に侵略作戦にまで参加したのか……全部、飛彩くんにだけ背負わせないためです!」


「わかってる、そんなことわかってるわよ! でも、どうしようも……」


 そんな弱者の言い争いなど無駄だというように、二人の眼前にララクの拳が飛び出して来た。

 まるで暖簾をめくるように壁を引き剥がした破壊の権化は今までとは打って変わって物静かにやってくる。


 終わったと血の気がひいていく刹那。


「ふ、二人トモ……!」


震えつつもいつもと変わらぬ友の呼び声が二人の耳を撫でた。


「ラ、ララク! 意識が戻ったのね!」


 腰を抜かすほどの衝撃があったホリィと蘭華だが、聞き慣れたいつもの声音に飛びつくように立ち上がった。

 そのままよろめくララクに手を差し出すほどの甲斐甲斐しさまで見せて。


 だが、頭部の鎧を解除したララクは右手で頭を抑えて苦しみに喘いでいる。


「しっかりして! くっ……敵の洗脳にやられてるわ……!」


 なんとか手はないのか、と虚空を掴もうとする左手を蘭華はそっと握り締める。

 ひんやりと重い鎧が、ララクにとっての檻も同然だとホリィは口を固く結んだ。




「殺して」




 時が止まったような衝撃にホリィは戸惑いの声を漏らす。


「……意識が戻ってる内に、早く!」


「バカ! 何言ってるのよ! 飛彩だってそんなこと……」


「二人ならわかるでしょ!」


 鮮明になっていくララクの言葉。

 左目は正気を取り戻したように白くなったが手で隠している右目は悪しき展開力に染まっているのだろう。


「こんなの、飛彩ちゃんには……!」


 想い人の迷惑になりたくない、それ以上にこんな無様な姿を見せたくない、その気持ちを二人は嫌というほど理解出来た。


 何よりこのように操られて自分の始末を想い人に委ねなければならないのは、どんな罰よりも重い処遇ではないかと表情を暗く染める。


「だから早く……私の意識がある間に、こ、ろし……て……!」


 再び意識が消え入りそうになるララクに、ホリィと蘭華が決断を下すまでの時間はあまりにも短いことが告げられていた。


 小銃を構え直されることを余儀なくされるも、覚悟を決めるにはあまりにも短い時間と言えよう。






 一方、頼りの綱である飛彩は防御重視のヴィラン達を蹂躙し、最後の一体に手をかけていたところだった。


「き、貴様の方が化け物ではないか!」


「グガァァァァァァァァァァ!」


 残り一体になった身軽そうな装甲のヴィランが最後の力を振り絞った拳を放つも、紅い蹴りの前に簡単に砕け散った。

 わずかに飛彩の耳をかすめるものの、耳についたヘッドセットを揺らしただけで飛彩には僅かなダメージも入っていない。


 足を突き出したままの飛彩は鎧が灰になるのを確認しながら、全身を塗り替えていた紅い展開力が抜けていき、本来の色をあらわにする。


 それと同時に飛彩の荒い息が理知あるものに変わっていく。


「ふぅ……意識が完全にぶっ飛ぶかと思ったぜ。粘りやがって」


 暴虐の神はユリラの思惑ごとヴィランを殲滅し、自分の限界すらも軽々と越えている。

 反動を回復するために深緑の左脚のみに展開力を抑えて息を整えた。


ヴィランの残骸だけでなく高い塔が連なる周囲も爆撃に遭ったかのような荒れ模様を見せ、瓦礫が散乱している。

 紛争地域の夜はこのような惨状になっているのだろうが、それをたった一人で引き起こした飛彩はヴィラン以上の化け物と言っても過言ではないだろう。


「みんなは……おい、みんな大丈夫か?」


 通信を全員へ通じるものに切り替えた飛彩に返ってきたのは、

 苦戦しながらも善戦しているというそれぞれからの連絡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 春嶺以外にも変身した面々が増えたことで、戦いは拮抗しているが助けは必要ないというものだった。

 実際に感覚を集中させる飛彩は、複数のヒーロー側の展開を察知する。



「安心したぜ……みんな!」


「亀裂が上手く向こうの通信も拾ってくれたわ。こっちが漏らしたヴィランもあっちで何とか出来るみたい! 黒斗司令官も作戦を進めろって言ってた」


「根性見せたな……わかった、俺はこのまま敵の本丸を狙う」


 暗黒城ベスト・ディストピアはもはや眼前に迫っており、そこに今も世界の行く末を見るフェイウォンがいるはずで。


「さくっと倒して、みんなを助けに行くからよ!」


 そう言って通信を切る飛彩は、一目散に城壁に囲まれている街の中央に聳える巨大な城目掛けて全力で駆け抜けていく。


 そのまま誰もいなくなった戦場で僅かに頭部が残っていた最後に飛彩に屠られたヴィランが乾いた笑いを漏らす。



「やり、ましたよ、ユリラ様……この『錯覚の悪』めに、どうか賛辞を」



 砂を巻き上げるような強い風と共に僅かな意識は灰となって消える。


 最後の攻防は最初から飛彩に一矢報いるためではなく、錯覚の悪が通信機へと展開力を付与するためのものだったのだ。

 頭部に錯覚を向けられたことで、聞こえもしない仲間の攻勢を信じ、見えもしないヒーローの展開力を見てしまっている。


 ここにユリラが遠隔的に飛彩を制するための第二の陣が完成しようとしていた。


 飛彩がいなければユリラやララク、リージェが負けるはずもなく。


 今は誰も想像出来ていないものの、フェイウォンが飛彩と戦っている最中に仲間の死体を見せつければ確実に飛彩は動揺と共に隙を突かれて死ぬことになるだろう。


 守るべき将を巻き込んだという想像以上の効果を発揮しつつも、ユリラの奸計が残された蘭華達に牙を剥いた。

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