【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

もう一つの作戦

公開日時: 2021年5月9日(日) 00:09
文字数:2,581

「はぁ!? わ、私だと!?」


「安心しろ。基本的に俺が指揮を執ると言ってるだろう? 俺がしなくてもいい判断だけ任せるさ」


「いや、そういうことを言ってるんじゃない! あのヴィランを一人で相手どる!? 指揮官のお前がか?」


 全員の気持ちを代弁してくれた英人の言葉に心の中で頷く者が続出する。

 現場へと細かい連絡を入れつつも、司令官の強行に注目が集まった。


「あのヴィランを相手出来る現状戦力は飛彩か私しかいない。ならば私が出るのは当然だろう?」


「待て待て待て! お前は司令官だぞ? そんなホイホイ現場に行ってどうこう出来る話はないぞ!? お前が戦ってる間に不測の事態でも起きたり……いや、お前が死んだら!」


「確かに責任をとると大見得を切ったからな。死ぬわけにはいかない」


「だったら!」


「だが、これは俺しか出来ないんだ。司令として俺も駒と換算する」


 果たして敵と一騎討ちを宣言する指揮官が今まで存在したのだろうか。

 しかし、黒斗の語る通り暴れ回るメイを押さえ込むことが出来たら作戦は再びレールの上へと戻るのだ。


 そして飛彩では本気で戦えない相手ならば、自分の命に代えても止めるしかないと黒斗は決意と共に司令室の扉を開いて外へと歩いていった。


「お、おい! 墓棺!」


「喚くな。通信は逐一入れていく。安心しろ、君たちに作戦の全てを背負わせるような真似はしないさ」


 即座に指令室に響く黒斗の声。英人は勝手にしろと言い残してドローンカメラ越しの戦況へと視線を飛ばす。

 誰が止めるかはさておき、黒斗のいう通り暴れ回る一体のヴィランを止めなければ作戦は間違いなく失敗するのだから。


「くっ……あいつはランクSだぞ? 本当に何とかなるっていうのか?」


 解き放たれたメイの実力をただの人間である黒斗がどうにか出来る話ではないのは間違いない。

 それでもフェイウォンとの決戦を控えている飛彩を酷使しないためにも黒斗はあえて死地に赴くのであった。




「あ? ちょっとしたアクシデントだぁ?」


「ああ。少し俺からの連絡が途絶えるだろうが気にするな。指揮に集中しなければならんのでな」


「どちらにしろこっち・・・のことは見えなくなるだろうし、私に任せておいて」


 とあるビルの地下駐車場にて装甲車を囲むように集合していた飛彩達は黒斗からの連絡に耳を澄ませている。


「黒斗の作戦の真骨頂、ばっちり決めてやるからよ」


 集うは、飛彩、蘭華、ホリィ、熱太、エレナ、翔香、春嶺、刑の八人。

 この一週間、指令があるまではそれぞれの修行や準備を進めていたのだ。


 フェイウォンの力や変身能力の喪失、それらを乗り越えた彼らは学校に通う時のような気楽さすら覗かせている。

 それぞれ任務成功に対する自信を手に入れたようだ。


「じゃあ作戦の確認をするわ」


 その場で蘭華は侵略区域を三つ覆ったドームと、付近に発生した異世への亀裂が全て記されている映像を浮かび上がらせる。


「敵の兵力が侵略しようとこちらに向かっている間に、私たちは空いているポータルから直接異世に乗り込みます」


 その作戦も既に把握していた飛彩達は驚くこともなく最終確認として集中していた。


「そこで異世側からポータルを塞いでヴィランを世界の狭間で閉じ込めて全滅させる。統率の取りにくいレックス級やカイザー級の化け物は作戦に関与してないでしょうから放置でね」


「そしてララクを救出して撤退……流石は蘭華。惚れ惚れする作戦だ」


 この異世側へ乗り込む作戦を考えたのは春嶺が称賛するように蘭華の提案だった。


 飛彩以外ただの人間なのにヴィランの展開ひしめく異世側へ向かうなど危険すぎる作戦だろう。

 しかし、これこそ人数差や戦力差を覆す唯一の策なのだ、と蘭華は考える。


「ええ。とにかく飛彩とあっちの親玉が一騎討ち出来る状況に持ち込めればまだ勝機はある」


「燃えてくるな!」


「はい! 熱太先輩!」


「もう。私たちはただの人なのに……気合入りすぎでしょ? 下手したら死ぬのよ?」


 冷静なエレナが不在だったらレスキューワールドの面々はあっという間に暴走する。

 この局面においてエレナというブレーキは絶大な効果を発揮していた。


「騒いでたら余計死ぬかもしれないんだから冷静に集中してね、二人とも」


 それでも変身できないというリスクは付きまとっている。

 だが、エレナが異世への潜入を許したのは個人領域パーソナルスペースの存在と、発見できた世界展開の機密文書にあった。


「とりあえず今能力を使えない皆なら量産型の世界展開も使うことが出来ると思います。そして本当の力は……」


「熱太くんが偶然見つけた『能力を発動できないんじゃなくて展開を張れない』っていう状態にあるんだろう?」


「ええ。熱太先輩が発見してくれた機密文書のおかげで、具体的な損傷箇所を割り出せました。それによりメイさんがオフにしたのは展開を張る部分だけだと判明しています」


 脳筋な熱太が世界展開の秘密を探すと息巻いていた時に、刑は武器集めが終わったらそちらも手伝わなければなと嘆息していた。

 しかし、意外にも文書が即座に見つかったことで運の良さに嫉妬せざるを得なかった。


「俺のおかげだな! ……で、つまりどういうことだったか?」


「はぁ、前にも説明があったろう?」


 この知識レベルで何が重要な文章かわかったのだろうかと疑問を抱く刑は、ますます運のおかげかと呆れる。


「つまり、展開力で満ちている異世ならば世界展開ブレス変身アイテムに頼らなくても直接能力を描き出せるかもしれない、ということだ」


「なるほど……わからん!」


「刑くん大丈夫よ。私からちゃんと説明しておくし、熱太くんは意外とフィーリングで何とかするタイプだから」


「先が思いやられるぜ……」


 コントのような会話に飛彩も流石に苦笑いを浮かべる。

 変身出来るかもという一縷の望みはつながったものの、その方法は決して簡単ではない。


「でも確かにフィーリングが大事かもしれないよね」


「そこは走駆翔香の言う通りだ。今まで私たちには変身アイテムという筆とキャンバスが用意されていたわけだからな」


「異世の展開に自分の脳内イメージだけで能力を具現化するなんて、まさに神業ですよね」


 冷静に考えれば考えるほど不安要素が多い作戦だが、今まではこの一縷の望みすら存在しなかったのだ。


 やらなければ破滅、行えばわずかな成功の未来がある。

 ならば己を顧みずに突き進むのがヒーローだろう。


「うだうだ考えても仕方ねぇ。お前達全員俺が守ってやるから安心しろ!」

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