一方、護利隊の本部から程近いヒーロー本部のとある会議室。
「始業すぐに会議なんて、面倒な呼び出しをしてくれたなぁ?」
「しかも直前にアポもなく会議を入れるなんて……やはり護利隊は常識知らずでは?」
長方形に長い会議室の奥でふんぞり帰っている初老や中年の男達。スポンサーとズブズブに繋がって甘い汁を啜っている無知蒙昧な連中だ。
テレビのニュースで初めて侵略区域が増えたことを知ったような上層部とは思えない彼らは入り口付近にいる黒斗やヒーローの面々に懐疑的な視線を送っている。
「失礼しました。非礼をお詫び致します……」
「まあ、良い。とにかく状況の報告を頼む。情報が錯綜してまともな発表が出来ん」
「護利隊の責任者なら何か知っているだろ?」
不遜な態度の幹部連中に刑や翔香が苛立つのも無理はない。
常に微笑みを浮かべるホリィですら嫌悪の眼差しをむけてしまうほどだ。
「では、現状を皆さんは何もご存知ない、という認識でよろしいですか?」
「さっきからそう言っているだろう。現場はてんてこまいだ」
「それより、あのドームを君たちで何とかできるかね? これはかなりのエンターテイメントになりそうだぞ!」
そのまま下賤な笑い声が会議室を包んだ。
「私たち、こんな人たちの下で戦ってたの……?」
「翔香ちゃん、今は耐えて」
どのように交渉すべきか、それを考えながらの話し合いは精神的にも厳しい。
黒斗の用意していた交渉も、ここまで保身と利益重視の相手には意味がなかった。
「早速スポンサーにも連絡しよう。護利隊も総動員したまえ」
「御言葉ですが、今回のヴィランは今までの比ではありません。以前発生した大規模侵攻どころではなく、国そのものがなくなってもおかしくはない戦いになります」
それは利権ばかり追いかける連中への最後通告に他ならない。これで素直に協力するかしないか、それがヒーロー本部の分かれ目になるとも知らずに。
「それほどのヴィランをヒーローが退治できればまた荒稼ぎ出来るな!」
「失礼を承知で進言いたします。今は金儲けより、平和を守ることを優先すべきです」
会議室にどよめきが走る。絶対権力者だった幹部連中に歯向かうものなど今まで存在してこなかったのだろう。
「自衛隊や警察にも協力を要請し、全てのヒーロー、武装、資金を導入の許可を。この戦いで我々が必要ない世界にするために」
その言葉はまごうことない黒斗の掲げる信念だった。言うなれば綺麗事、大勢の平和のために少数が犠牲になる戦いだ。
今まで荒稼ぎして私腹を肥してきた連中が縦に首を振るはずもなく。
「それは通常の作戦が失敗した場合だ。まずは稼いでから……だろう?」
「それにヴィランを殲滅したら隊員たちの働き口はどうする? 安全と恐怖のバランスの良い供給があるからこそ我々が必要になるのだ」
これが命がけで戦うヒーローと安全なところからゆったりと経営の数字だけ見ている幹部連中の意識の差だった。
議論は間違いなく平行線、このままではメイが稼いでくれた時間も無駄になってしまうと熱太が顔に焦りを浮かべ始める。
「くそっ……何とかならないのか?」
「一応訊くけど、勝算はあるんだよね? 話し合いには応じてくれなさそうだけど」
すり足で黒斗の背後を取った刑が囁くと、振り返ってきた相手の表情にさらに空気がひりつくのを感じとる。
「強引なやり方とゴマスリどっちがいい? 俺はもう、強引な選択肢しかないんだが……」
「ちょ、ちょっとまっ……」
黒斗から感じた抑えるつもりのない怒りを感じた刑が不意に手を伸ばすよりも早く、黒斗は腰から拳銃を引き抜いて幹部連中へと銃口を突きつける。
「く、黒斗さん!?」
驚きの声をあげるホリィたちよりも椅子から転げ落ちる勢いで幹部連中は震えていた。
それもそのはずで、黒斗より前にいる連中は本来ヴィランに向けられるような殺気を向けられているのだ。
それはぬくぬくとした温室育ちの連中には身を焼かれるような初めての体験だったろう。
「く、くくく黒斗くん、落ち着きたまえ」
「そ、そうだ。こんなことして何になる!? おい! お前らもそいつを押さえろ、ヒーローだろ?」
しかしどちらに正義があるかなど一目瞭然。
利益も何も関係ない平和に対する滅私奉公が必要とされる今、ヒーロー本部の幹部連中はもはやヴィランに与する悪に等しい。
「おい! 聞いているのか!」
黒斗以外の面々が飛彩を連れてこなくて正解だったと感じる中、それと同等の凶暴さを内に秘めた黒斗は権力に怯むことなく言葉を続ける。
「今回の戦いは人類とヴィランの戦いに終止符を打つことが出来るかもしれない戦いなのです。人類一丸となって戦わなければならない!」
「そ、そんな熱くならなくても……」
「それなのに利益だ何だと御託を並べ……貴方たちはヴィランと何も変わらん! 今をもって全ての指揮権を私に譲渡してもらおう!」
「戦いに勝てば職を失うんだぞ! 誰もお前について行くはずがあるまい!」
まだ何とかなると思っている連中からヤジが飛ぶ。
しかし、一大決戦を前に現状のヒーロー本部では戦いにならないと感じた黒斗も引き下がる気はない。
もはや実力行使しかないか、と瞳が細まった瞬間、黒斗やヒーローたちの後ろにある扉が開いた。
「こうも世界平和のためにまっすぐな連中がいるとは、驚きだよ」
「っ!」
援軍を呼んでいたのか、とホリィたちが慌てて振り返った刹那。
そこに現れたのは幹部連中でも頭の上がらない重鎮だった。
「お父様……!?」
「何っ?」
流石の黒斗も後ろへと振り返る。
金が世界を支配できるのならば、ヒーロー本部実質支配しているのはスポンサーたちになるだろう。
故に現れたホリィの父親であり、センテイア財閥の王「カエザール・センテイア」にその場にいた全員の背筋が伸びる思いになるのも無理はない。
「お父様、こんな早くに一体何を」
「世界の危機とあらば資金を与えている連中の動向が気になるのも当然だろう?」
「こ、これはカエザール会長! お見苦しいところを」
「構わん。議論になるのも無理はないだろうしな」
そのままヒーローたちの間を分け入ってくるように進むカエザール。
そしていつの間にか背後にぴたりとついていたスティージェンが幹部連中とヒーローたちの間の場所へとカエザールを案内した。
センテイア財閥の情報網をもってすれば、ヒーロー本部より早く現状の把握も容易なのだろう。
すでに大まかな戦況、現れた凶悪の存在に関してもどことなく察知しているようだ。
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