【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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完全なる敗北

公開日時: 2021年4月23日(金) 00:13
文字数:2,290

 下界の争いを眺める神の如く、不遜な様子のフェイウォンは気怠げにメイへと言葉を投げかける。


「この世界を我が物にするのを拒むか?」


「いいえ、そういうつもりはないわ。ただ見返りなしでは困るわよ」


「私相手に交渉とは……お前もこちらで牙を磨いていたというわけか。面白い」


 飛彩達が恐れる始祖相手にもメイは全く物怖じしない。黒斗をおちょくる時のような軽やかさすら見せるほどだ。


「貴方の次に生まれたヴィランだもの。貴方の強さは嫌と言うほど知ってるし……貴方のいないところで暮らしたいって思うのは当然じゃない? そして自分の取り分を要求するくらいの力はつけてるつもりよ?」


「ふっ、そのような自由奔放な性格だったな、貴様は」


 不適に笑うフェイウォンはその申し出により、何か思いついたようで背後に異世への扉を作り上げる。


「いいだろう。より生きとし生けるもの全てが悪しきものになるように、お前の力を借りることにしよう」


「感謝するわ、我らが始祖よ」


 急激に小さくなっ育展開領域、一瞬だけ始祖が消えたかと思えば意識を失ったリージェとララクが見えない何かに握りしめられるようにしてフェイウォンの背後に浮いていた。


「ララク!」


「出来の悪い子供達だが統率者が足りないからな。では、ヒーローたちよ、また会おう」


 隠れるようにして残っていたヴィラン達が何かを感じ取ったのか、この区域を保持するためにドーム状に展開を広げていく。

 三つの侵略区域は遅れていた事態を引き起こし、合体してより大きな展開領域に変わっただけだ。


「次までに身の振り方を考えておくことね」


 いつもの飛彩ならば後先考えずに足が動いていただろう。

 しかし、もはやその両足に込められるものもなく、ただただ膝から崩れ落ちたままだった。


 同時に意識を取り戻していた黒斗が去りゆくメイに手を伸ばす。


「メイ……!」


「じゃあね」


 それを尻目にメイが指先を鳴らすと、その場に人間全てが区域の外の道路へと叩き出された。

 地面に叩きつけるような乱暴な転送は、まるで闇夜に相応しくないもの達を吐き出すようで。


「ぐっ!」


 倒れた飛彩が動けないでいる中、狂乱の宴が如く騒ぎ立てるもの達がいる。


「よ、よかったぁ! 俺たち生きてるんだ!」


 勝手に戦いを引き起こし、守られるだけだったヒーロー達は喜びに打ちひしがれ、司令塔がいる移動本部の方角へと走り去っていく。


 この騒動の責任を誰かに押し付ける会議が既に勃発していることだろう。


 わずかに残った護利隊の面々は「やめさせてください」の一言を一人が発した瞬間、次々と雪崩れるように去っていった。


 朝日が登り始めたその場に残ったのは、飛彩、蘭華、黒斗の護利隊の面々。そしてホリィ、レスキューワールド、刑のヒーローの力を失った存在達である。


「完璧なまでの敗北だ……みんな、危険な目に合わせてすまない」


 沈黙の檻を破り、口火を切ったのは黒斗だ。

 目の前に広がる黒い闇のドームに市井の人々も気づいたのか、早朝にもかかわらずサイレンやざわめきが巻き起こり始めている。


 渦巻く黒い展開は朝日を浴びても、反射することなく周囲に黒さを放っていた。


「こ、これから、どうなっちゃうの、かな?」


 力なく呟く蘭華。

 ヒーローでも何でもなかった少女だけが、その言葉を紡ぐことが出来た。いや、許されたのかもしれない。


 ヒーローの面々も気持ちを代弁されたような表情で暗く表情を落としている。


「くっ……」


 若者達に道を示さねばなるまいと考える黒斗だが、技術的な頼みの綱であったメイも姿を消してしまった。


 世界展開リアライズが消えてしまった、という事実が立ち向かう意思を削いでいく。


 流石に言葉もないかとホリィが自分の痛みより飛彩を心配するも、顔をあげた飛彩はいつもと変わらぬ戦う意志に満ちていた。


「飛彩、くん……?」



「俺は信じるよ、メイさんを」



「飛彩、どういうことだ?」


 その希望を見出している言葉に全員が反応する。

 人通りのない荒れた車道で飛彩を中心にホリィ達は顔を上げていく。


「これを見ろ」


 なくなったはずの展開力、支配ノ起源オリジンズ・ドミネーションが変わらず飛彩の左腕に顕現していた。


「えっ!?」


「俺たちのレスキューワールドは全く何の反応も示してないのに、どういう……」


「メイさんが止めたのはメイさんが作った世界展開だけだ。俺のは違うからな」


「そうか! 生まれ持って世界展開を持ってる飛彩やカクリみたいなパターンだったら流石のメイさんでも力は奪えない!」


 一同に微かな希望という一筋の光明が差し込む。


「俺は思うんだ。あの時反撃しようとしてたら俺がまだ世界展開を使えることがフェイウォンとかいう親玉にバレる」


 その言葉の真意を悟ったことで、メイを信じきれなかったと黒斗は歯噛みする。


「そうか、メイはお前という切り札のためにあえて奴を油断させようと……」


「ああ、黒斗の推察通りだ」


 そこからは一度ララクという仲間を迎え入れる選択をしていた飛彩達だからこそ出来る『ヴィラン』を信じるという決心が固まっていく。


「メイさんがヴィランだろうと何だろうと関係ねぇ。あの人は俺たちを助けるためにワザとフェイウォンについていったんだ」


 ヒーローという少しでも反乱分子になりそうな存在であればヴィランの作り上げた闇のドームの中にしまい込んでおけばよい。

 それをわざわざ外に逃したのだからますますメイが悪役になることで飛彩達を生かそうとしていることが裏付けられる。


「ま、あくまでも俺がそう思いたいだけってところだが」


「俺もあの一瞬より、メイと重ねてきた時間を信じたい」


 その言葉にホリィ達も賛同していく。

 どのような思惑があろうと、希望と戦う意志は残った。



「あいつを倒せば全てに決着がつく」

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