【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

最終章 未来へ

一週間後

公開日時: 2021年7月22日(木) 00:04
文字数:3,484

「人類勝利の式典?」


 ヒーロー本部の事務仕事に駆り出されるレスキューワールドの面々。

 それぞれの机に向かい、比較的軽度の傷で済んだ熱太達は猫の手も借りたい本部によって、仕事に復帰している。


「時期は未定らしいけど、近々やるみたい」


 都心はヴィランとの戦闘により崩壊し、復興は急務になっていた。

 事務方の仕事も山ほど存在し、裏方から前線部隊まで勝利の美酒に酔えたのは戦いが終わった直後ぐらいのようで。


「私たちと刑くん、ホリィちゃんに出て欲しいんだって」


 裏のヒーローである春嶺以外のメディア露出の多かったヒーロー達が、世界を救った者として祭り上げられるらしい。

 ヴィランの脅威は二度と発生しない、そう世界に誇示する必要があるからだ。


 その情報に熱太も翔香も怪訝そうに眉を潜める。


「式典って……」


「一番祝われるべき存在がいないだろうが」


 重苦しい雰囲気に、作業の手が止まる。


「━━飛彩くんが意識を失って、もう一週間も経つのよね」


 そう、人とヴィランの最終決戦からすでに幾ばくかの月日が流れていた。

 平和を感じるにはまだまだ復興で慌ただしく、飛彩の回復が未だに見込めない以上喜べない面々も多い。


「あ、あれだけ厳しい戦いを繰り広げたのだ! 数週間くらい眠るだろう」


 頻繁に見舞いに行っているからこそ、一向に回復しない飛彩の状況に熱太も焦っている。


「だが……やはり飛彩を差し置いて俺たちが世界を救ったヒーローなどとは名乗りたくないものだな」


「あたしもです……隠雅がいてくれないと……!」


 そこからの二人の仕事は見るからにペースが落ちており、飛彩が心配で仕方ないと様子だ。

 何を話しても飛彩に繋がるのでエレナは流石に嘆息してしまう。


「もう少し書類片付けたら、お見舞いに行きましょうか」


「はい! いいと思います!」


「そう毎日行っても仕方ないとは思うんだがな……い、いくか」


「何で急にツンデレなのよ、気持ち悪いわね」


 率先して行きたいとは言えない妙な照れに、エレナは何度もため息をついている。

 何度も何度も見舞いに行っているからか、自分から行きたいと言い出せない妙な照れがあるのだろう。


「よしっ! 早く終わらせましょう!」


「そもそも、異世で戦った私たちまでこんな仕事しなきゃいけないなんてねぇ」


「人手不足にヒーローも事務員も関係ない。さあ、早く終わらせて飛彩のところに行くぞ」


 目の前にあるモニターのタスク表は、所狭しと情報が羅列されている。

 これら全てを片付けてようやく今日の分が終わるわけで。


「……これ終わる?」


「き、昨日より増えてないか?」


「はぁ……本当にヒーロー使いが荒いわ」


 エレナは明日の分以降、少しくらい量を減らしてくれと本部へ掛け合おうと心を決めるのであった。






 ヒーロー本部が提携している大学病院に、今年何度目かとも分からぬ入院を飛彩は余儀なくされている。


 展開力が消えてしまった以上、現代の医療で治療するしかない。


 ただ、飛彩の状況は極めて悪かった。

 もはや『人の形』を留めているだけで、筋肉や臓器、骨も全てボロボロな状態で。


 集中治療室に運ばれ、ララクとメイが事情を知る医者と協力して看護しているものの状況が好転することはなく。


「メイさん、ララク。二人とも寝ないとダメだよ? もうその身体は……」


 廊下にて蘭華が白衣を纏う二人を心配そうに見遣る。

 飛彩を救うために二人が倒れてしまっては元も子もない。


 さらに完全に人間になってしまった二人はヴィランの頃の体力イメージが抜けずにいる。


 故にもう何日も寝ないような状況になってしまっているのだ。


「はぁ……ヴィランのままの方が良いって初めて思ったわ」


「ええ。こんな時に限って何も出来ないなんてね」


「そんな。知識で飛彩の状態が悪化しないように頑張ってるじゃないですか」


 分厚いガラスの向こうにいる飛彩は、見たこともない様々な医療器具に繋がれていた。

 安らかな表情で眠ったまま、もう二度と目を覚まさないのでは、と思うと全員がゆっくり休むことなど出来ずにいて。


「皆さん、お揃いで」


「また寝ずに看病か。少しは寝ろ」


「黒斗くんも働きづめでしょ?」


 白いワンピースのような普段着に身を包むホリィがそそくさと駆け寄る。

 ちょうど合流したのか、司令官の時によく着ていたスーツを纏う黒斗も歩み寄った。


「ホリィ、最近顔見せてなかったけど何してたの?」


「飛彩くんの治療に必要な資金を準備してきました」


「お、おぉ……さすがお金持ち。親の金を頼らずとも個人でそんなに持ってるわけね」


 莫大な医療費も飛彩のためなら惜しまないというようで、様々な資産を売却してまでホリィは治療費を捻出したらしい。

 単純にカエザールに借りを作りたくない、といったところだがホリィの顔には一抹の曇りが残る。


「ただ、最新機器の導入には父の知人の力が必要で……」


「ホリィちゃんってお父さんと仲良くないでしょ? 大丈夫だったの?」


「結局家にすがるしかないのが心苦しかったですが……お父様は快く引き受けてくれました」


 意外な返答に驚く一同だが、下げたくない頭を下げてでも飛彩を救いたいホリィの覚悟が現れている。

 ヒーローの力を失ったことで理想だけでなく、現実に向き合う必要性を感じたのだろうか。


「最新の医療設備と看護体制が出来ますわ」


「こればっかりはカエザールさんに感謝だねぇ」


「それでもララクは付きっきりで看病するよ! 何てったって、飛彩ちゃんのお姉ちゃんだし!」


 同じくフェイウォンの領域から直接生まれたワンダーディストの系譜の中でも飛彩は末っ子なのだろう。


 幼げ残るララクが気丈に振る舞う姿は弟が生まれたばかりの子供のようで。

 そんな無駄に元気なララクに苦笑いを浮かべつつ、蘭華はホリィの手を握った。


「ごめんね、ホリィに嫌な思いさせちゃったよね?」


 金の問題はヒーローの力でも、どうしようもならない。


 護利隊も解体の方向に動いているが故に、ホリィの援助は渡りに船だった。


「私が嫌な気分になるだけで飛彩くんが助かるなら、何でもしますよ」


 状況が好転するかもしれない、そんな状況なのに黒斗だけが怪訝な表情を浮かべている。


「黒斗くん? ブスッとしすぎて笑い方忘れちゃった?」


「違う……カエザール氏の思惑が分かったかもしれない」


 ヒーローですら敵わない金という名の力。

 ヴィランは金など力のない力に強く、ヒーローはそのヴィランに強い。


 ただ、ここは残念なことに金の力によってヒーローが動かされる世界。

 三すくみの一角が消えた今、最強の存在となったカエザールは、援助をした対価を戴こうとしているに違いない。


「本当は熱太たちや刑達も呼ぼうとしたのだが……彼は人類勝利の式典を三日以内に早めるらしい」


「時期未定での連絡でしたよね……何故急に予定を?」


「飛彩以外の御しやすいヒーローを英雄として祭り上げるつもりだろう」


「ちょ、飛彩が始祖を倒した事情知ってるのに?」


「彼にとって誰が世界を救ったかなどは関係ない。金と権力を掴むために飛彩が回復する前に御し易い英雄を擁立する気だ」


「そ、そんなの出なけりゃ良いじゃん! 飛彩ちゃんがいなかったら世界は終わってるんだよ?」


 権謀術数に疎いララクは頬を膨らませて怒るものの、蘭華は大体の流れを察する。


「飛彩が重症なのは遅かれ早かれバレてたと思う。そんな飛彩を救いたければ、大人しく偶像になれ……ってところね」


 通りでカエザールが快く、飛彩の治療を買って出たというわけだ。

 真の英雄だろうと手綱がつけられないならば、つけられる偶像を英雄にする。


 逆らえば真の英雄を助けない、と言外に脅しをかけて。


「確かに飛彩が舞台で挨拶とか……何言っちゃうか分からない不安はわかるわ」


 苦笑いを浮かべる蘭華は世界を救う


「ホリィちゃん、責任を感じなくていいわ。どちらにしろ君のお父さんの力がなければ延命措置は難しいんだもの」


「は、はい……」


 権力の差はヒーロー時代と違って簡単に覆せるものではない。

 力を失ったことで尚更、相性が悪い相手になってしまったのだ。



「まあ、殺されるわけじゃないんだし、従ってあげれば良いんじゃない?」



 元ヴィランということもあり、誇りや名誉をメイはそこまで重視していない。


「飛彩くんが命をかけたことを、私たちがやったことにしろなんて……とてもじゃないですが受け入れられませんよ」


 悲しそうに目を伏せるホリィはカエザールのもたらした二択を恨んだ。


 事実、熱太達や刑達も戸惑い、受け入れる気が起きずにいる。

 飛彩の命を奪うか、誇りを奪うかの二択に、実の親に対して抱いたことのない黒い感情が芽生えた。


「飛彩ちゃんも助かって、ホリィのお父さんの思い通りにしない方法もあるじゃない」

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