【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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後ろにララク

公開日時: 2021年3月24日(水) 00:04
文字数:2,302

 しかし、それには飛彩の尽力が不可欠で少しでも怯えるような素振りを見せれば幽閉とメイト黒斗の間で協定を結んでいたのだろう。


「ララクは、私たちにとってもヴィランにとってもジョーカー以上の存在。ヒーロー本部側も簡単に止められないことはわかってる。しかし、せっかくの情報源をみすみすヴィラン側へ返すのも癪……というわけですね?」


「さすが刑くん。整った顔立ちに見合った聡明さ!」


 それほどでもと言わんばかりに銀色の髪をかきあげる刑。

 なんでこんなナルシストが人気のヒーローになれるのか、と飛彩は怪訝な表情を露わにする。


「ララクちゃんとの生活が大事なら、どんな相手からも守り抜きなさい。そして彼女の有用性、安全性を証明するの。そうすれば……」


「メイさん」


 より攻撃的な雰囲気に戦闘時のような警戒を刑までがしてしまうほどで、メイの頬に一筋の汗が伝う。


「ララクは兵器じゃねぇ。人間だ」


「——そうね。ごめんなさい」


 人間だと飛彩がはっきり断言したことが、何故か当事者ではないメイすらも嬉しくなってしまう。

 そして、そう断言してくれる存在がいるのであればララクも幸せに暮らしていけるだろうとメイは親のような心境に至る。


 あとは極力正体が表に出ないようにバックアップすればいいだけだ、とメイは勝手に仕事を自分の中に積んでいく。

 感情論を抜きにしてもララクが絶対に裏切らない味方になることを黒斗も望んでいることもあるが、何よりも少年少女たちの青春を守りたいとメイが感じてしまっているからだろう。


「それにしても飛彩ったら随分とララクちゃんにご執心じゃない」


「は、はぁ?」


「もしかして、好きになっちゃった?」


 下世話なことを聞くメイは飛彩のベットに腰掛け、息子の好きな人を探ろうとする母親のような表情になっている。

 何歳になってもそういう話は好きなのか、顔から疲労の色は消えていた。


「な、何言ってんだよメイさん!?」


「そのくらいで動揺するなよ飛彩くん」


「うるせーな! 鏡に映った自分の顔とおしゃべりでもしてろ!」


 といつもの口喧嘩程度の咆哮をあげただけにもかかわらず、窓の外をが唯一見える位置に座っている刑は顔色を真っ青にした。


「あ? この程度でビビってんじゃねぇぞおい!」


「ムキになっちゃって〜。本当に飛彩ったら可愛いわねぇ」


 照れ隠しに声を上げ続ける飛彩をよそに、刑は震える様子で窓の外を指さした。


「う、後ろ……」


「あ?」


 左後方にある窓へと飛彩が視線を向けた瞬間、重力に従い地面に向かって下がっている薄い蒼のかみが飛び込んできた。

そしてぱっちりと大きな瞳でじっと見つめられていたことに気づいて飛彩は飛び上がってしまう。


「うおぉぉぉ!? ララク!? 何してんだお前!?」


「まるでヤモリね。もしかして聞かれちゃったかしら?」


 とことん下世話なメイだったが。

 それよりも逆さまになって窓に張り付いているララクに心臓が止まりそうになる程驚いた飛彩は、二の句が継げずに口をパクパクと動かしている。


「飛彩ちゃんの気配がしたから〜、探しにきたの。で、何? ララクのこと好きとかどうとか言ってたけど……」


 そのまま窓をずらし、ぬるりと部屋に侵入したララクは飛彩の側に寄り添うようにして上目遣いでベットの中へと忍び込んだ。


「ララクのこと気になっちゃうの?」


 心臓がバクバク言っているのは恋心ではなく、お化け屋敷で想像以上の驚かされ方をしたからだと声にならない声を飛彩は上げ続ける。


「ララクちゃん! いきなり窓から飛び出して……って飛彩くん!?」


「ぎょわー! 女二人も侍らせて何やってるのよ! 二人とも降りなさい!」


「二人ともカクリの能力で北極と南極に飛ばされたくなかったら……」


 廊下をドタドタと駆け抜けてきた三人がさらに病室を混沌に陥れた。

 遅れてやってきた春嶺も制御しようとしていたようだが、もはや疲れてどうでも良くなったのか刑のベットの側にもたれかかる。


「き、君も大変だね?」


「もう疲れました。病室変えてほしいです……」


「うん。それはすごい同感」


 と、冷静な二人はついていけず再び眠りにつくことを選んだが故に、もはや少女たちの暴走を止めるものは存在しない。


「みんな静かにしてっ! 飛彩ちゃん、ララクのこと気になってるみたいな話してたんだから!」


「ぎょわぁぁぁ!? そんな話してたの!? 本当ですかメイさん!?」


 動揺が走る中、メイの襟元を掴んで振り回す蘭華は病人の佇まいではなくなっていた。

 もはや愛と怒りを原動力としたロボットのようなものである。


 飛彩の襟を掴んでこれでもかと揺らし続けたことで茶色がかったセミロングの髪は乱れに乱れた。


「本当本当。飛彩ったらララクちゃんのことになるとすぐムキになっちゃうっていうかー」


「わ、私のことでもムキになってくれますよ!」


「いや、どこで反論してるんですかホリィさん!」


 収拾がつかないカオスな病室の騒ぎにの最中にも、照れながら頬を染める飛彩が刑はどうしても気に入らずナースコールを連打して外に叩き出すように医者や看護師へモンスタークレーマーばりの勢いで頼み込むのであった。


 




 結果は火を見るより明らかで、騒ぎすぎにより飛彩、ホリィ、蘭華、カクリ、ララクの五人は入院服のまま外へと一時的に叩き出されてしまった。

 とうとう騒ぎに耐えかねた病院側が、今せっせと空き部屋を作って全員を別々に入院できるように調整中らしい。


 リハビリがてら、病院の敷地内にある散策コースを一同は進むことにした。


 刑と春嶺はやっと静かになると言い残して部屋に残ることを選択し、メイも黒斗に報告をということで簡素な変装用のメガネをララクへと渡して本部へ帰ってしまっている。


「どう? 似合うかしら飛彩ちゃん?」

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