【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

ララクの誓い

公開日時: 2021年4月7日(水) 00:11
更新日時: 2021年4月7日(水) 22:28
文字数:2,603

「まずい……」


 なまじ外の光景が見える世界展開ゆえにヒーローにも動揺の波は波及した。

 精神を安定させろという司令の声が尚のことヒーローたちを焦らせる。


 並のヴィランが数十体ならばこの作戦も成功していたはずだ。


 しかし相手にいるのはヴィランの世界でも一二を争う強者、リージェが率いた軍勢が待ち構えていたのだ。

 飛彩抜きで相手に出来るはずがなく、飛彩にだけは頼ってはいけないというヒーローや猫背の司令たちにも救援の二文字が沸き上がってくる。


「……これは、私が何とかするしかないわね」


 円形展開陣から飛び出した春嶺は護利隊の武器コンテナからいくつか銃火器を奪い、装備しながら敵陣へと突撃する。


跳弾響ブラッドバレット!? 勝手な真似はするな!」


「時間はかかるけど私は変身しながら戦える。これで時間を稼ぐ!」


 ヴィランに直撃した銃弾は跳弾を繰り返して二、三体のヴィランをも穿つ。

 平常時から常人離れした戦法に敵味方関係なく視線が釘付けになった。


 春嶺の狙いは二つある。

 一つはヴィランの軍勢を足止めすること。もう一つはタイミングを見てララクを救い出すこと。

 この場にいるヒーロー全員よりも、憂いもなく戦える飛彩の方が何百倍も頼りになると春嶺は知っているのだ。


「ああ、君かぁ」


 たった一人で大隊の進軍を食い止め始めた春嶺の耳元で囁かれた言葉は意味もないのに呪詛のように春嶺を恐怖で縛る。


「お前は……!?」


「ねぇ。隠雅飛彩はどこだい?」


 後ろに飛びのこうとする春嶺の動きが突如として現れたリージェによって拒絶される。


「ぐっ……!」


 拒絶されたということよりも、飛彩を一度は追い詰めた相手に春嶺の脳裏には恐怖の記憶が甦った。


「それとも飛彩抜きで勝てると思ってるのかな?」


「ごめんなさいね、色々ゴタゴタしてて」


「へぇ〜。じゃああいつら全員殺してスッキリさせれば飛彩も出てくるってこと?」


「ヴィランの発想ね!」


 自らの意思で後ろに跳ね飛べない春嶺はコートの下に装備したショットガンを素早く取り出してリージェの顔目掛けて発射する。

 反動で仰け反りながら、拒絶が解除されたことで春嶺は後方へバランスを崩しながら吹き飛んだ。


「おっとっと〜、危ないなぁ?」


「弾が当たる前に拒絶した……何て動体視力なの?」


 本来ならばリージェの顔面をミンチにするはずだった銃弾も時を止められたかのようにその場に留まっている。


「ここがどこか忘れたのかい?」


 濃密なヴィランの展開が幾重にも混ざり合うことで春嶺には理解出来ていなかったが、その中でも一際大きな展開力があることに気づいた。


「貴方達……ずっと準備してたのね?」


「ご名答。いつもみたいに飛彩が突撃してくると思ってたのに、あんなの送ってくるなんて僕らに生贄捧げにきたのかと思ったよ。しかも同胞をあんな風に使ってさ」


「ララクは死なせないわ。貴方と違って良いヴィランだもの。隙を見て絶対に助ける」


「へぇ〜、だいぶ仲良くなったんだねぇ。あの恐怖の権化が」


 その絆が春嶺のことを後押ししたのか、再びセミオートのショットガンを手早く連射する。

 それらは空中でぶつかり合い、前面より少しだけ遅れる形でリージェの後方からも迫った。


「前方のものを拒絶させた隙を狙って後ろの銃弾を当てようって?」


 その場で回転するリージェは展開力の渦を巻き上げで銃弾を天井へと吹き飛ばしていく。

 ヒーローでなければ基本的に能力の行使など必要ない。


 純粋な膂力と展開余波だけで春嶺の攻撃を無力化したリージェはわざとらしく春嶺の眼前へ着地してその額に掌をのせた。


「吹き飛びな?」


 後方へ逃げようとしていた春嶺の願いを叶えるように吹き飛ばされていく。

 目まぐるしく変わる視界は一瞬にして封印壁に叩きつけられた衝撃で明滅した。


「がはぁ!?」


 隊列や守るべきヒーロー達すら一瞬で横切っていく桃色の軌跡。

 声を出してはいけないと分かっていたホリィやララクは蒼白とした表情になりながらも声が漏れることは何とか堪え切った。


「は、早く変身させろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 一人のヒーローが狼狽える。

 それもそのはず、春嶺はヒーローの中でも指折りの実力者だと認識されていたからだ。


 一瞬で思考が怖れに染まるのも無理はない。

 だが、頭であるヒーローがそのような醜態を晒してしまっては一気に動揺が波及してしまう。


「み、皆さん落ち着いて!」


 たまらず声を上げたホリィだったが透き通るような彼女の声も漆黒の帳によって塞がれてしまったようで隣のヒーローにすら声が届かない。


「あははっ、恐怖のヴィランになった覚えはないんだけどなぁ」


 変身前とはいえ特殊な訓練を積んだ春嶺を最も簡単に倒したリージェは軍勢の前へと降り立ち、今もなお降り注いでいた銃弾はおろかこの場にいる全員の攻撃行為を拒絶した。


「僕に逆らうな。飛彩以下のゴミどもめ」


「ぐっ、ぐうぅ!?」


 その場にいるヒーロー達に刺さったその言葉はプライドをズタズタに引き裂いた。

 自分たちを守るべき存在の方が脅威だと語る異世の実力者に怒りや悔しさぐちゃぐちゃになった煮湯を飲まされる。


「ぶっころ……あ、あれ? 何で世界展開が!?」


「変身だって同じだよ。僕への攻撃意思は絶対に認めない、さ」


 おかげで展開力を絞り上げられていたララクがだらりとその身を下ろした。

 磔にされていた装置から解放されて異世の力が染みた地面と抱擁させられる。


「はぁっ、はぁっ……!」


「久しぶりだね、ララク」


 距離が存在しないかのように、リージェはヒーロー達の中心にいるララクの隣へと出現する。

 瞬間移動じみた速さ、さらに拒絶の力で縛り上げられ身動きが出来ないヒーロー達は情けなくガチガチと歯を鳴らした。


「見ろよララク。憎きヒーロー達が震えてるぜ? 愉快じゃないか?」


「私を……殺しに来たの?」


「闇を分けた妹を殺すわけないだろ?」


「……よく言うわ。力がほとんどないから制御出来ると思ってるんでしょ?」


「駒は多い方がいいからね。僕に忠誠を誓うなら助けてやってもいい」


「誓い……ね」


 ヴィランにかけられていない拒絶にララクはよろよろと立ち上がる。

 黒いワンピースを纏っていたララクは汚れた部分を払いながら自身に残された僅かな展開力を発揮する。


「悪いけど私は夫婦の誓いを飛彩に立てちゃったから余計なものは誓えないの」


 その言葉とともに闇に溶ける展開力から久方ぶりに自身の鎧を呼び出した。ワンピースの形が変わるように黒のロングドレス型の鎧がララクに装着される。

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