「ねぇ! リージェの持ってるあっちの土地に連れてってよ! 私のところ以外の場所も見てみたいからからさぁ〜! いいでしょ、お願い!」
「お、落ち着いてくれララク。そしてどうか僕の傷を抉らないでおくれ」
「? どゆこと?」
素っ頓狂な表情を浮かべるララクはリージェから少しだけ離れ、人差し指を口元に添えて首を傾げる。
小悪魔的な表情を浮かべる姿は、快活な少女としか思えないがリージェは一切の油断も見せず、侵略した区域を奪い返されたことを説明した。
「……というわけで、あっちの土地奪われちゃったんだよねー」
「えぇ〜! そうなの!? 大変じゃん! また取りに行くよね!? 私も手伝ってあげようか?」
敗北の事実を全て伝えるのはプライドが許さなかったのか、事の顛末は全て伝えずにあくまでも油断したという設定で全てを語る。
思い出すだけで額に青筋が浮かぶほどにリージェは飛彩に対して怒りを燃やしていた。
再燃する気持ちを抑え込み、リージェはララクに優しく笑いかけた。
「お気遣いありがと……でも大丈夫だから。当分はこっちでの活動に勤しむよ」
「えぇ〜、リージェが新しいとこ取りに行くならついでに私のところも増やそうと思ったのになぁ〜!」
「……やっぱりな」
敵討ちにかこつけて自身の領地となる場所を増やしたかったと宣うララクは無邪気に笑いながら侵略を語る。
「君はあの場所以外にもらえないと思うけどね……」
「ああ〜! リージェもコクジョーみたいな事言うんだからぁ!」
ちらりと視線をやると恭しく頭を下げるコクジョーが見えた。
ララクという生きる面倒ごとを全て押し付けられている執事のコクジョーに対し、心底同情した。
ヴィランの世界で一番の問題児とも言えるこの少女は、半ば幽閉という状態で向こう側の侵略区域に閉じ込められているようなものなのだから。
「君、まだ人間の世界が気に入ってるんだろう? 君は自分の欲望を叶えるためにあちらのヒーローを助けたりする節があるから絶対にダメだね」
問題児が問題児たる所以は、ララクが唯一戦闘本能に従わない特異なヴィランという理由だからである。
リージェの呟きに頬を膨らませたララクは理解者だと思っていた相手に駄々を捏ね始める。
「だってだって! こっちの世界つまんないんだもん! 何もないし、戦ってばかりだし! 人間たちの娯楽は最高だよ! だから仲良くしたっていいじゃん!」
「君が人間と仲良くすることで僕らの能力を敵に研究されるかもしれない。そうしたらこっちの世界が侵略される危険がある」
真っ当な説教には聞く耳を持たないという様子のララクは目を瞑り、両手で硬く耳を塞ぐ。
事実、そうした欲求に駆られないようにコクジョーという見張り役をつけた上に侵略区域の一部を与えているのだ。
わがままなお姫様を鳥籠に閉じ込めておくという俗世のような苦労が異世にも存在している。
「もーいい! 私帰るから!」
「お、おい! お前たちここの留守任されてるんだろ!?」
慌てて引き留めようとするリージェをよそに、コクジョーも一礼してララクの後について行った。
「そんなのリージェがやりなさいよ!」
「ふざけるな! どれだけ退屈だと思ってるんだ! おい! ララク!」
ララクの行き先にコクジョーが手をかざすと円形の灰炎が広がり、簡易的なワープホールが誕生する。
「いいもん、みんなに慰めてもらうからっ!」
「ではリージェ様。留守を宜しくお願いします」
同等級の味方に攻撃を仕掛けるわけにもいかず、一人取り残されたリージェは力なくテーブルへともたれかかる。
この城の留守を任されたよりも、不機嫌になったララクがどんな行動を起こすのか分からない、ただそれだけが気掛かりになった。
「ヒーローの連中は隠雅飛彩の力を使って土地を奪い返しに来るはず……最初がララクのところじゃないといいんだが」
それなりに異世に愛着があるリージェは、ふと思い出した飛彩との戦いを反芻して気怠そうにテーブルへのしかかっていた腰を上げる。ガチャガチャと音を立てる重戦士の鎧を携えて城の地下へと歩き始めた。
「——留守番はまーいいや。強くなる方法は狩りだけじゃないからね」
次に相間見える時こそ、決着をつける時だとリージェは口角を上げる。
互いに全力を出し合える異世空間で白黒をつけるべく己を高めるために。
「そっちの奪った場所はどうでもいいんだ。僕はこっちの世界が気に入っててね」
一つだけの出入り口の向こう側は何も見ることの出来ない闇だった。そんな場所に臆面もなく突き進んでいくリージェは再会の日を想像し、不適に笑う。
「こっちの世界も渡さない……王になるのは、この僕だ」
闇に消えたリージェは重そうな足音だけを残して消えていく。
闇の覇者たちがいなくなった王の間は、ほんのわずかな光でも取り込もうともがくかのようにして薄明かりを招き入れ始めた。
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