そこにあるのは好敵手という絆。
ホリィの言葉がリージェの中で何か影響を与えたのは間違いなく、ある意味この場を切り抜ける未来確定が発動したも同然で。
「リージェ、恩に着る!」
裏があるかもしれないヴィランの言葉を信じたのは剣を交えた熱太だった。
驚くエレナと翔香だが言外のうちに熱太の熱い思いが伝わっていく。
「う、うるさい! お前も殺してやるからな! レスキューレッド!」
「はっ……やっと生き生きとしたな!」
「口数が減らないやつだ! お前らは駒としてさっさと隠雅飛彩を救えばいいんだ!」
熱太の言葉に、リージェは生の実感を覚えてしまった。
どんな形であれ発生した命と命を結ぶ絆に、生きている実感をリージェも見出して。
メイやララクも今のリージェは敵には回らないと直感して率先してフェイウォンの展開域の上を駆け抜けていく。
「すごい! ほんとに影響がなくなってる!」
「僕たちも行こう! 一気に駆け抜けるんだ!」
全力を発揮するヒーローと死にかけの集団がぶつかり合えば結果は火を見るよりも明らかだった。
有象無象の軍団に対してそれぞれが戦いやすい仲間と協力し、飛彩とフェイウォンへと続く道を切り開いていく。
「ホリィちゃん! 蘭華ちゃんをお願い!」
「翔香、ありがとう! 助かった!」
「蘭華ちゃん! リージェのおかげで人が歩いても大丈夫です、離れないように着いて来てくださいね」
「銃はまだ残ってる。少しは援護出来るわ」
「蘭華ちゃんはやっぱり頼もしいです!」
「ホリィ達の方が何百倍も頼りになるわよ。さあ、行きましょう!」
レスキューワールド、春嶺と刑、メイと黒斗、ララクとリージェ、そしてホリィと蘭華という小さなグループに分かれつつも目指す場所は変わらない。
連携が組みやすい相手とともに全力で戦うことで、誰か一人でも飛彩の元へ行ければ良いはずと以心伝心して。
波濤のように押し寄せるヴィランの成れの果て達へとヒーロー達は突き進む。
その気配はフェイウォンと飛彩にも伝わっており、ヒーロー達の色彩豊かな展開力が立ち昇っていることが見て取れていた。
(皆、逃げてないのか?)
「リージェめ、敵と手を組んでまでこの世界を欲するか……やはり悪意だけでは不完全な存在だな」
そう残念そうなフェイウォンは自身が純粋なる悪だと願ってきた存在が紛い物だったとため息をついている。
「悪を抜かれてもなお、悪しき心を持つもの達とならば、さらに良い世界になるだろう」
「俺たちはそんなんじゃねぇ!」
「はぁ……何よりもお前が認めなければならんだろう!」
フェイウォンの攻撃に対し、飛彩は防御することは許されない。
攻撃に合わせた全力の反撃をぶつけることで相殺するしか、手立ては残されていないのだ。
回し蹴りには回し蹴りを、ストレートにはストレートを。
まるで鏡のように攻撃を模倣しつつ戦い続ける飛彩だが、強化された身体でも尋常ではない集中力を消費している。
(ぐぅっ……全力でぶっ放してるのに鎧の中がぐちゃぐちゃだ。回復の力がなかったら今頃……)
拮抗しているように見せかけるだけでも精一杯。これが全ての展開能力の頂点に立つフェイウォンの本気、いや通常状態なのだろう。
「精神が拒もうと、あと二、三回瀕死に追い込めば、お前はしっかり私を崇拝するヴィランになる」
「誰がなるかボケ……!」
強気な言葉を吐きながらも展開力は、さらに黒く澄んでいく。
飛彩自身も自分がヴィランであることを認めるしかないと感じ始めているようで、とうとう教わったわけでもないのに空間亀裂の発生方法などを悟り始めた。
生まれながらに人が息を出来るように、ヴィランも何かを奪うことに重きを置いているのだろう。
弱者を蹂躙する世界移動と展開能力は、悪を遂行するための最高のツールなのかもしれない。
(もしかして俺の五番目の能力ってのは……)
「ふっ、お前を配下に置き、かつての仲間を殺させれば最高のヴィランになれるぞ!」
飛彩を完全なるヴィランにすることに固執し始めたフェイウォン。それこそが付け入る隙になるはずと飛彩は思考をやめて再び攻防へと戻っていく。
(ヒーロー達の未来を守る……それが最後の仕事だ!)
ヒーロー達の思い描く未来に飛彩がいない、というわけがない。
全員が飛彩と元の世界に戻るために、展開力の荒海を乗り越えていく。
「キリがないわね……」
「蹴っても蹴ってもすぐ湧いてくる!」
困惑するエレナと翔香、浄化の光を持つホリィの攻撃でもすぐにドロドロとした鎧がゾンビのように這い出てくるのだ。
「リージェ! あれも拒絶出来ないの!?」
「勘弁してくれララク……今は僕の護衛に集中してくれって」
展開を押し留めるリージェには苛烈な攻撃が向けられているも、龍の鎧を開放したララクが空を駆け回りながら攻撃を防いでいる。
肩で息をするララクに守られているリージェは、自分は役割上守られて当然と思いつつ自身に妹を思う気持ちがあったのか、とほくそ笑んだ。
「僕とララクは違う意味で人に固執しているが……その人が、僕たちに命をくれたとはなぁ」
「……あはっ! ようやく飛彩ちゃん達の良さが分かってきたのね!」
「違う、仲良しこよしするつもりはない! しかし……絆とは色々な形があるってことだよ」
照れ隠しながら這い寄ってきたヴィラン達を蹴りとばすリージェは敵の数を減らせば拒絶も通りやすいと悟る。
死鎧から漏れ出る様々な展開域が対象の選別に時間をかけてしまうようだ。
協力しながら戦うことでララクは仲の良かった頃をふと思い出してしまう。
そして一緒に日の当たる場所へ迎えるはずだ、と笑顔と共に展開力が漲っていく。
「じゅーぶんじゅーぶん! あっちの世界でお洒落して美味しいものいっぱい食べればすーぐ私みたいになるって!」
「いや別にお前になりたいわけじゃない!」
数少ないヴィランの生き残りもまた、終わりゆく世界の中でヒーローを援護する。
その視線の先で駆け抜けていく熱太達はまだまだ飛彩達の戦場には程遠いものの無双の活躍を見せている。
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