ボロが出る前に話題を変えたいらしいが、心で想われていることを実感し受け止めたことを見透かしていたメイはさらに次の能力の話へとつなげる。
「その証拠に三つ目の能力なんかとっても優しいじゃない」
「そ、それは偶然ですって! あの時、俺も皆もボロボロだったし回復しなきゃって思っただけで……」
慌てふためくほど仲間が大切で仕方ないと露呈するだけだが、大人の会話のペースに飛彩は完全に飲まれているようだ。
「ははっ。能力についても色々気になるし、一回確認してみようか」
「ぜ、是非ともそうしましょう」
そして今までと同様に空間へ能力や戦闘データが表示される。
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世界展開名称・生命ノ奔流
能力一・異世化した世界の浄化。
能力二・自己再生、他者の外傷を回復。
能力三・展開力の特大強化。
能力四・生命力を流し込み、一部の有機体を操作可能。
形状・特徴
深緑の装甲は他の部位と異なり丸みを帯びたデザインとなっており防御力が高そうな印象を与える。
事実、硬度は他の部位よりも高く、防御向きの能力と言えるが回復力の増加によって戦い続けることも出来る。
まさに防御は最大の攻撃ということだ。
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「改めて見ると何ていうか……」
「完全無欠ね。敵を支配、自身の攻撃力を上昇、回復……とまぁアマテラスの出番がなくなっちゃうっていうか」
計三つの能力が互いを補うのではなく、一点特化した能力が次々と合わさることで完全無欠の存在へと飛彩を高めていく。
しかもヴィランの展開なしで変身できることを加味すればもはや常識の埒外の能力だ。
「この前は木の根っこでヴィランを縛り付けてたわね。死角からのトリッキーな攻撃もできる、と」
「それに紅い脚と同時発動すると、暴れたいという衝動が収まるんです」
「破壊と再生……相反する特製のものを同時に発動することでデメリットを打ち消せるのかもしれないわ」
能力を同時発動するメリットも大きく、飛彩の戦いを有利に進めることだろう。
それこそもはやヒーローの助けなどいらないというほどに。
「まあ三番目にこんな優しい能力が現れたことで飛彩の性根が分るんじゃない?」
「いい加減茶化すのはやめてください」
仲間を救いたい一心だけが魂に満ちた時に現れた能力。
これが目覚めなかったらリージェに敗北していたことを考えると、飛彩は能力への感謝の念が湧いてくるような気持ちになる。
「そもそも、あの状態で仲間を救うなんて誰でも考えるでしょう?」
しかし、この程度で優しい人扱いされたらたまったものではないと辟易する飛彩は近くの謎の機材が大量に詰め込まれている棚へと寄り掛かった。
ペースを取り戻して小生意気な様子を見せつつも、それがどれだけ常人から外れているのかは飛彩本人にはわからないのだろう。
「——そうね」
命の危機に瀕した時、人はどんな行動をとるのか。
当たり前に人を守ると答えた飛彩にメイはとても頼もしい気持ちでいる。
ヒーローでも己の命と誰かの命を天秤にかけた時に己を絶対に選ばないかと言われれば、誰も即答出来ないはずだ。
平然と誰かを守ることを優先できる飛彩はやはり優しさと強さで溢れている。
だからこそ、仲間を救う能力が飛彩へと宿ったのだろう。
「目覚めるべくして、目覚めた力なんでしょうね」
「え? リージェに勝つため、ですか?」
「ふぅ……まあ、そういうことにしておきましょうか」
今までのメイや黒斗ならば、目覚めた意味について語ったかもしれない。
しかし、飛彩が再び道を踏み外すことはないだろう。
仲間との絆を知ることの出来た飛彩なら、二度と無謀な真似をすることはない、と。
「? 何笑ってるんです? ……やっぱり疲れが限界なんですか?」
黒い絵具で塗ったような漆黒の隈がある状態で笑みを浮かべるメイは、お世辞すら言えないほどにひどい様相となっている。
ホラー映画などで喩えた方が外見の想像がつきそうなほどに。
「いいえ。飛彩と話してると疲れなんて吹き飛んじゃう」
「はいはい。早く情報とって寝てくださいよ」
「それじゃあ、話を戻しましょう……何故三つの能力が立て続けに目覚めたのか」
話は飛彩が抱えていた疑問、本題へと戻る。
今まで語ってきた三つの能力を詳しく知ることこそ目覚めのきっかけが分かると言いたげなメイは少なからず根拠のようなものを持っているようだ。
「何か調べがついてるんですか?」
「仮説だけどね……それとデメリットに近い話もしておかないとね」
「覚悟は出来てます! お願いします!」
頷いたメイはキーボードを優しく叩き、空間に表示されていた全ての能力を並び替えて中央にスペースを作る。
空いた中央の位置へ飛彩が三種類の鎧をまとっている画像を表示させる。
図鑑に載っているかのようなポーズで手と足を少しだけ開かされている合成画像が何の意味を持つのか飛彩には理解しきれなかった。
「これは……?」
「おそらく、飛彩の世界展開は一つしかないわ」
「ど、どういうことです!?」
すでに三つの能力が目覚めているだけあって、寝不足なメイの妄言かと失礼なことまでもよぎってしまっている。
だが隈の奥にある瞳は未だに活力を失ってはいないようだ。
「おそらく一つの世界展開が、飛彩の気持ちに呼応して部分的に目覚めた状態なんだと思う」
「ま、全く意味がわからないんですけど……?」
可能性を指し示す映像と能力である残虐ノ王の戦闘映像を再び浮かび上がらせた。
オーラに包まれた飛彩が春嶺を相手に一方的な攻撃を繰り広げている。
「このまとっているオーラ……本当は鎧になるべき部分だと思うの」
「な、何でそんなことが分かるんです?」
その答えと言わんばかりに表示されたのは身体の各部位の展開力を示す数値だ。
わかりやすく各部位へと矢印が伸びており、一目で展開力の違いが認識できる。
しかし、その違いというものが存在しないのだ。装備は左足のみに関わらず、展開力だけは身体のどの部分も同じなのだ。
「オーラで纏っているこの能力だけかと思ったけど……」
他の能力も続け様に展開力が示される。
どれも同様に身体のどこの部位だろうと展開力はほぼほぼ等しい数値となっていた。
「俺の展開力は纏うもの……全身の展開力が上がるのは、そういうもんっていうんじゃないですかね?」
「だったら装甲のある部分だけ数値が異常に高くなければならない。それにこの全身の数値は……ヒーローと同等以上よ」
本来ならば、全身に装甲が装着されるべきなのだと語るメイ。
全身から迸る展開力がそれを裏付けていると真剣な眼差しを向ける。
「か、仮にそうだとしてもバラバラの能力が三つも目覚める理由には……」
「そこで世界展開は一つしかないという部分に帰結するわ」
息をのみ、飛彩は次の言葉が紡がれる理由を待つ。
メイは鎧を三種類装備した画像を再び表示させ、その上から全身を仮の鎧で覆い隠す。
さらなる能力なのだろうかと思案するも素人の思考はこれからの哀切を邪魔すると考えを追い出した。
「君の本当の世界展開は目覚めていない。その場に応じて力を貸してくれているだけに過ぎないわ」
もはやヒーローの持つカスタマイズされた人工的なものとはかけ離れた圧倒的な才能にも似た最強の原石。
その原石から漏れ出る展開力だけで飛彩は数多のヴィランと渡り合うことが出来るのだ。
特別な力を持ってヴィランを倒したいという願望が最初から叶うとが決まっていたことに驚く飛彩は、腰を抜かしたように近くの椅子へと腰かけた。
「……待ってくれよ。いきなりそんなこと言われて受け止めきれねーって」
三つも能力が目覚めたという戸惑いを払拭するために理由を解明したはずが、さらに戸惑いが膨れ上がる結果になるとは考えていなかったようだ。
メイはまだ全てを語っていないと言葉を続けた。
「おそらく飛彩本来の世界展開の能力はまだ定まっていないんでしょう。だからこそ君の感情の揺れに応じて、その時に一番欲する能力が部分的に具現化する」
いつの間にか心配していたメイより疲れ切った様子の飛彩は床を力なく見つめて言葉を聞くことだけに集中しているようだ。
「——じゃあ、俺の能力はまだ目覚める可能性があると?」
「ええ」
確信と取れる力強い言葉。
飛彩の奥底に眠る本当の力が目覚めようと目覚めなかろうと何かしらの形で能力が発現し、力を引き出すことが出来る。
「身体の部位に応じて能力が使えることから考えると……残りは右腕、そして身体と頭」
「はっ、こうなったら全部目覚めさえた方は得っすね。やるだけやってやりますよ!」
吹っ切れた飛彩は椅子から勢いよく立ち上がり、髪をかき上げた。
いつまでも惑っている暇はなく、敵意のある能力ではないことが分かったことで全ての能力を引き出すことが急務だと感じたのだろう。
「まぁこれ以上目覚めるかは可能性の話だけどね」
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