「轟け! ブレイザーブレイバー!」
炎を巻き起こす斬撃に釣られて、刑も銀光溢れる軌跡で黒の世界を照らしていく。
「刈れ! 天刑王!」
果敢にも飛びかかる二人のヒーローが声を上げながら奇襲をしてしまうのは正々堂々とするため、という理由だけではなかった。
「恐れが見えるぞ?」
その場で手を払うだけで、吹き荒れる風は壁にぶつかったかのような衝撃を与えて二人の骨を軋ませる。
「ぶはっ!」
「ぐっ!?」
「そもそも奇襲に声を上げてどうする」
ヒーローが叫ぶながら技を放つもう一つの理由は、強大な敵への恐怖を振り払うために他ならない。
得てして、そのような攻撃は敵を屠ることはなく返り討ちに遭う宿命にある。
「先輩!」
「苦原刑!」
駆けつけた仲間に肩を貸され、起き上がる二人は恐怖に飲まれたわけではないが勝ち筋の見えない強大な相手に震える。
フェイウォンの作り上げた異世で戦うことは、まさに「掌の上」にいるも同然なのだ。
「お前達が生きていると余計な希望になるからな。首をもらうぞ」
「な、何ですって?」
「あちらに私が直々に乗り込むときに、人類の希望が皆殺しになっていると分かった暁には侵略も容易いだろう」
残るヒーローを皆殺しにし、それを持って侵略を速やかに終わらせるという効率的な語り口はヴィランの軍勢対ヒーローとの戦いという余興をたっぷりと楽しんだ証左なのだろう。
「絶望した命を摘み取るほど簡単なものはないからなぁ」
この場にいる全員が、その言葉を聞いて絶望してはいけないと心を奮い立たせた。
ヒーローとヴィランの戦いは展開域をぶつけ合い、能力行使を有利なものにするのが肝である。
しかし、残念ながら異世全てに展開域を広げている存在という桁違いの存在に勝ち目が霞んでいく。
故にヒーローにも希望が必要なのかもしれない。
だからこそか、その男が立ち上がったのだろう。
「何終わったことにしてくれてんだよ」
背後から肩に手を置いた飛彩は頭から血を流していたものの、左脚の装甲のみを残し身体の周囲を緑のオーラで包んでいく。
流れていたちは時を戻すように引いていき、身体に刻まれていた痣が薄くなりすぐに消えていった。
そのフェイウォンにも引けを取らない存在感にヒーロー達の焦りに満ちた表情がほぐれている。
やはり飛彩はまごうことなきヒーローを守るヒーローなのだ。
「……誰に触れていると思っている?」
肩のゴミを払うかのような動作にも僅かに展開力が込められており、人ならば触れただけで消滅してしまうだろう。
飛彩の手にフェイウォンの魔の手が伸びたものの、急に現れた半透明のヴィジョンと位置が重なった瞬間に動きが止まる。
「これは……!」
反射的に城があった方向を見るフェイウォンは、崩して歩いてきた道にいる白とオレンジの装飾に身を包むヒーローに目を奪われた。
そして、そこまでが未来確定の効力だと気づいた時にはすでに遅く。
「お返しだッ!」
回転しながら身を翻す飛彩の深緑の脚撃は、音を置き去りにする速さでフェイウォンの首元へ叩き込まれている。
「っ!?」
そのまま城下を突き破っていくフェイウォンはいくつもの住居を粉砕する弾丸と化した。
「ふざ……けるなっ!」
吹き飛ばされる勢いを無効化したフェイウォンは数十メートル吹き飛ばされた後に地面を殴りつけて上へと跳ね上がる。
そのまま闇弾の雨を降らせてやろうと考えるものの、一瞬で飛彩の隣に並び立つホリィを視界に捉えた刹那。
その思考をやめさせられる違和感に苦い表情を浮かべ、展開力で揺らめく長髪を炎のように逆立たせた。
「悪いなホリィ。助けられたぜ」
「隣で一緒に戦うって、誓いましたから」
蘭華とララクに早く飛彩を助けに行けという声に後押しされ、残す二人への心配を振り切って駆けつけたホリィの展開力も洗練されて研ぎ澄まされたものになっている。
(あの男と女……私を前に淀みない、か)
「私も忘れないでよね!」
数百メートルを一気に駆け抜けた翔香の黄色い閃光を放つドロップキックがフェイウォンの腹部へとめり込む。
しかし飛彩の一撃ほどダメージはないようですぐに手刀のカウンターが放たれた。
「きゃあっ! ……なんてね!」
鋭角に反射を繰り返した跳弾がフェイウォンの手を的確に弾き、エレナが伸ばした氷の鞭が翔香の腹部を巻いて瞬時に後退させる。
「私たちは、まだやれる……!」
「こんな薄暗い場所で死ぬなんて冗談じゃないわ」
善戦する翔香達につられるようにダメージを負っていた刑と熱太も獲物を杖に立ち上がっていた。
折れかけたヒーロー達が再びより強固に勝利を見据えていく。
その光景を先ほどまでであれば、フェイウォンも余興だ何だと楽しめていただろう。
しかし、今となっては雑魚の目障りな反撃に過ぎない。
「やはり希望とは、目障りなものだ」
心底くだらないものを見せられている気分の始祖に対し、リージェはぐちゃぐちゃになった腕を展開力で修復しながら戦う戦士達を眺めていた。
何故抗えるのか、という困惑と心が折れかけた自分への羞恥。
(漁夫の利でも何でも狙えよ! どうして立てないんだ、俺は……!)
人の心を知らぬ、生き死にばかりが先行するヴィラン一人が戦場で動揺を続ける。
そんな存在に構っている暇は無いとヒーロー達と始祖のヴィランの戦いは苛烈を極めていった。
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