仲間に思われているなどお構いなしに、飛彩はで命が燃え尽きる勢いで拳を震い続けた。
始祖のヴィランも一時は飛彩に押されていたが、もはや手加減などする気もないようで。
「……私の権能をお前は、いや、誰も知らんか」
「んなことどうだっていい!」
自身の力がフェイウォンの上をいく間に早く、と飛彩は決着を急ぐ。
今まで以上の展開力を込めた飛び蹴りを放つがそれは何度も砕けたはずの右手で簡単に抑え込まれた。
「特別に教えてやろう……」
掴まれた足を起点に走る悪寒。それはまるで、知らない方が良いと体が理解しているように拒否反応が鳥肌として鎧の内側へ広がっていった。
「くそっ!」
そこからの攻撃は初めてフェイウォンと邂逅した時と同じく、全てを防がれ追撃の目すら摘み取られてしまう。
まるで飛彩に順応し、全ての把握は終わったと言う様子で再び飛彩の顔面を一瞬で掴み上げた。
「私自身の能力は『頂点』……『悪の頂点』だ」
抽象的な言い回しに例えなのかと飛彩が思った瞬間、捻りあげられ瞬時に叩きつけられたことで痛みすら遅れてきた攻撃に飛彩はその所以を感じる。
(まさか、頂点って……!?)
そのまま容赦ない追撃が寝転ぶ飛彩の腹部へと叩き込まれた。
鎧に亀裂を入れてきた飛彩にとって初めて味わう痛みは、まさしく体を砕かれようなものだった。
「ぐはっ!?」
「認識した事象において必ず頂点に立つ。私が全ての世界の王になるのは……決められているんだよぉ!」
地面を穿つほどの踏み付けに鎧は砕けかけ、回復し、砕けかけを繰り返す痛みに脳の奥が明滅する。
肉体と鎧が展開力で混ざり合うような感覚は飛彩に人であることをさらに認めさせないものになっていった。
「ぐっ、ぐうぅ……!?」
「この力を引き出したことは認めよう。だが今までは余興に過ぎぬ!」
かろうじて反撃に打って出る飛彩だが、仕掛けているのに後方に下がるしかない状況に喘ぐ。
フェイウォンの鎧を殴りつけているのに飛彩の方が何故か押されている。
理由は単純で全くダメージが通らず、ただフェイウォンは悠然と進んでいるだけなのだ。
「全ては私が! フェイウォン・ワンダーディストが頂点に立つためのなぁ!」
振り下ろされた拳は鉄槌や斧と呼ぶにはあまりにも重過ぎて。
「がっ……」
強化された全身の鎧だけでなく、その下にある飛彩の肉体は文字通り一瞬裂けた。
熱い傷口から立ち昇る痛みは人の脳で許容出来ないようで、意識も途切れる。
「しかし、ヴィランの力がお前に死ぬことを許さないのだ」
その宣言通り、暴走した生命ノ奔流の力が瞬時に飛彩の体を元に戻した。
一度真っ暗になった視界が光を取り戻した瞬間、飛彩は動揺もせずに即座に蹴り上げる。
流石にその反撃は想定していなかったようで、フェイウォンも鎧の心臓部を射抜かれよろめいた。
「いかに頂点だなんだ言っても……ダメージは喰らうんだろ? だったら勝機だってあるはずだ」
「……夢を見させ過ぎたか?」
砕けた部位は今まで通り何事もなかったかのように修復される。
それと同時に異世では起きたことのない地鳴りが響き、すぐに地面の揺れへと変化していく。
「まだ隠し事かよ」
「この異世を作ったのは私だと言ったな?」
両手を大きく広げると同時に、展開力が黒い光の流れを作り出してフェイウォンに吸収さていく。いや、元に戻っていく、と言った方が適切だろう。
「異世は私の展開域そのもの……解除すれば滅びが待っているが、それも構わん」
「まさか……異世が崩壊していく?」
展開力を一部だけ使っていたフェイウォンは、もはや手加減をやめている。
異世を維持するために使っていたエネルギーを全て自身へと戻すことで最強の状態になった上に今の世を破壊するというのだ。
凄まじすぎる展開量に、格の違いを改めて思い知らされる飛彩だが尚更こんな存在を元の世界に送るわけにはいかないと拳を強く握る。
「あっち側をこんな世界にさせてたまるか!」
「ふざけたことを。お前はこの世界の居心地を理解しているだろうに」
フェイウォンの力が凄まじく増長したと同時に、異世は震えを止めた。しかし、地面や住居が少しずつ崩壊を始めて虚空の闇空へと登っていく。
つまり、飛彩が見た狭間に潰されたヴィランと同じような現象がこの異世にも怒ろうとしているのだ。
(まずい、皆だけでも逃さないと……いや、メイさんならこの現象を理解してるはずだ)
現実的な判断をして、逃げてほしい、そう飛彩は願う。
心中となっても構わない、相手が戦いの頂点に立つ存在だとしても同じ頂点に並べば相打ちには持ち込めるはずだ、と希望を握り締めて。
「数十分もしないうちに、この世界は異次元空間へと消えていく。今ならばまだ、痛い思いをせずに我が配下に迎えてやれるが?」
「そーか、それだけあればテメェをぶっ潰せる!」
「……教育に時間はかけられんな。痛みで教え込んでやろう」
そこからのフェイウォンの動きはまさに段違いだった。
展開力そのものと化したからなのか、常にオーラが揺らめいて動作が分かりにくくなっている。
もはや無数の選択肢が途中までほぼ同時に存在しており、有効な一つが選ばれる未来確定に近い何かとなっていた。
しかし、飛彩もまたヴィラン化した己に対して折り合いがつかないままではあるが、能力を理解してどう使うべきかを学び始めている。
特に展開無効は一瞬だけだが有効な手立てとして残っているようで、総合的な能力で劣る飛彩がフェイウォンに食らいつけている一番の理由になっていた。
「この世界と共に滅びてもらうぞ! 始祖のヴィラン!」
「余興は終わったと、何度言わせれば気が済むんだ?」
先ほどまで受け止めていた拳をフェイウォンは紙一重で躱すように変化し始める。
展開無効は確実に効果がある、そう感じた飛彩は攻撃に残虐ノ王と自由ノ解放の能力を中心に組み立て、残りは回復と膂力強化に当て込んだ。
「頂点に立つ? それで俺を止められるなら止めてみやがれ!」
しかし、この時の飛彩には『頂点に立つ』能力の本質が理解出来ていなかったのだ。
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