メイが創造で作り直したアーマーに着替えた黒斗だが、回復薬も投与されある程度の傷も癒えている。
いつもと変わらぬ声音で吠える黒斗の声にメイは崩れかけたビルの影に立ち止まった。
それに追いついた黒斗は息が上がっているが身体に鞭打っているのが透けて見えている。
「はぁ〜……」
その『いつもと変わらぬ』という接し方にメイの心は救われていた。
自身がヴィランだという自覚はしつつも、長らく触れてきた人間たちに拒絶を示されるのは辛くて当然で。
故に何も変わらない黒斗に、メイの心は救われていた。
「私、黒斗くんに危ない目にあって欲しくないんだけど?」
空間に亀裂を作り上げ、白衣のメイは再び顔以外を鎧に染めていく。
「それは俺も同じ気持ちだ。お前にこれ以上無理はさせられん」
鎧を纏って重量が増していようとお構いなしに黒斗はメイの腕をとった。
そのまま空間亀裂から離すように自身へと引き寄せる。
「お前がヴィランであり、この事態に責任を感じているのであれば……それはもはや俺の責任だ」
「黒斗くん……」
「そもそもお前がヴィランだろうとなんだろうと関係ない。俺は『お前』しか知らん! どれだけ俺より強かろうと、辞めない限りは俺の部下だ!」
切れ長な瞳は揺るがぬ意志を含んでおり、メイは顔を赤らめて視線を逸らしてしまう。
ララク以上に人間に毒されていたのか、と拒絶されないことにメイはどんどん心を熱くさせていく。
そして、それほどに人という存在を愛してしまっていたのだろう、と人から切り離された悪意である自分を見つめ直した。
「俺も、行くぞ」
「……わかった、わかったわよ。もう、私の方が何百歳も年上のなのに……」
「頼む、飛彩たちを失うわけにはいかない」
どぎまぎさせられていたメイの顔つきも、黒斗のその一言で真剣なものへと戻っていく。
飛彩たちを救うまでは浮かれるわけにはいかない、と鋭い視線が伝染して。
「そうね……狭間も一気に駆け抜けるから、しっかり着いてきて」
ここでメイはある懸念が現実のものになるのではないか、という予感を覚えていた。
それはメイのみが知る、真実で今までひた隠しにしてきたものである。
フェイウォンとの戦いでそれが明らかになってしまうのも時間の問題かもしれない、と飛彩の五番目の能力に対して、焦りが垣間見えていた。
「ああ」
黒斗も何かメイが、まだ何か別の問題を抱えていることを察知する。
それでも、飛彩たちを救うためにこれ以上の問答は続けられないと決意したのだ。
「人類側の最高戦力を投入する」
「人類、ね……とにかく、急ぎましょうか」
溶け込むように二人は黒い亀裂の中へと消えていく。
その先に待ち受ける運命は、過酷さを増して世界の命運という重荷を戦士たちに背負わせていくようで。
フェイウォンがもともと一つだった世界から悪意を抜きあり、異世を作ったのがいつなのかもはや察することは出来ない。
しかし、生けるものと悪意を切り離したことはまさに運命の歯車を回したのだろう。
そして、悪意が抜かれてもなお悪を呼び戻す人間たちの誕生が歯車に綻びを生じさせてフェイウォンの目に留まってしまったのだ。
災厄に抗う戦士の筆頭になった存在が飛彩であることも、まさに宿命だったのかもしれない。
「……観察だと?」
無効化の力が途切れないように、右拳を突き立てたまま飛彩は顔があった場所を覗き込んで言葉を溢した。
ここまでの攻勢が無に帰るような一言をどうしても許容出来ないのである。
「未来確定の種はまだ掴めていないが、そちらはどうにでもなる……私がどうしても解明できなかったのはお前への違和感だ」
じわじわと復活していく顔面だが口だけが闇霞から復活していく。
それでもなお、異世にいる存在全てに届くような声が続いていく。
飛彩は心臓を掴まれたまま、背後で直接話されているような恐怖に息が早まっていった。
「時々感じる、お前を見失う感覚だ。特にそのような能力もないくせに、なぁ?」
「殺気くらい消せる。これ以上時間稼ぎするようなら本気で……」
「だが、その違和感はララクが消してくれたよ」
突如呼ばれたことで驚くララクだが、フェイウォンが何を言おうとしているのかが分かるのようで。
同じく違和感の正体に勘付き始めたことで天真爛漫さは完全に消えてしまっている。
「同類からの攻撃は感知しにくい。私を裏切るものは存在せず、ヴィランの力を全て知っている私だからこそ……同族に疎いのだ」
「な、何が言いたい!」
咆哮と同時に右拳は弾き飛ばされ、堰き止められていた展開力が濁流のように周囲へと溢れ出した。
ヒーローたちも展開力を掛け合わせてその場にいることで精一杯で救援も難しい。
「蘭華ちゃん!」
一人、無防備な蘭華を急いで守護しにきたホリィだが、援護役は完全に腰を抜かして震えてしまっている。
展開力の波にではなく、これから告げられるであろう恐ろしい事実に対して、なのかもしれないが。
いつしかクレーターはフェイウォンの展開力を吸ってか、元の状態へと膨れ上がるように戻っていく。
そのままフェイウォンと飛彩の立場は逆転して片膝をつく飛彩を見下ろすように始祖が形を取り戻していった。
「ここまできて分からんのか?」
飛彩を覗き込むように腰を折ったフェイウォンの瞳は漆黒に染まり見るものを吸い込むような恐怖感を持っている。
反撃できる距離だが、聞き入り、見入っている飛彩がフェイウォンに突きつける拳などは持っておらず。
耳に伝わる言葉がゆっくりと、驚愕の音色を奏でた。
「隠雅飛彩……お前は『ヴィラン』だよ」
フェイウォンが感じていた違和感の正体。
その衝撃の真実が、今暗い闇の世界で脚光を浴びることとなる。
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