【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

テラー・フュージョニスト

公開日時: 2021年3月9日(火) 00:08
更新日時: 2021年4月1日(木) 13:21
文字数:3,183

 伏龍は虎視淡々と、上位者の力を狙い従順な進化を装って牙を磨き続けていた。

 そして自分の力を極力汚さず、ララクが弱ったところを全て奪い去った男の鎧はみるみるうちにララクが見せた龍の形へと変わっていく。


「鎧を薄くするような馬鹿げた茶番に付き合った甲斐がありましたよ! 見よ、ヒーローたちよ! この暴虐の化身たる姿を! 『恐怖の悪』の真髄を!」


 悦に浸るコクジョーの醜悪な笑みが装着されていく龍の鎧の中へと消えていった。

 その刹那に広がる展開力はララクの時を遥かに超える威圧感で、その場にいる全員が立つことを拒否したかのように腰を抜かした。


(そうか、ララクは龍の姿になってもセーブしてくれてたのか)


 波打つ展開は黒い疾風を巻き起こし、日の光が差し込み始めたこの区域を再び夜の闇へと沈めていった。


 その展開下にいるだけで竦み上がってしまい、平伏したくなる気持ちになる飛彩たちだが歯を食いしばって全員がコクジョーを睨みつけた。


「反抗的な眼ですねぇ。まあ、目撃者は全て皆殺しです。ララク様と相討ちになったことになっていただきますよ」


 力なく倒れるララクを小石でも蹴り飛ばすように吹き飛ばしたコクジョーは、その部分をハンカチのような物で拭い、恭しく飛彩へと近づいていく。


「改めてお礼を言いますよ。ララクを痛めつけてくれてありがとうございます」


「お前、ララクの執事だったんじゃねぇのかよ……」


「このクソわがままなお嬢様には王もリージェ様も手を焼かれてましてねぇ。半ばここへ追いやるように封印していたのです。そしてそのお目付役が、リージェ様に敗れて奴隷になった私……だが、それも私がララクの恐怖の力を奪い取るため! 辛酸を舐めてきたが、それも今日で終わりだ!」


 飛彩の髪の毛を掴み、軽々と持ち上げたコクジョーは鋭い尻尾で飛彩の首を巻き上げて浮かび上がらせる。


「異世もこちらも……全ての世界を私のものにする! 何もかも、私に平伏させるのさ!」


「はっ、チンケな小悪党が考えそうなことだ」


「——君は立場というものを理解していないようだね」


 首吊り死体のように揺らめく飛彩に貫手を差し向けるコクジョーに対し、悪を支配する左腕をでその一撃を完璧に掴む飛彩は窮地でありながら見下すような視線を向ける。


「コクジョー、こっちこそ礼を言うぜ」


「何?」


「テメェをぶん殴っても全く心は痛まねえからなぁ!」


 両足を振り上げて尻尾と腕を蹴り上げて拘束から解放された飛彩は低い姿勢からコクジョーの鎧を剥ぎ取るように足の関節に左手の指を差し込む。


「ぶっこわ……」


「図に乗るな」


「!?」


 蹲み込んで鎧を剥ぎ取ろうとしたのも束の間、コクジョーの側にいることへの恐怖から大きく飛び退いてしまう。

 覚悟や戦闘経験を簡単に塗りつぶしてしまう恐怖に、この場にいるヒーローたちは一般市民に成り下がってしまった。


「恐怖だけかと思うかい?」


 杖を上に向けると、そこから黒い珠が蠢きながら形作られていく。

 それはぶくぶくと膨らんで汚泥の泡立ちのような醜悪さを見せつつ、怯みあがっているヒーローたち目掛けて発射された。


「毒のヴィランが持っていた酸爆弾の能力だ。まあ、下位の能力で幾人ものヴィランが持つ能力だが……私のような者が使えば、必殺の毒撃に変わる」


 放物線を描くゆっくりとした攻撃だが、恐怖に縛られた飛彩たちは思うように歩けない。

 直接触れれば飛彩の鎧ごと消滅してしまいそうな毒撃に反応出来た刑は震える身体を押さえつけ、仲間たち全員を補足できるほどに展開力を広げた。


「銀盾!」


 黒い展開力の上に薄く広がる銀色の展開はくすみつつも、空中から飛来する禍々しい毒球へと大きな盾を射出する。

 巨大な質量ゆえに毒球を受け止め切るも、グズグズとした音を立てて醜悪な色を浮かべながら消え去っていく。


 大量の展開力を使って敵の通常攻撃を防げただけか、と刑は変身が解けそうになる程に震え上がった。


 二撃目があれば、皆冥界の入り口に進むことになるからだ。

 この場でもう一人動けるであろう飛彩に向けて縋るような視線を送りつつも、爆発のダメージが大きいのか未だに立ち上がりきれていない。


「ダメか……こ、こんなところで……」


「いいですねぇ! 私を倒したと良い気になっていた男が震えて絶望している!」


 一歩踏み込んだだけで突風を巻き起こす跳躍にララクや飛彩が地面に再び叩きつけられる中、刑はコクジョーに顔を覗き込まれるように睨みつけられていた。


 汗が展開の中に溶けていくように波紋を広げる。

 定まらない刑の心を現しているようで、反撃の二文字すら頭に浮かんでいないようだった。


「美しい顔が絶望に歪む姿。私を楽しませてくれたことに免じて……一撃で葬ってあげましょう!」


 振りかぶった手刀は戦闘初心者とも言えるくらいの大振りで、強大な力を手に入れたコクジョーの奢りが見て取れる。

 その猶予のおかげで、再びヒーローを守るヒーローの参戦が可能となった。


「調子に乗りすぎだぜ」


 天高く伸ばしたコクジョーの腕を捻り上げているのは、怯えて吹き飛ばされたはずの飛彩だった。


 刑もコクジョーも瞠目する中、腕を背中側から地面へと引き込んで倒れさせた飛彩は左足の力の生命力強化で蔦を発生させて縛り上げていく。


「き、貴様! どうして動ける!」


「ララクの恐怖の力はすげぇなあ。ガキの頃ホラー映画見て寝れなくなったことを思い出したぜ」


「な、何の話をしている! それに恐怖の力はもう私のものだ!」


「テメェが力使って俺をいくらビビらせたって無駄だぜ」


「まさかその左足……展開に対する防御能力まで!?」


「んなわけあるか」


 仰向けに縛り上げられたコクジョーは大の字に寝そべったまま、割られる瓦がごとくわかりやすい的になっていた。

 左拳を高く引き上げる飛彩はコクジョーの心臓部目掛けて拳を構える。


「仲間を失うこと以上に怖いことなんてこの世にはねぇんだよ!」


 恐怖の展開も吸い上げていくことで威力を上昇させていった拳はコクジョーの身体へと勢いよく叩き込まれた。

 そのまま爆音をあげて地面が大きく裂けたことで、攻撃の威力が物語られる。


 かろうじてホリィや蘭華たちを連れて刑が下がっていなかったら飛彩が作り出したクレバスに全員消え去っていただろう。


「新しいおもちゃに興奮しすぎだぜ。執事さんよ」


 大きな亀裂に吸い込まれたコクジョーはすぐに這い上がったものの、現状が認められないのか恐怖の力をさらに増加させた純黒の悪意を飛彩にだけ向ける。


「何かやってるのか?」


「な、何ぃ!? 何故恐れぬ! ララクの恐怖の力は何にも劣らぬはず!」


「使い手が悪いんだろ!」


 右足の展開力が紅い残像を作りつつも四方八方から踏み潰すような荒っぽい蹴り込みがコクジョーの身体に足の形を刻んでいく。


「ぶっ、がばっ、ど、どぼじで!?」


「雑魚がいくら力を手に入れたところで雑魚に決まってるだろーが!」


 トドメの一撃と言わんばかりに高く振り上げた足から放たれた踵落としは、巨大な戦斧が如く全てを軽々しく断つはずだった。


「なっ!? 確率支配!?」


 コクジョーの真横に着撃した攻撃と入れ替わるように飛彩に叩き込まれる裏拳。

 よろけつつ下がったところ目掛けて発射されたに黒い爆裂光弾が飛彩の身体を余すところなく包み込んだ。


「くっ!」


 防御力に長ける緑色の展開を全身に高出力で張ることで負傷を軽減するも、すでにララクを抑え込むために大量の展開力を使っていた飛彩は力なく倒れ込む。


「君が苦戦した能力を忘れたかい?」


「けっ、タフな野郎だ」


「ははっ、君の攻撃は中々痺れたよ? まあ、防御関連の能力も大量に保持しているからねぇ。今の猛攻程度なら、かすり傷さ」


「ちっ……」


 ララクに対しては振るうことの出来ない拳も、完全な敵として考えられるコクジョーには振るえたがララクの力や様々なヴィランの能力を吸い取ったのは事による身体強化は伊達じゃないと言うことだろう。

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