【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

拳にかけた誇り

公開日時: 2020年10月6日(火) 21:13
文字数:2,089

「あー、楽しい。戦いはやっぱこうじゃないと」


殴りかかろうとする飛彩の拳をわざとらしく避けるのは挑発の意味も込められている。


なす術のない飛彩に対し、拒絶の力だけでなく自身の体術も織り交ぜて攻撃を打ち込んでいく。


「さぁ、そろそろお仕事の時間かな!」


殴り飛ばされて打ち上げられた飛彩の腹部を掴み、ドームへと叩きつける。


「えいっ!」


「っがはぁ!」


震える封印のドームだが、この程度では決壊する様子を見せない。


速度を上げて飛彩を叩きつけるリージェだがなかなか発生しない亀裂に苛立ちを隠し切れないのか拒絶の力を最大限に発揮して飛彩を叩きつける。


やっと最初の亀裂に続くような形でドームが綻びを見せ始めた。


「ぐうっ!?」


「一気に穴を開けちゃうよ〜。ほら、僕が開けるか君が開けるかの違いなんだ。部下になった方が生き残れるし得じゃない?」


「損得で生きてたらこんな仕事はやってねぇ!」


拒絶の力に逆らった右足の一閃がリージェの頬を掠めた。

頬をわずかにかすっただけだが、黒い血が再び流れ落ちる。


「——ねぇ、いい加減にしなよ」


幼子のような高い声音だったリージェとは思えぬ怒りのこもった低音。


殺意がこもりつつも冷め切った瞳が飛彩を射抜き、全身全霊を持って防御態勢を取らせた。


「そういう顔も出来るんだな!」


拒絶の力を用いていないことに気づいた飛彩はすかさず右足に持てる力を全て注ぎ込んで迎撃する。


二人の前蹴りがぶつかり合った刹那、弾かれた飛彩の蹴りが逆に隔壁へと叩きつけられた。


「な、にぃっ……!?」


能力も何も関係ない純粋な膂力で飛彩は完全に組み伏せられてしまっている。

ダメージよりも実力で力負けたした事の方が鋭い痛みとして心を穿つ。


「遊びは終わりだよ」


すぐに壁に叩きつけられた足を地面へと戻すが、もはや飛彩には攻撃する余力が残されてはいなかった。


片膝をついてリージェを見上げることしか出来ない飛彩は息を飲む。


振り上げられた右足に能力が集ったことが理解できた。


飛彩は走馬灯にすら駆け抜けられてしまい、自分を断罪する断灯台が迫るのをただただ見つめる。


「くっ……!」


などと、諦められるほど飛彩は大人しくなれなかった。


なけなしの力を左腕に束ねつつ、大きく広がった異世の入り口から自身もエネルギーを吸収することで動くはずのない腕に動力を与える。


「死ね。鬱陶しいおもちゃはいらないんだ」


「誰がやられるか!」


そして。


その瞬間を今か今かと待ち構えていた援護射撃がリージェを様々な方位から襲った。


ドームから伸びた小銃や機銃が対ヴィランの特殊な弾丸を装填し、リージェを蜂の巣にしようと轟音を叩き鳴らす。


「ちっ!」


無視できない物量だと感じたようで前蹴りを回し蹴りに変更し、銃弾をなぎ払っていく。


その瞬間に呼応出来たのリージェだけではない。

生み出された隙へ歯を食いしばった飛彩が拳を流星のように振り抜いた。


「死ぬのはテメェだぁ!」


足を振り回し、飛彩に半身を晒しているリージェ。


どこでもいい、とにかく有効なダメージを与えねばと横腹へと全身の力を叩きつける。


鎧の中に走る激痛に苦悶の表情を浮かべるリージェは何度も地面を転がって吹き飛んでいく。


それを確認したのか一機の小型ドローンが俊敏な動きで飛彩の近くへと飛来した。


それが誰によるものかを理解している飛彩は何も疑わずにその名を呼ぶ。


「助かったぜ、黒斗」


「急いで防衛設備を復旧させた。中のヴィランが定期的にここを破壊するらしいからな」


「だいたい起こってたことはわかったよ。それも奴らの遊び道具になってただけだと思うぜ?」


何事もなかったかのように言葉を紡ぐ飛彩だが、正直なところ渡りに船というところだった。


準備が整ってもすぐに援護せずに、決定的なタイミングで攻撃を仕掛けられる黒斗の度量と飛彩への信頼があったからこそ逆転の一撃を放つことができたのだ。


大の字になって寝転がっていたリージェは深く息を吸い込み、腕の力を使って一気に跳ね起きる。


まだまだ続く戦いに精神が疲弊しそうになった飛彩だが、今の攻防で一筋の希望を見出したのかなくなったはずの力が全身へと溢れ出した。


「見えたぜ、能力の仕組みがな」


「へぇ? 言ってくれるじゃないか。さっきまでボコボコにされてたくせに。言っとくけど、これからもそれは変わらないよ?」


「それはどうかな?」


挑発的な言葉を発した後、飛彩は小さくリージェへの牽制射撃を黒斗へと促した。


示されるがままにリージェに狙いをつけた小銃たちが弾の限り攻撃を放っていく。


飛彩のいる方向を除いた全本位から迫る超速の弾丸に対し、リージェは地面を砕いて土の壁を作り上げた。


「嫌がるだけが僕の能力じゃないんだけど?」


「知ってるよ」


刹那、リージェの背後から響く飛彩の声。


ありえないとは思いつつも振り返ったリージェが見たのは一機のドローンだった。


時間にしてわずかコンマ数秒と言ったわずかな時間だが、視線を切ってしまったリージェに対して飛彩が右足による槍脚を放つには十分すぎる時間稼ぎとなる。


「僕への攻撃は拒絶する!」


見えない波動が飛彩を襲うものの、何故かその飛び蹴りは一切攻撃の速度を緩めなかった。

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