【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

稼がれた刻

公開日時: 2021年4月10日(土) 00:06
文字数:2,063

「「「おおぉぉぉぉ!」」」


 軍勢が放つ鬨の声と同時にホリィを取り囲んでいたヴィランたちが容赦無くそれぞれの得意技を放つ。

 しかしホリィもまた未来確定の力を全方位へと発動して自身の体を抉るはずの攻撃を全て無意味な方向へと飛ばしていく。


「どれだけ強いヴィランがいようと関係ありません。こんな危険な役目を飛彩くん一人に任せるわけにはいかない!」


 大軍を一人で相手取るホリィに感化された護利隊員たちが唯一の勇気を指先に込めて銃弾を滝のように放ち始めた。

 おかげでホリィにも余裕が生まれ、防御だけでなく攻撃にも転じることができる。


 そして龍化が解けてしまったララクだがリージェへと率先して打撃を交差させた。


 二人の中間で両者をアシストする春嶺が跳弾の力で牽制と狙撃を一手に担う。

 リージェが攻勢の叫びを上げた割にはヴィランは思ったほど攻撃に転じることが出来ずにたった三人にうまく押さえ込まれてしまっていた。


「いやぁー、ララクったらいい仲間が出来たんだねえ」


「ええ、自慢の仲間たちよ」


「まったく、羨ましいくらいだ」


 不甲斐ない部下たちに憤りを感じていたリージェだが、冷静に考えてみればまともに戦える敵は三人しかいないのだ。

そしてその三人が絶妙なバランスが臆病者だらけの戦場を拮抗に導いている。


「だからこそ、遊びは終わりだ。飛彩が駆けつけるときには君達の亡骸が並んでないといけない!」


「その前に貴方が死ぬのよ! リージェ!」


 龍の展開と全てを拒絶する一撃がぶつかり合い、区域内を大きく揺らした。

 もはや封印のドームは戦いの余波に耐えられないのか、ガタガタと震えている。


 保たれる拮抗の中、護利隊すら奮起したというのにヒーローは怯えたままで展開を畜力出来ていなかった。

 不甲斐ない連中だと猫背の司令官が移動型司令室で憤慨する。


 ヒーローといえど実力はヴィランと同じくランクが存在する。

 護利隊の存在を知りつつ、飛彩に苦々しい気持ちを抱いていたのは最下級のヒーローばかりだった。


 まぐれでヒーローを続けられている愚者は実力の低さを棚に上げて気に食わない相手を貶めている。

 そんな覚悟のない者達で一大作戦などを行ったところでもはや意味などないだろう。


「このままでは結果を偽装するどころか、私の派閥に与するヒーローが全滅するぞ……!」


 そんな焦りに溺れかけている移動型司令室のモニターに数人からの増援通信が入った。


「!? 誰だ、他のヒーローに通信をいれたのは!? この作戦で犠牲を出したら全て私の責任になるんだぞ!? それにこれは我々の独断で……」


 部下や平和のことではなく己の保身のことばかりを考える連中がヒーロー本部には跋扈している。

 故に秘密裏にことを済ませようとしていた猫背の男は自分の権限が及ばない派閥からの救援だけは避けたかった。


「救界戦隊レスキューワールド、現着しました!」


「クラッシャー……いや、苦原刑、到着しました。レスキューワールドと共に突入します」


「なっ!? ま、待て待て! 出撃許可など出してないぞ!」


 中の惨状を見抜かれては本部へと報告され、全てが終わると男は頭を抱えた。

 本来ならば数の暴力で押し通せる戦いになると思っていただけに悪い方向へと進み続けた現状にもはやうずくまるしか出来ない。


「くそっ、これでは、私のキャリアが……醜くとも助けを請えと言うのか!?」



 

 

 他の補助要員達にも動揺が波及する様子をモニター越しに眺める一人の少女がいた。


「はい、熱太さんや刑たちも現着したわー」


「まさかハッキングして気づかれないように救援要請出すなんて! さすが蘭華だぜ!」


「こ、このくらい当然よ!」


「騒いでる場合じゃない。救援は準備できた……中にいるホリィ・センテイアや天弾、そしてララクが時間を稼いでくれたおかげだ」


「ええ」


「おう! 気に入らねーが数は必要だ。ヒーローが変身し終わるまで守りきってやるよ。ブン殴るのは全部終わってからにしてやる」


 春嶺はともかく、ホリィまで参戦していたとはと飛彩と蘭華は驚きを隠しきれていなかった。

 飛彩は様子のおかしかったホリィの姿を思い出し、自分が戦わなくていいようにと自ら犠牲になる道を考えていたのかもしれない。


 そんな優しさを向けられるほど俺は弱くないぞと叱らねばと決意を固め、三人の戦士が調べ上げたもう一つの出入り口に集結する。


「護利隊の陣営は俺が戦場で直接指揮を執る。蘭華は俺のサポートに周り、全員に指揮が行き届くようにするんだ」


「余裕ですよっ」


「飛彩は……」


「分かってる。侵攻してきたリージェをぶっ潰す……だろ?」


「ああ。区域が壊されないように注意を払え」


 簡単な侵入作戦だったはずが気がつけばヴィランの一大徒党であるリージェたちとの全面戦争にまで発展してしまった。

 

 目まぐるしく変わる戦況、そして自分たちを取り巻く状況。


 それに煩わさしさを感じながらも飛彩は左腕の封印を解放する。

 黒き装甲を左腕に纏い、ヒーローを護り、ヴィランを根絶することを再び拳に誓った。


「よし、行くぜ!」


 もう一つの侵入口、天蓋部分のロックを解除して人間側の切り札が戦場へと召喚された。

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