「って、何あの怪獣!?」
「私たちが気づけないなんて……!」
「あの女ヴィランの能力よ。音や気配、展開力すら指揮下において皆に伝わらないようにしているらしい」
「うげー、幹部クラスって化物ばっかりすか?」
並び立つ五人のヒーローに対し、リージェの隣には狂気を纏ったユリラと列をなすように追ってくるレギオン達が現れた。
「ちぇっ、面倒な奴がまだ生きてたもんだ」
「リージェ、貴方まだてこずってたの? ふざけんじゃないわよ」
「……いいの? おばさん、地が見えてるけど?」
ユリラとリージェは互いに面倒な相手だと思っているようだ。
特に勝負へ水を差されたことでフラストレーションが明らかに溜まっている。
敵が増える分には構わないといった様子のリージェだが、気に入らない仲間とは連携も何もないのだろう。
「まあいいわ。まずはあの子達を殺すのが先」
「はっ、珍しく同意見だよ」
合流のメリットとデメリットが両方同時に発動した戦場で、春嶺は頭を悩ませた。
とはいえ参入を予想していなかったレギオンの大量投入があった時点で、どちらにしろ合流するしか手は残されていないと言えよう。
特にレスキューワールドにはキューカイブラスターのような大型火力兵器を使用することが出来る。
しかし、そのような大技を放つ隙は一瞬たりとも存在しないだろう。
「皆、隠雅飛彩のところに向かおう。始祖のヴィランがいることよりもやつとホリィの能力があれば充分にこいつらは片付けられる」
「……それしか案はなさそうだね。熱太くん達もいいかい?」
「もちろんです、熱太先輩も……」
「殿は俺に任せてくれ。どのみち全員で走っても奴らの攻撃を抑える奴が必要なはずだ」
静かな闘志を消し止められないことは、この場に到着したばかりの春嶺や刑にも十二分に伝わった。
「……どのみち防御役は必要だ。頼む」
酷な願いをしていることは春嶺も重々承知している。
それでも勝利するための逃避行を始めなければならないのだ。
始祖すらも巻き込まんとする大乱闘の様相は、さらに激しさを増していく……。
「闘争は良いな」
「はぁ……はぁ……」
愉悦に浸り、黒い空を眺めるフェイウォンに対し、飛彩は片膝をついて地面へと視線を落としている。
(初めて会った時よりはついていけてる。大丈夫だ、絶対に勝てる……)
リージェを撃破した時よりも成長し、展開力の総量が上がっていることを自覚しても尚、フェイウォンの首は遠い。
「この戦いを終わらせないのも戦いが永遠に続いて欲しいと思っているからかもしれない」
「じゃあ何か? 本気出せば一瞬で終わるって言うのかよ?」
「ああ、寿命が延びていることに感謝して欲しいくらいだよ」
食らいつけているのか、それとも敵が本気を出していないだけなのか。
それが分からなくなる攻防で、飛彩の精神はすり減っていく。
必殺の右腕も効果がないのでは、と思うほどに。
(だめだ、躱されたら展開は無効出来ても勝負が長引く)
いつもの飛彩ならば、何時間でも戦って相手を倒そうと考えるだろう。
しかし、敵のホームグラウンドであることと頼みの綱だった五番目の能力が目覚める兆しはない。
(相手を油断させてこの拳がめり込んだ瞬間に能力を発現させないと……一撃で倒せねぇ)
奇しくも、メイと同じく一撃必殺の技でフェイウォンを倒さなければならないという結論に飛彩も達している。
「クリエメイトの方が我を楽しませてくれたぞ? もっとも私に敗れたから、あちらの世界の尖兵になってもらったがね」
「ふざけやがって! メイさんになんてことさせてんだ!」
「勝者は敗者を自由に出来る。当然だろう?」
「くそがっ……!」
大切な人を弄ばれたことでいつもの飛彩ならば激昂のままに突き進んだだろう。
しかし、冷静に怒りを燃やす飛彩は一撃を爆発させるタイミングを常に伺っている。
この一週間においてメイを失ったことによる精神の成長は見違えるほどということだ。
(落ち着け。とにかく一撃を確実に当てられるようなタイミングを見つけろ……怒って我を忘れてる振りをするか?)
数十歩離れた間合いは冷静に物事を考えられる最低限の距離だった。それより少しでも近づけば仕掛けずにはいられなくなってしまう。
何もしなくても首元に刃を突き立てられているような恐怖に飛彩はずっと立ち向かっているのだ。
「お前達は随分とクリエメイトに執心のようだな」
「大切な仲間なんだ、当然だろ!」
「仲間か……クリエメイト、ララクやリージェといい、受肉した連中は人を求めすぎる」
呆れたように話すフェイウォンは珍しく感情を出したように鎧に包まれた手で整った顔を撫でる。
「いや、ヴィランそのものが元の姿を求めると言った方が良いか」
「ベラベラ喋りやがって。じいさんの昔話に付き合う暇は……」
しかし、その隙だらけの身体に蒼き右腕、自由ノ解放を突きつけなければならないが、飛彩は相手の二の句によって動きが縛られた。
「ヴィランと人は元々一つだったのだからな」
「何……言ってんだ?」
「生物に宿る悪の側面、私はそれを全て奪い取り……この異世を作った。つまり世界も元々一つしかないということだな」
「ヴィランが人から? すべての悪からこの世界を作った、だぁ……?」
既知の情報と言わんばかりの飄々とした態度に、飛彩は汗を伝わせる。
ヴィランが人から生まれたという真実に、呼吸することも忘れて情報の処理に意識を費やさなければならないほどだった。
つまり人の持つ悪の一面を具現化したものがヴィランであり、それを集約させたのがこの世界だったのだ。
「リージェやララクが人を求めるのは、本来の姿に戻りたいからなのかもしれんなぁ」
飛彩は自分や仲間からもヴィランが生まれていたのではないか、と余計な思考で乱されていく。
過去の自慢話を語るかのようなフェイウォンはますます上機嫌といった様子だった。
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