【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

変身できなくとも構わない!

公開日時: 2021年5月25日(火) 00:08
文字数:2,396

「変身しなくてもヤバそうな一撃だねぇ!」


「くっ、お前に手間取っていては現世が……」


「そんな釣れない事言わないでさ。手こずってるフリさせてよ!」


 リージェにとってフェイウォンは反旗を翻したい相手。

 つまり飛彩達とは目的が一致しているものの、目に見える裏切りなど誓約が許さない。


 そもそもリージェが熱太や飛彩と手を組むなど、天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。


 ただそれ故に展開力のほとんどをユリラの指揮とフェイウォンの誓約の解除へと費やしているのだ。

 そうとも知らない熱太達はいつ拒絶を放たれるのかと神経をすり減らしていく。


 一瞬で肉塊に変えられてしまうかもしれない恐怖は判断力や動きをどんどんと鈍らせてしまうのだろう。


「んー、君もう少し骨のある奴だったよね? まあ、変身前じゃこんなもんかぁ」


「何だと……?」


「ほら、変身してよ? あ、ごめんごめん。出来なかったんだよね」


 その言葉に煽りが含まれていなかったことがさらに熱太の熱量を上げる。

 もはや飛彩と異なり眼中にもないという姿勢が火を付けるのも無理はないのだろう。


「……ふっ!」


「!?」


 接近戦の中で瞬時に下がる足捌きを見せたかと思えば、鞘のない抜身の剣で繰り出された居合のような切り上げがリージェを掠める。


 誓約を振り払う展開力を防御に回し、拒絶で軌跡をズラさなければならないほどの威圧を熱太はここぞという時に発揮した。


 その流れを無駄にする事なく、研ぎ澄まされたエレナと翔香の射撃がリージェの脚部へと突き刺さる。

 完璧なまでのコンビネーションは基本的にヴィランにとって慣れない戦術だった。


(ちぃっ! 誓約には一定の拒絶を打ち込み続けないといけないのに!)


「はぁ!」


 そんなリージェの悩みも知る事なく、熱太はそのまま踏み込みながらの袈裟斬りを披露した。

 かつてハイパーレスキューレッドに入れられた灼熱の一太刀を彷彿とさせられるリージェは熱太の覚醒したような気迫に苛立ちを隠せない。


「くそっ!」


 最小限の拒絶で弾き返すものの、位置を変えていた射撃がリージェの鎧を穿つ。

 死には程遠いものの煩わしさは集中力を削るに充分と言えよう。


 集中の条件は五分五分と言ったような状況下において、真正面に剣を構えた熱太は展開力と変身を求める心を捨てていた。


「急に動きが良くなりすぎだって」


「そうか。ならばお前は命の危機を感じたというわけだな」


「……は? 何言っちゃってんの?」


「お前達ヴィランは通常兵器でも死ぬ……それは護利隊員が証明している」


 あまりにも隙のない構えにリージェはどこを拒絶すれば良いのか分からず、手を空で泳がせる。


「今となっては申し訳ない話だが、スポンサーの目を気にしなければ低ランクヴィランでも通常兵器で倒すことが出来るんだ……同じ鎧を纏っているお前も同じ事だろう!」


「そりゃ身体が粉々になるまで僕が隙を見せればの話だろう? できもしないから君たちは同じ展開力の土壌に乗ってるんじゃないか」


「受肉したお前を斬ることに躊躇いはないぞ」


 熱太の言葉にも煽りや侮りは含まれていない。同じくリージェを激昂させるには充分すぎて。


「春嶺の変身で尚のこと焦ったが……そもそも変身せずとも、お前を倒せれば良いわけだ!」


「……お前、本気で言ってるの?」


 足場を拒絶した超加速を予期したのか熱太は素早く剣を横薙ぎにしてリージェを牽制する。


 侮れない人間、そのポテンシャルを見せる熱太に手軽に時間稼ぎという概念が消えていく。


「変身出来ようと出来なかろうと俺は俺だ……お前の挑発が逆に俺を冷静にしてくれたよ」


「ちょ、ちょっと混乱しすぎた。僕のこと、生身で倒すつもり?」


「ああ。でなければ覚悟とは言えまい。飛彩に負けた三下に変身など勿体ないだろう?」


 素人でもわかる隙目掛けて銃弾が飛ぶ。

 リージェの眉間へと飛んでいく弾丸が炸裂すれば葬れるか大ダメージであることには間違いない。


 さらにその一瞬だけ塞がれた視界を縫うように熱太が縮地の勢いで切り掛かっていた。


 二段構えの必殺技がリージェの命を奪う瞬間、吹き出すような拒絶の展開波動が辺りを吹き飛ばしていく。


「ぐあっ!」


「君のおかげで展開力が漲るよ……絶対に殺す!」


 口から痛苦の声が漏れても熱太は集中を切らさなかった。

 地面へと転がったと思いきや、リージェの追撃に合わせて剣を思い切り突き出して攻撃を弾き返す。


 むしろ離れた位置で狙撃するエレナと翔香の方が集中の維持に苦労するほどで。


(熱太くん、ヒーローの時と同じの動き……!)


(やっぱ先輩はすごいっす!)


 下手な援護は逆効果でリージェの拒絶が熱太に向いた時のみエレナ達のアシストが入るという援護特化へと陣形を変更する。それはまるでヒーローと護利隊の関係性のようで。


(流れ弾など恐るな……一番恐ろしいのはエレナと翔香を守れないことだ!)


 仲間の援護を信じ、リージェのみに集中した熱太の剣。

 そして誓約に気を取られながらのリージェ。

 そこには人間とヴィランという隔たりがあるにも関わらず、戦いは拮抗した。


「くらえ!」


「ちっ、人間のくせに!」


 ブレイザーブレイバーは戦いの中でリージェの展開力を切り取り、それを放出するという動きを見せている。


 それが威力を大幅に増させている要因だが、人間状態の今では展開力の維持が出来ないのだ。

 故に炎のような猛攻で奪いとり攻撃するという絶え間ない攻撃を維持している。


(そうだ、剣しか僕に致命傷を与えられない!)


 銃弾はともかく熱太の攻撃は剣中心のためリージェもすぐに対応策を思いつく。

 ある程度苦戦しているフリをしながら誓約を外すという目的は消え、熱太との戦いに熱中し始めている証拠だ。


「そこだぁ!」


 剣を大きく振ろうと背後へと伸ばした瞬間、手から弾き飛ばすような拒絶波動が熱太の手を襲った。

 剣を弾くだけの簡素な拒絶だが、弾くという部分に特化したことでいとも簡単に剣を離れた場所へと突き刺さるオブジェへと変える。

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