「飛彩くんだって私たちを守ろうとしてるってことは、私たちが傷つくのは嫌だって思ってるんでしょ? そんなのフェアじゃないって」
想いが溢れたのはヒーローの中で誰よりも飛彩を守りたいと考えていたホリィだった。
常に助けられる側だった身として、人一倍飛彩に傷ついて欲しくないという気持ちが強いのだろう。
「俺はお前らが絶対負けないって信じてる。ただの兵士じゃなくて……ヒーローとして隣に立って一緒に戦ってくれるってな」
変身して戦う者がヒーローなのではないと何度も助け合ってきた飛彩は理解している。
少なくとも世界展開出来なくなっただけで何も出来ないと決めつけて塞ぎ込むような真似は自滅に等しい。
飛彩はそのことを叱咤で突きつけたのだ。事実物理的には変身できないのだから死地に送り込む残酷な指摘かもしれない。
だが、飛彩は戦う前から己の心を殺してはならないと覚悟を決めて叫んだのだ。ヒーローを守るヒーローとしての言葉を。
「お前らは『戦える』からになったんじゃねえだろ?」
その一言でヒーロー達はかつてその道を志した理由を脳内によぎらせた。
「俺はお前らのヒーローかもしれねぇ……お前らだって俺のヒーローなんだ」
一同はハッとしたように顔をあげた。その賛辞に答えなければ、と闘志に火がついていく。
様々な境遇と様々な理由があるが、その根底には誰かを守りたいという気持ちがあるはずで。
「お前らは戦う覚悟を持ってくれたかもしれない。だが一兵卒じゃダメなんだ。最後までヒーローとして戦う覚悟を持ってくれないといけないんだよ」
「……そうだね。たかが変身出来なくなっただけで何を腐ってたんだか」
呼応するかのように刑も立ち上がった。しなやかな銀髪が揺れる中、飛彩と熱太の元まで靴音を響かせていく。
「君なんてずっと世界展開なしで戦ってきたのに、ね?」
「はっ、久しぶりだな。刑のそういう嫌味は」
「褒めてるんだよ」
ヒーローを守るヒーローが再起を信じてくれているのであれば自分の決意よりも心強いと刑は思えた。
「隠雅はさ。そうやって何回も私たちの心を守ってくれるんだよね」
セリフを翔香にとられたからか刑はやれやれと肩を竦める。胸に手を当てた翔香は小麦色の肌が見せる可愛らしい笑みでその場を和ませた。
翔香の紡いだその言葉こそ、ヒーロー達が感じた安堵の正体であると皆が頷いていく。
「私たちは人々の心を救えていたのかもしれない」
「だが、それは飛彩が俺たちを守ってくれたからこそ……」
続くエレナと熱太も心に巣食い始めていた恐怖と迷いを打ち破る。
変身する前からララクと拳を交えた経験がここに生きてきた。自分たちはまだヒーローであり、戦士であると強く思えて。
「はぁ……結局、私たちは飛彩くんに助けられてばかりですね」
勝手な行動を取り、たくさんの護利隊が傷つくことよりも飛彩を守ることを選択していたホリィは己の浅はかさに辟易しながら呟いた。
心なしかホリィのきらびやかな金色の髪がくすんでいるようにも感じられる。
自分を守ってくれる相手を、その分以上に守ってあげたいと思うのは当然だろう。
しかしそれを可能にするのは強者だけなのだ。
「正直に言えばヒーローだなんだともてはやされても結局は飛彩くんを頼るしかないことが、私たちの心のどこかで引っかかっていたのかもしれません」
「かもしれないな」
瞳を伏せたホリィに同調するのは部屋の隅で柱に背中を預けていた春嶺だった。
独特の休息方法を見せている彼女は一瞬だけ前髪の間から大きな瞳を覗かせる。
「隠雅飛彩がいなければ私たちはお荷物。共に戦ってきたが、結局はお前がいてこその戦いだった」
「お前ら……」
「でも、その飛彩くんが私たちと一緒に戦ってほしいって……変身能力をなくしたただの人間になった私たちに言ってくれてるんです!」
強者に隣へ立って一緒に戦ってほしいと願われたことが、再び立ち向かう勇気をヒーローの中に燃え上がらせる。
「絶対に世界展開を取り戻して戦ってみせます! 飛彩くんと一緒に世界を守りたいから!」
淀んでいた空気は絆の力で消え去る。気がつけばヒーロー達は飛彩と蘭華の前へと並び立っていた。
ホリィの言葉に力強く頷き、曇りなき自信に満ちた瞳で飛彩へと全員が笑顔を向ける。
「これを最後の戦いにしよう、飛彩!」
「ああ。お前らの心配事は再就職先だけにしてやるよ!」
「それ一番心配なのはアンタでしょ」
「う、うるせーな!」
最大の悪との決戦を控えていても希望は潰えない。
むしろ朗らかな空気感に戻れたことは奇跡に近いだろう。
このやりとりで闘志に満ち溢れたヒーロー達は休憩などしていられず、わずかに持ってきていた手荷物をまとめ始める。
「俺たちは世界展開の情報を閲覧できる場所に行ってみる。お前の足は引っ張りたくないからな」
「ちょ、ちょっと熱太くん! 機械音痴の君が一人で行けるわけないでしょ!」
「あ〜、隠雅のそばにいたいけど……もう! 二人とも待ってくださいって〜!」
レスキューワールドの面々が慌ただしくその場を後にする。
刑も武器を取りに行くとだけ言い残し、優雅にその場を去っていった。
「ここに残っても仕方ない……私も私に出来ることをする」
「ちょ、春嶺まで?」
春嶺もまた変身前から戦える数少ない人員であるがゆえに、ありったけの武器を集めに行くと刑へついていく。
「刑と一緒に……珍しい組み合わせね?」
「ララクと戦った時、少しだけ組んだらしいぜ?」
「ふ〜ん……」
部屋に残ったのは飛彩と蘭華、そしてホリィの三人だ。
ここに残っても仕方ない、という言葉は飛彩達の胸にも何かしなければという焦燥感を与える。
「ちっ、戦うにも練習相手がいねぇ」
「いや、いいかげんアンタは休みなさいって」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!