【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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メガ・フルオート ジェネシス

公開日時: 2021年5月23日(日) 00:13
文字数:2,175

「無理な頼みだったか?」


「憐むような声出すんじゃねぇって!」


「難しければやめる、ぞ……?」


 そのまま頼んだ春嶺が申し訳なさを感じるくらいの時間が経った頃。

 身体までひねりながら言葉を考えていた飛彩が目を見開いて勢いよく立ち上がる。


「……うん、多分これだな」


 その割に声音には自信がなさそうな様子だった。

 ますます春嶺が怪訝な表情になった瞬間、飛彩は左腕に再び鎧を顕現させる。


「身体の中にある展開力の形を思い浮かべるって感じかな」


「それは……隠雅飛彩の鎧の話か?」


「いや、鎧そのものじゃねえ」


「それ以外に何があるんだ?」


「なんつーのかな……形の理解がカギみたいなもんなんだよ」


 そう言って左腕を解除した飛彩は、一瞬で紅い右脚へと能力を切り替える。


「バットの形と特性を知ってるからボールを打ち返せるものと認識する……その認識こそが身体の中の展開を外へと発動する鍵なんだよ」


「それを世界展開リアライズアイテムで行っている私たちでは知覚する術がない、ということか」


「俺だけの話かもしれないし、あんまり期待するなよ? ただでさえメイさんの作ったもんなんて理解出来るわけねえし」


 適合する世界展開リアライズで変身していく事で、後付けの能力だろうと春嶺にも跳弾響ブラッドバレットが刻み込まれている。


 ただ、こうすれば使えると他人に教わったままの能力では目覚めることがないのかもしれない。

 その時は、飛彩の言葉を参考程度に受け止めていた。



 

 そして今。




「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!」


 飛彩との記憶を思い出した、という走馬灯。

 身体の中に侵入してくるユリラの展開力。

 意識を残されたままの傀儡に成り果てようとした刹那。


「あっ……」



 事切れる寸前で春嶺の中で飛彩との会話により、点と線がつながった。



「ぐっ……展開力、の形……!」


 身体の中や精神、魂にまでユリラの展開力を充填されていった事で、春嶺に元々存在していた跳弾響ブラッドバレットの展開域が浮き彫りになる。


(これが、隠雅飛彩の言っていた!)


 知覚したそれは身体の中で動かすことも出来た。

 見えないから使えないだけで世界展開ブレスなどがなくとも、もはや跳弾響ブラッドバレットは春嶺の一部なのである。


 そして、それをどう使えば良いのかを一瞬で春嶺は理解する。


「強情な子ね、じゃあ一気にいくわよ」


 鎧の指先が甲高い音を鳴らした瞬間、黒い展開柱はまるで聳え立つ塔のような質量を見せた。

 もはやユリラは春嶺を殺す気だと悟った刑は震える手で後頭部へと拳銃を向ける。


「大丈夫よ、苦原刑」


 そう呟かれた言葉は幻聴なのかとヘッドセットを強く押さえてしまう。

 春嶺の息遣い再び聞こえた事で現実だったと震える体を起こした。


「あの中で何が……?」


 そのまま一瞬で黒い柱はその中枢に吸い込まれていく。

 自身の展開力を逆に吸い込まれていることに気づいたユリラは注ぎ込むのをやめた。


「なんなの? 私の展開力を受けたものは全て指揮下に降るのに!」


「それは全部利用させてもらったわ」


 展開柱が砕け、その中から真っ白なローブを見に纏い、頭上の天使の輪のようなものを携えた春嶺が現れる。


『天弾! 春嶺! メガ、フルオート!』


 壊れていたはずの世界展開ブレスは流れ込んできた春嶺の力によって正常な動作へと戻る。

 きっかけさえ掴めば、失われていたヒーローの力は元に戻ると春嶺が証明した。


世界展開リアライズ完了……跳弾響ブラッドバレット、作戦を続行する」


「あの子もヒーローだったなんて! まさか弱ってるフリをするとは……」


 勝手に勘違いを深めるユリラだが、常とは違う変身状態になっていることに春嶺は気づいた。

 これが己に眠る展開力を知覚するということか、とマグナムを力強く握り締める。


(あの展開力の中で……私は跳弾響ブラッドバレットの形を知った。だから相手の展開力を一気にヒーローの変身用に吸収出来た!)


 春嶺の中に眠っていた展開力は拳銃の形になり、春嶺の手へと顕現したのだ。

 そのまま銃は展開力を一気に変身用のエネルギーへと転換したのである。


 そのまま引き金を引いたことで変身時間はほぼゼロで変身に至り、遠く離れたユリラへと空を裂くような波動を叩き込んだ。


「なっ!?」


「私の展開力を上書き出来ない限り、指揮は出来ないでしょう?」


 音もない足運びで地面に降り立つ春嶺は、周囲に展開壁を張り巡らせて跳弾の檻を完成させる。

 この状態の春嶺は逃げも隠れもする必要はなく、圧倒的な火力を発揮するのみだ。


「ば、馬鹿ね! 本体は指揮下に置けなくても、放った弾丸は……」


 たった二丁の銃から放たれた二発の弾丸は跳弾はユリラの周囲を何度も跳弾しては鎧を大きくへこませていく。


「ぐっ、がぁ!?」


「弾を見極められれば出来ればの話でしょう?」


 片膝をついて息を荒くするユリラを睨みつつ、通信が回復したヘッドセットで希望の狼煙を告げる。


「みんな、跳弾響ブラッドバレット、変身完了よ」


 絶望的な状況をひっくり返すヒーローの力、勝利の女神が微笑んだような朗報に強大なヴィランを前にした熱太やホリィたちの顔も綻ぶ。


「自分の中にある展開力を知覚して。それが出来れば身体の外に出せる」


 未だに気を抜けない状況ゆえに最低限の言葉を選んでいき、よろよろと起き上がろうとするユリラへと突きつけられマグナムタイプの拳銃がショットガンへと姿を変えていく。


「展開力は今までの戦いで充分溜まってる。隠雅飛彩の時間稼ぎのおかげ……とにかく自分の展開力を知覚して、それを操れれば確実に変身出来る」

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