【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
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ストラグルバトル 〜隠蔽〜

公開日時: 2020年9月28日(月) 00:03
文字数:3,459

「何の悪を司っているかは……まあ、今のがヒントかな」


「これ以上、クイズなんてやらねぇよ……テメェをぶっ潰してヴィランの親玉のところに案内させてやるよ」


「ガイドかぁ〜。いくらでも教えてあげるよ……僕に勝てたらだけど?」


振りかぶった渾身の右ストレートと投槍のような鋭い紅い脚撃がぶつかり合い、攻撃の余波が侵略区域を覆うドームを揺らす。


「俺としちゃあ好都合だ」


「僕が勝ったら……いや、何もいらないや。僕の欲しいものなんて何も持ってないだろうし」


「遠慮すんじゃねぇって!」


続いて繰り出されるは漆黒の左腕。


両腕をクロスする形で防御するリージェはその時初めて顔を歪ませた。


ヴィランの生命源とも言える展開力もとい悪エネルギーを奪う一撃に違和感を覚えたのだろう。


続いて飛彩は両拳での乱打をリージェの上半身に叩き込んでいく。


左腕のみ防御され、右腕の一撃は防御の必要がないと思われているのか不動の鎧で受け止めている。


「いいのか? そんなに悠長にしてて?」


「警戒すべきは左腕と右脚だけ。何を怖がる必要が?」


「はぁ……テメェみたいな強者気取りが一番ダサぇんだよ」


速度が上がった左腕のジャブが流星のように降り注いでいく。


右腕の攻撃配分が少なくなった瞬間、拳に仕込まれていた新型インジェクターが飛彩の身体へと力を与えた。



『注入(インジェクション)!』



身体を捻り右腕の発光を隠し、左腕の牽制でリージェの意識を逸させる。


リージェは防御陣形に深く顔を埋めていたが攻撃の違和感に顔を上げてしまう。


その一瞬の隙目掛けて飛彩は右腕を砲撃のように発射した。


「食らっとけゴミが!」


「!?」


力を発揮できないと考えていた右腕からの砲弾。


油断したリージェの頬に渾身の右ストレートが炸裂する。


全体重を乗せた拳がリージェを地面から引き離す。


弾むボールのように何回も地面にぶつかっては跳ねてを繰り返し、最終的には仰向けになってやっと勢いがおさまった。


黒い砂埃がドームの天井まで届く。


それだけで飛彩の攻撃の威力の凄まじさが窺える。


煙の向こうにいるであろうリージェを睨む飛彩は右腕をぶらぶらと揺らして、腕をリラックスさせる。


確かな手応えを感じた飛彩だが、この一撃を何発も撃ち込まないと倒せない相手だとも深く理解している。


「あいてて……」


よろめきながら起き上がるリージェは口の端から黒い血液を溢しながらも未だに余裕な表情を崩さない。


コメディチックなリアクションで飛彩は呆れさせられたが、一瞬で集中力を取り返し左拳を突きつける。


「ナメた口きくからだよ……ま、今ので死んでたらそこらの雑魚ヴィランと同じだからな」


逆に挑発し返す飛彩だが、リージェは子供の戯れのように楽しそうに笑い続けた。


その余裕さが恐怖となり、狂気に感じられた飛彩の額に一筋の汗が伝っていく。


「いやぁ……ますます面白いね、君」


「テメェを楽しませるピエロじゃねぇんだ。大人しく案内出来ねぇならぶっ潰すだけだぜ?」


その一言がツボに入ったのかリージェは歩み寄りながらも腹を抱えて笑っていた。


「もうやめてよ〜、これじゃあさ……」


緩急のついた動きのまま警戒の意識の外からリージェは飛彩へと接近した。


近づかれているというのに危機感を持てないのはリージェの性格や佇まいがもたらすものなのかと飛彩は歯噛みし、拳を突きつける。


「まずは能力把握でしょ?」


「関係ねぇ!」


先ほどとは打って変わって飛彩の拳を人差し指だけで簡単に止めるリージェ。


見えない何かに押し留められていることに気づいた飛彩は焦りの声を漏らす。


「君のその左腕は僕らのエネルギーを奪い取るみたいだけど、僕のは簡単に奪えないみたいだね!」


振り抜いた腕を棒立ちで受け止めるリージェ。


飛彩の足がどんどんと地面にめり込んでいき、拳に籠る威力がどんどん上がっていくがそれでも突き出された人差し指には届かない。


ほんの数センチの短い距離にも関わらず、数百メートル離れた対岸のような感覚を覚えさせられる。


「ぐぅぅ……!」


力を込めなければ今にも弾き飛ばされてしまいそうな障壁に攻撃だけでなく体幹も意識しなければならなかった。


ますます必死さが募る飛彩とあくびをする余裕のあるリージェ。


対照的な二人の戦いは侵略を押しとどめるドームを崩壊させてしまうのではないかというほどの振動を放っていた。


全ての監視カメラが破壊され、中の様子を確認出来るのは飛彩のバイザーから送られてくる映像のみとなっている。


リージェの来訪はまさに地獄からの使者が現れ、世界に死を振り向くことそのもの。


反応する計器が興奮しているように示す数値はランクD。


いくつものモニターか立ち並ぶ中央制御室には多くの作業員と管理長、さらに黒斗が驚愕の表情で震えている。


「なぜ毎回飛彩がこんな連中と……」


幼気残る表情のリージェだが数値上はハイドアウターやミューパより力を誇ることとなる。


カメラ越しに見えるオーラのようなものですら都市部を混乱に陥れたギャブランを遥かに上回っているような錯覚すら覚える。


まさに人類が接敵した存在の中で一番の強者であると誰もが口を揃えるであろうリージェはバイザーの向こうにいる存在に笑いかけるようににっこりと微笑んだ。


「気味の悪いやつだ……」


「何を笑っているのでしょうかね」


息を飲む管理長。

ヴィランのリゾート地のようになっていたこの区域内のことをさも何も把握できていなかったように恐れを含ませた声音で呟いた。


「やつを見ても全く恐れを感じないというのに、心の底から震えるような感覚だ……相対している飛彩は平然と戦っているが完全な集中力ではないだろう」


すぐに支援行動に移るべきだとこのドームに残っている武装を確認する。


「あ、あの黒斗司令官? 武装ですが現在故障しているものが多く……」


「——なんだと?」


おずおずと述べた作業員の一人へ厳しい視線を向ける黒斗。


それものそのはず、この危険な区域で武装を壊されたまま放置することの自殺行為は火を見るより明らかだ。


「か、管理長が修理の周期を決めているので……」


「ほう……」


眼鏡越しに映る管理長は苦虫を噛み潰した表情を浮かべている。


都市部の司令官がやってくるだけでも面倒ごとになることは間違いないが、この区域を揺るがす事件に発展するとは誰も思っていなかっただろう。


「それで管理長。何故このような事態を報告しなかった?」


「お、お言葉ですが内部の状況をしっかりと確認出来たのは今が初めてで……」


中は常にヴィランに有利な黒の瘴気で包まれていた。


飛彩がそれを吸収するまでは監視カメラをつけたりドローンを放っても何も確認することは出来ず、程なくして破壊されていた。


何度か調査隊を放っても全てが帰らぬ人となっている。つまり中の情報は常に何もなかったのだ。


「ならばそれを報告する義務があったのでは?」


鋭利な瞳をさらに細め、管理長に詰め寄る。中央制御室に緊張が立ち込め、管理長と黒斗に視線が集まった。


「……」


意を決したのか管理長もまた黒斗へと詰め寄る。


耳打ちするように、誰にも聞こえないようなか細い声で囁いた。


「この施設に何十億とかかっているんです。何も起きていない、ヴィランを封じ込めることが出来ている……そう報告出来ればいいじゃないですか」


「死んでいった隊員たちはどうなる」


「それもまだ数十人ですよ? しかもどこの馬の骨とも分からぬゴロツキばかりを集めました。内部調査をしたがヴィランを封じ込めるだけで精一杯でした、これで報告は充分です」


つまりこの男はヴィランたちの娯楽のために人間を提供していると認めたのだ。


この封印区域が誕生して数年、全てを把握した上でこの区域からヴィランが出ていかない代わりに娯楽を提供する。


一度も話したことのない相手に対し忖度という名の暗黙の契約を結んでいた男に対し、黒斗の身体に虫酸が走った。


「ありえんな……」


山の怒りを鎮めるために生贄を送るなどの非現実的な行いに対し、何も調べようとせずに何も起きていないからそれでいいではないかということなかれ主義に苛立ちで黒斗の頭に血が上る。


「あ、あなたも中間管理職のはず……私の苦しみが分かりますよね?」


暗に見逃せと語りかけてくる笑み。他の作業員に気づかれないような耳打ちに黒斗も小さくつぶやき返した。


「……中間管理職か」


「え、ええ! わかりますよね? 上はうるさい、下の管理は面倒だ。テキトーにやってなきゃ割に合わない。責任だけが強いこんな仕事で」


言い返してこないことで管理長はもう一押しと考えたのか賄賂や様々な甘い言葉を黒斗へと囁いた。

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