「私も最初は能力が怖かったです。生まれつき持っている能力のせいで身体は弱くて、ずっと恨んでた」
世界展開は基本的に後付けのことが多いが、稀に生まれた時から能力を保持している者も存在する。
ただ、発動することがないことが多くそのほとんどが一般人と同じようなものなのだ。
カクリは能力の発動を観測されると同時に護利隊の援護要員として採用されている。
「この能力使うと疲れるし、次の日動けないなんてことも多かったです」
言葉は確実に飛彩の耳に届いているはずだが、流れる景色は依然として速いままだ。
住宅街に傾いた陽の光が差し込んでくる中、カクリは気持ちの吐露を続ける。
「ただの運搬車みたいに扱われていた私を信じてくれる人がいるんです。毎回限界を超えろって、無茶させてくる……貴方を私も守りたい」
そこで飛彩の漕いでいた自転車が甲高いブレーキ音を上げて止まった。
「だから負けそうになったり、怖かったらすぐに運んで……」
「着いたぜ」
遮るように呟かれた言葉は囁きほどに小さかったが、あまりにも重いように感じさせた。
孤立無援の戦いを貫き、傷つくのは自分だけでいいという痛みの伴う覚悟。
「飛彩さん……」
「悪かったな時間とっちまって。余計な心配もかけちまった。安心しろ、俺は強いんだからよ」
顔に貼り付けた笑みが嘘だということは誰にでも分かることだろう。
振り返ってカクリの手を引き優しく荷台から下ろしただけでなく優しく頭も撫でた。
普通の飛彩ならばやるはずのない行動は、動揺を隠すためだと簡単に察することが出来る。
「じゃあ、俺いくわ」
「待ってください!」
大きな邸宅の門の前、立ち去ろうとした飛彩は自転車に跨ったまま振り返ることはない。
「どうしたら飛彩さんの心は軽くなるんですか!」
「……身体、気を付けろよ」
今までは加減していたとも言わんばかりの急発進。
あっという間に見えなくなってしまった飛彩を追うことが出来ないカクリは夕日に照らされ、ただ呆然と立ち尽くす。
「飛彩さん……」
浮かんた涙を拭い、飛彩の心を少しも軽く出来なかったことが悔しくて何度も顔をこする。
「重症ね……」
「同感です」
「追いかけた方がいいかなぁー?」
「きゃあぁぁぁぁぁ!? いつからいたんですか?」
個人領域を発動していたか如き、隠密尾行をこなしていた蘭華。
黒塗りのリムジンで付かず離れずの距離をついてきていたホリィ。
ランニングしている体育会系女子を装ってずっと走っていた翔香。
三人ともカクリと二人きりで帰った噂を聞きつけて三者三様の尾行を披露したのである。
「とりあえずカクリは羨ましすぎるからあげようと思ってたケーキ没収するわ」
「逆恨みでしょうそれ!」
閑静な高級住宅街に響く少女たちの声。
周りの迷惑も顧みず、四人はそのまま話を続ける。
颯爽と車から降りたホリィは夕陽で輝く金の髪をなびかせる。可憐な少女の顔は悲しみで眉を下げていた。
「飛彩くん、随分と思いつめていたようですが……」
「理由はわかってる。能力のことよ」
「ん〜、まあ、あれだけ強いのに変身時間なしとか確かに不安になるよねぇ」
問題点はわかっていてもプライドの高い飛彩の心に安らぎを与える方法は簡単に思いつかない。
飛彩は自分に課しているハードルが異様に高い。
「一度休んでいただいては?」
「無理でしょ。護利隊って人手不足だし。何より飛彩がそれを望まないって」
ヒーローを守る以上、変身前からヒーロー以上に戦えなければならないという思考は今も昔も変わっていない。
故に長年連れ添っている幼馴染の言葉も、尊敬する相手からも「君はよくやっている」と言われようと自分自身がそれを認めなければ納得できないタイプなのだ。
「結局、飛彩が自分で納得して、自分で解決するしかないのよ」
そう話す蘭華の横顔は悲しさで溢れていた。
長年連れ添ってもいまだに自分の声だけで飛彩を元に戻すことすら出来ないからである。
「守られたって別にいいじゃない。私たち、いつも守ってる側なんだから」
「そうだよ。私のことも全力で守るって言ってるんだから、私もアイツを守りたい」
「そ、れ、は、社交辞令みたいなものだから気にしないで大丈夫」
「カ、カクリもそう思います!」
「わ、私も……同じようなこと言ってもらってるし……」
「え〜? そうなのかな〜?」
飛彩を想い結束する仲間でありつつもライバルな少女たちは好き放題に言い合って、誰からというわけでなく解散し始めた。
誰も飛彩を追うことはなく、今声をかけても無駄だとわかっているのだろう。
「じゃあ私も行くわ。あ、ケーキ没収は嘘よ。今度買ってきてあげる」
「ありがとうございます、蘭華さん!」
「カクリ、飛彩がまた相談しにきたらいっぱい話してあげてね」
「え?」
先ほどまで翔香を蹴落とそうとしていた蘭華のセリフとは思えないが故にカクリは目を丸くした。
「能力においてカクリと飛彩は同じ境遇よ……悔しいけど、一番理解してあげられるのはカクリだけかもしれないから」
「そんなことないです! 蘭華さんだって、飛彩さんとずっと一緒にいたんでしょう?」
「……そういえばそうね。ずっと一緒にいて、ずっと守られてきた」
彼女たちは弱かった。
意志が弱い時もあった、純粋に力がないときもあった、理由は様々だが。
だからこそ守られることは決して恥ではないし忌避するものではないと知っていた。
湿っぽい雰囲気になった瞬間、蘭華はカクリの肩に手を乗せて顔を近づける。
「ねぇ、カクリ。放課後の訓練、私に付き合ってくれない?」
「カクリが……戦闘訓練ですか? 頼む相手をお間違えに……」
「いいから。あんたとじゃなきゃダメなの」
「はぁ……」
名案を思いついたような声音に押し切られるようにしてカクリは蘭華の訓練に付き合うことを決めた。
飛彩の力になりたい、その意志は違わぬ二人は目標を共に前へ進む決意を定める。
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