【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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第5部 2章 〜悪という概念〜

闇眩しの城

公開日時: 2021年6月5日(土) 00:08
文字数:2,206

 現世でメイが再び人間側についたことなど知る由もないヴィラン陣営とヒーロー陣営は、持てる全てをぶつけ合っている。


 戦いは両陣営の予想を超えて長引いているが、それを気遣う余裕もない。

 故に暗黒城ベスト・ディストピアにてフェイウォンが沈黙を続けていることはあまりにも不気味な現実と言えよう。


 城の最上部、そのバルコニーにて城下と異世の地平線を見下ろすフェイウォンはその場に用意した巨大な玉座に深く腰掛けて瞳を閉じている。


 異世を作り上げたフェイウォンにとって、この世界のことは肌で感じることが出来た。

 本来ならばユリラを叱責し、処罰していたはずだが人間たちの必死な抵抗が心地よい音楽のようで長らく聞き入ってしまっていたのである。


 それは、まさに敵を敵とも思わぬ慢心。

 しかし、その慢心があったところで誰もフェイウォンには傷一つ付けられないのかもしれないが。



 予想以上に足掻く人間の叫びは、悪の始祖にとって娯楽でしかない。



 そんな事実と差を知らぬ飛彩は、とうとう城門までやってきていた。

 壁と街に囲まれている城だが、現世と同じように黒い何かが流れている堀が存在している。


「ボスってやつは一番高いところにいるのが定石だよな」


 それは侵入者を阻むものではなく雰囲気作りなのかもしれないが、高くそびえる壁や住居とは比べ物にならない重厚感を見せる材質、深淵にまで続いてそうな堀など全てが難攻不落をイメージさせてくる。


 そもそもヴィランたちであれば城壁も飛び越せるのだが、それをしないのは自ら死ににいくような真似はしないということだろう。


 使用人も衛兵もいないベスト・ディストピアは建物自体がフェイウォンの最後の砦のように飛彩には見えていた。


「一気に城の頂上からぶっ壊せば……」


 変身前から攻撃しようとする外道な方法を思いつく飛彩だが、直後耳元で話しかけられたような違和感にすぐさま飛び退いた。


「やっぱ衛兵でもいるのか……?」


「そんなもの、この城には必要ないさ」


「この声は!?」


 飛彩の身体を縛るほどの衝撃。

 目の前にいるかのように話しかけてきた相手はフェイウォンそのものだった。


「驚く必要はない。異世は私が作ったもの……どこにだろうと目を張り巡らせるし、耳もあるさ」


「規格外すぎるだろうが……!」


 世界の一部、いや異世そのものがフェイウォンの一部というほどの巨大な相手に飛彩は流石に後ずさる。

 世界ではなく捕食者の胃の中にいたと自覚させられたことで一気に緊張度が増していった。


「そう脅えるな。人間の世界に興味が湧いただけでなく、乗り込んできたお前たちには随分と見入ってしまってな」


「だったらあっちの世界の侵略をやめてもらおうか?」


「何を馬鹿な……勝利する気でいるお前達が愉快なだけだ。人間に希望を見出させ、それを絶望に叩き込む遊びは面白いからなあ」


「はっ、小悪党みてぇなこと言いやがって」


 左腕の力を解放した飛彩は溜め込んでいた展開力を拳に凝縮し、いつでも城目掛けて解き放てるように臨戦態勢を整える。


「ほう……」


 ある程度の相手ならば遠隔で御することも可能と言わんばかりのフェイウォンの気配が若干薄れていく。

 本体の方に意識を戻したのだろうか、飛彩の攻撃はしかと脅威として映っているようだ。


「城ごと吹っ飛ばしてやる!」


「待て待て。幻を見たままでは本領は出せまい」


「何……っ!?」


 黒い風が天から飛彩目掛けて吹き荒れる。

 ただそれだけで錯覚のヴィランがもたらした嘘の情報は飛彩の意識から消えていった。


「なっ……! みんなが!」


「そうだ、お前の仲間は我が配下と拳を交えている。存外善戦しているようだがな」


 飛彩を救援に向かわせないように仕向けた敵の策略に踊らされていたと自覚する頃にはもう遅い。

 いくつものヒーローの気配とヴィランの気配が互いの展開力をぶつけ合っていることが理解出来た。


「クリエメイトの報告では変身出来なかったはずだが……能力が身体に刻まれることもあるか。確かにこの世界であれば必要な展開力は吸収しやすかろう」


 ヒーローが次々と能力を取り戻すというのはヴィランにとって脅威のはずだがフェイウォンいとっては余興同然なのかもしれない。


「ララクは敗れたか……まあ、良い。どちらにしろあれは抜け殻のようなものだからな」


「くそっ、こんな時に惑わされたなんて」


 その言葉を放つ飛彩は自然と足が下がってしまっていた。

 事実、フェイウォンの相手よりも仲間を助けなければという意思が湧くのは自然なことだろう。


「私の前に現れておいて背を向けるか? 敵が目の前まで攻めてきているのに大人しく待っているのも面白くない」


 その威圧感に飛彩は隠し球である右腕の力以外を瞬時に発動した。いや、発動させられたと言っても過言ではない。


「貴様は私を楽しませられるか?」


 影から立ち昇る黒い瘴気が人の形へと変わっていく。

 全身を覆うマントが実力を隠すようで飛彩は尚のこと臨戦態勢を強める。


 闇に紛れるような長髪、誰よりも黒い鎧が垣間見えるだけで拳が通じないのではないかと怯んでしまうほどだ。


「やってやる……やってやるよぉ!」


 相手が本体だろうと、小手調べの分身体だろうと関係ないという力の込め具合で左拳を叩きつけた。

 黒の支配、深緑の生命力、紅き暴虐の力が重なり合い、爆発的な速度の攻撃は着撃した瞬間に相手を縛るだけでなく破滅に導くはずだった。


「そんなものでは仲間を救えぬぞ?」


「ちっ、本気でぶん殴ったのにピンピンしやがって」

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