「はぁ!」
「死ねぇ!」
方々に散らばる足場を使った空中戦をを繰り広げるフェイウォンと飛彩。
少しでも足を踏み外して追撃されれば狭間の重力でぐちゃぐちゃに擦り潰される。
そんな綱渡りな状況で互いに拳と刀をぶつけ合い、何度も一を入れ替えながら白と黒の軌跡が狭間の世界で決戦を描く。
一際大きな衝突音を散らした二人は、互いに少し大きな浮島へと着地する。
「ちっ、展開力を内側に回して固めやがったか」
展開力そのものをなかったことにしていき、能力の総量をどんどん引き下げて頂点を無効化する作戦はいまだに難航している。
(にしても俺が押してるんだよな? 鬱陶しいタフさだぜ……)
戦いの中で打撃を受けた全身が鎧を通してでも鈍く痛み、長期戦はまだまだ不利だと唾をはいた。
(展開力を鎧の中に押し留めねば、一瞬で削り取られる)
対するフェイウォンもまた飛彩の攻撃で大きく展開力が削られないように調整しながら戦いを続けている。
(しかし、何だ? 欲望のままに戦う事は私と同じはずだ)
戦いに大義など必要ない、それにはフェイウォンも同意している。
己の欲す物のために他者を蹂躙することで力は最大限に発揮されるのはずだと。
そう考えているからこそフェイウォンには余計な雑念が生まれていた。
(私の方が長い年月を共にした願いがある。なのに何故、今更己の心に気づいた子供に……!)
憤りと追い込まれている自覚、それら全てがフェイウォンを苦しめる要因になる。
今や孤軍となった子供相手に、何故始祖である自分が追い込まれているのかと怒りを燃やして。
「私と貴様……何が異なるというのだ?」
「あぁ? ぶつぶつ言ってても伝わらねぇぞ?」
互いに長期戦は避けたいともなれば全力を込めた技の応酬になるまでに時間はかからなかった。
「落ちろ! バニッシュメントウェーブ!」
先手を打つ飛彩が、大袈裟に振り回した刀から飛ぶ白き斬波。
それは展開力を保持して浮いていた足場を狭間へ叩き落としながらフェイウォン目掛けて突き進んでいく。
「ちっ!」
全力のぶつかり合いは願っていたが、飛び道具での牽制はフェイウォンにとって、最も避けたかったものだった。
触れるだけで展開力を消し去る攻撃に波動を撃ったところで即座に消されてしまう。
拳で受け止めれば消滅はしないだろうが、身体に留めた展開力の大半は吹き飛ぶのだ。
残された方法は回避のみで大きな足場の左側へと一気に駆けていく。
「逃すか!」
「っ!?」
全体重が乗った重い飛び蹴りを白羽取りでフェイウォンは受け止める。
それだけで身体中の展開力が吹き出しそうになるものの、冷静さの仮面を脱ぎ捨てた剥き出しの戦意で堪え切ったようだ。
「こ、このままへし折ってくれる!」
「だいぶ余裕がなさそうだ、な!」
もはや後出しジャンケンと言ったところか。
受け止められたのであればそのまま波動を放てばよいと、飛彩は至近距離からの斬波を再び放つ。
両手から感じたざわめきのままにフェイウォンは肩口にかすり傷を負いながらも展開力を爆ぜさせて回避した。
その噴出した展開力を伝って身体からも力を奪われたとしても命には代え難い。
だが、後手な思想が飛彩にとって攻め入る隙になるのだ。
「臆病だなぁ? 始祖なら堂々としろよ!」
斬波を叩きつけた勢いを使った猛突進で。飛彩はフェイウォンへと再び詰め寄る。
そう、飛彩はこの展開まで見透かして戦いを組み立てていた。
戦いにおいて追う者でありながら、体力的に優位に立った飛彩の猛攻がフェイウォンにとうとう牙を突き立てた。
「くっ! ならばぁ!」
飛びかかりながらの切り払いに対し、フェイウォンは展開力で黒く光る剣を作り上げた。
奪われる展開力を予め刀にすることで力の減少を最小限に留める狙いだろう。
その反撃を見た飛彩は口角を上げて、右腕に展開力を集中させて光速を超える勢いの斬撃を放った。
「腑抜けてんじゃねぇ!」
切り払いをいなすような角度で放ったフェイウォンの闇刀は触れた瞬間に折れて消滅する。
「消えたッ!?」
消されたのは展開力ではなく、戦う意志のようで。
フェイウォンは回避することも出来ぬまま、驚きの中で痛みを受け入れる。
「頂点に立つ者にしちゃあ、随分と後ろ向きだな!」
そのまま右肩から左腰にかけて大きく斬り裂かれたフェイウォンは血のように黒い展開力を噴出し浮かぶ足場へと染み込ませていく。
よろめくフェイウォンに対し、飛彩は横薙ぎの回転を活かした回し蹴りを顔面にも叩き込んだ。
「吹き飛びな!」
「ぐぶはっ!?」
いくつもの足場を粉砕しながら吹き飛ぶフェイウォンは受けたダメージと奪われた展開力を冷静に分析しながら、狭間に落ちないことだけに集中した。
瓦礫に何度も当たって追加の負傷を負おうとも、一撃必殺の奔流の中に叩き込まれるわけにはいかない故に。
「ぐっ、ぐぅぅ……!?」
いくつもの地盤を砕いたフェイウォンが止まった浮島も、側面に撃ち込まれたことでクレーターが出来てしまった。
めり込んだままで身動きも取れず、傷口から展開力の漏出を防ごうと必死になっている。
「押されすぎて萎縮してるぜ、始祖のくせによ」
「何だと?」
すぐ近くの足場までやってきた飛彩は嘲るでもなく、淡々と事実を告げて見下ろした。
「この一撃を凌いで、次に繋げるって思ってたよな?」
「それが、何だ……?」
「俺とお前の差だよ。さっきも俺は殺す気でやってた。二の手で倒すなんて考えてねぇ」
想像以上のタフネスにより苦戦している事は隠しつつも、本気で戦っている姿勢をわざわざ示す。
「逃げて逃げて、隙を見て倒す? はっ、お前はもう頂点じゃねぇよ」
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