「なっ、なんだ!?」
複数の正体が纏まって亀裂を作り進行している拠点のような場所がここには複数存在している。
そのうちの一つに目をつけた飛彩は高ランク帯のヴィランだろうと一撃の元に屠りさっていく。
「力が漲りやがる! 今の俺は誰にも止められねぇ!」
「謀反か!? フェイウォン様に見つかる前に止めろぉ!」
「巻き添え食らって死ぬのは御免被るぞ!」
鬼神のごとき飛彩に、もはや死角は存在せず背後からの攻撃には見向きもせず左腕から波動を放つ。
それだけでなく空けた風穴からは蘭華の装甲車が突撃し、狼狽たヴィランを踏み潰していく。
「な、なんだこいつはぁ!?」
無論、その程度でヴィランが死ぬことはない。
しかし、装甲車を盾に進んでいたレスキューワールドチームや春嶺達がその身動きが取れない鎧へと榴弾を乱射していく。
動乱と爆音に城下町の外れにいた小隊は瓦解していく。
亀裂の中から異変を感じたヴィランが戻ってこようとするが、それは飛彩の左腕によって勢いよく閉じられた。
「ぶっ飛びな!」
狭間に落ちれば高ランクヴィランでも一溜まりもない。
それを乗り込む時に知った飛彩は効率よく亀裂を破壊しつつヴィランを世界のねじれに叩き込んでいく。
「黒斗と蘭華の作戦はいつも名案だな!」
「褒めてる暇があったら次の場所!」
いとも簡単に一つの拠点を落とした飛彩達だが、残す拠点はまだ二桁以上存在している。
そこにいるのはE以上の高ランク帯と呼ばれる猛者達だ。
この大半がこの城下で起きたことに気づいたのか、周囲への展開圧力が一気に増していく。
「くっ、あぁ……」
駆け出していた翔香の足が重くなる。
山頂にいるかのような酸素の薄さに襲われたことでヴィラン陣営の展開力が増したことを全員が理解した。
「走駆……これ以上やらせねぇ!」
「それは、こちらのセリフだ!」
目立つ展開を発揮している飛彩にヴィランの集中砲火が集まる。
熱太達が重火器をむけて援護しようとするが、飛彩は亀裂を塞げの一点張りだった。
同時に襲いかかってくる五体のヴィランを組み伏せながら左脚の生命力を流し込んでヴィランを内側から崩壊させていく。
「その程度じゃ止まらないぜ!」
「何者だ? ……まだ出発していない連中は集まれぇ!」
完璧に飛彩の陽動が功を奏し、警戒が外れたホリィ達が空間亀裂へと展開力を封じる武器を使って撃ち壊していく。
「ヴィランには効きにくても出入り口ぐらいは塞げるぞ!」
「熱太先輩! もう少し丁寧に撃ってください!」
「二人とも近接戦闘だから撃つのは下手ね……」
大量の弾薬を持ってきたとはいえ、補給は見込めないのだ。
弾丸の一つも無駄に出来ない中で、春嶺、ホリィ、刑の三人は寸分の狂いもない射撃を披露していく。
「レスキューワールドだからまとめたが安直な采配だったんじゃないか?」
「チームワークが要ですし、三人揃った時の爆発力は侮れませんよ」
次々と亀裂を塞いでいく刑はが困ったような表情を浮かべる中、人外の動きをみせる春嶺が跳弾を利用して一発の弾丸で複数の亀裂を消し去っていく。
「まあ、こっちは春嶺くんがいるから余計そんな感じがするね……」
「二人とも、あっちに行ってもいいんだよ。こっちは私一人で充分」
変身前から最もヒーローに近い春嶺は飛彩ばりに走り回って、亀裂を消していく。
音もない弾丸に、ヴィラン達は密かに進行ルートが消されていることに気付いてもいない。
「展開のない私たちは個人領域がなくとも透明人間みたいなもの」
そう言った春嶺はたじろぐヴィランの背後を一瞬で奪い取り、頭部へと凄まじい勢いで銃弾を埋め込んでいく。
かつての暗殺者染みた所作で次々と亀裂やヴィランを屠っていく。飛彩と少し離れてしまっても春嶺がいれば安全なのではないかと思えるほどだ。
「で、でも展開内を歩いてたら普通は気づかれますよね」
「それは一対一のような数が少ない時だけさ」
「苦原刑の言うように数が少ないと感知がしやすい。今のように敵味方幾重にも折り重なった展開下で私たちのようなアリを探すのは難しいよ」
そう解説する春嶺へ住居を突き破って図体の大きなヴィランが襲いかかる。
刑とホリィが息を飲んだ瞬間、紅い疾風が横切りその巨大なヴィラン掴み上げてとハンマーがわりに振り回す。
「飛彩くん! 助かりました!」
「……とまぁ、今みたいな弱いヴィランには感知される危険性があるから注意して」
あのくらい対処できたと言わんばかりの春嶺だが、深く隠した瞳には早くも疲れが現れ始めていた。
その様子に気付いた刑は早く展開を発動しなければ敗北も時間の問題だと焦りを抱く。
今のように乱闘に紛れて飛彩が必ず助けられるわけでもないからだ。
「くっ、どうすれば変身できる……!」
展開力は吸収しつつも一切世界展開を発動することのない自身の能力に苛立ち、世界展開ブレスを憎々しげに見つめる。
「苦原刑、そんな感情じゃ絶対に変身できない。今は出来ることを冷静に行おう。あなたはそれが出来るはず」
「……わかっている。熱太くん達が熱い気持ちで戦い変身を目指すなら僕たちは冷静にあるべき、だね」
春嶺の攻勢、飛彩の活躍に浮き足立ちかけていた気持ちを刑は呼吸ひとつで見事に整える。
そこからは蘭華も舌を巻く針の穴を通すような射撃で亀裂を塞いで行った。
「春嶺ちゃんと刑さんって息ぴったりですね!」
「は?」
「私も頑張らないと!」
「ホリィちゃん、このタイミングでそんなこと言える君もなかなか大物だね……」
尖った空気に花を咲かせるのも才能かと刑は小さく笑った。
冷静であろうと無駄に力んでいたことを自覚した二人は、敵陣の真っ只中だというのにリラックスして戦う。
その余剰分の精神力は変身への集中力に変換する。その姿を見習ったホリィもまた敵と世界展開ブレスという二つのものへ集中していく。
撃破数をもしカウント出来ていたなら春嶺達のチームが上になるだろう。
それに気付いた熱太は得意でない射撃に少なからず煩わしさを感じる。
「熱太くん、張り合っちゃだめよ」
「なっ、何も言ってないだろう!」
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