「嘘言うんじゃねぇ。ナンバーワンヒーローのスキャンダルをみすみす逃すような真似はするなよ?」
忍者のような足捌きで二人組だったパパラッチの背後を取った飛彩は、以前蘭華から借りていたスタンバトンを押し当てた。
「眠っとけ」
「「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」」
死ぬことはないだろうが当分目覚めることもないパパラッチたちは体を存分に痙攣させて地面へ抱擁しにいった。
「悪いな。弾の休みくらい何の気苦労もさせたくねぇんだよ」
去り際にカメラとスマホをわざわざ踏みつけるようにして飛彩はホリィの元へ一瞬で帰還する。
これもまたいつでも世界展開《リアライズ》を発動することが出来る飛彩のなせる技だ。
いくら出力が低いとはいえ、人間相手ならば簡単に制するのも容易い。
「よし、もういぜ」
展開解除時の紅光がすぐに右足の中へと消えていった。
ホリィですら何が起こったのか分からず、ぽかんとした表情を浮かべている。
「——え? な、何かしました?」
「あー、えっと……頭に蜘蛛がいたんでな! ビビるかと思って取ってやったんだよ」
「む、虫が!? よかったぁ、ありがとうございます!」
「へぇ、お前虫苦手だったんだ」
他愛もない話に戻りつつ、再び歩み始められたことに飛彩はほっと胸を撫で下ろす。
パパラッチがこの一組とも限らなければ、勘づく一般市民だって存在する。
それら全てからホリィを守り切れるのだろうかと飛彩は不安になった。
しかし。
「さすが飛彩くんですね。何からも守ってくれます!」
輝く太陽にも負けない煌く笑顔。こんなものを見せられたら何が何でも今日一日楽しかったと思わせたい、と飛彩は決意をより強固なものにするのであった。
「そういや、どこに向かってんだ?」
「最初は、よろぎ緑地に行きませんか?」
「都会なここら辺じゃ珍しいだろうけど、あそこは何もねぇただの広い公園だぞ? 本当にいいのか?」
「ええ。この鞄が役に立つので」
誘導区域やビル街だらけになった都心の中にあるオアシスのような巨大公園。
子供たちが唯一伸び伸びと遊べるくらいの利点しかない場所に高校生が行ったところで、と飛彩は言葉に詰まる。
あまり娯楽を求めない飛彩ですら、ホリィをどう楽しませればいいのか考えてしまうほどにただ緑が多いというのと巨大なだけの公園なのだから。
「まー、歩いて近いから構わないが」
「いいから行きましょう!」
急に駆け出したホリィに手を引かれる形で人通りの少ない歩道を走っていく。
何もない公園がどれだけ楽しみだったのだろうかと飛彩は不思議そうに首を傾げた。
「そんなに走ったら汗だくになっちまうぞ」
「あ、私ったら……つい」
おずおずと握られていた手が離れていく。
謎の名残惜しさを覚えつつもスキャンダルに繋がりそうなものは排除しておこうという冷静さが飛彩の中にはあった。
(俺なんかと噂になってもホリィがかわいそうだからなぁ)
家柄や仕事などの余計なしがらみがなければ、ホリィにとって大歓迎な状況ということも知らずに飛彩は無駄な生真面目さを発揮し続けるのであった。
数分歩いたところで駅などの主要交通機関へ近づき、人通りが増していく。
さすがに正体を隠させないと気づくものが現れるだろうと飛彩の緊張感は増していった。
大都会と呼べるビルが立ち並び、巨大な電光掲示板が繁華街の賑わいを助長させていく。
巨大なターミナルを抜けた先に緑地が見えてくるのだが、木々の気配は今のところ飛彩たちの眼前には存在していない。
「ホリィ、傘で顔を隠しておけよ」
「? 何故でしょう?」
「はぁ? お前みたいな有名人がいるってバレたら遊びどころじゃねぇからに決まってるだろ」
「ん〜、その時はその時じゃないですか?」
開き直り、強気な姿勢を見せられたことに怯みつつも、傘を無理矢理下へ下げさせて目元まで隠させる。
「ただでさえ目立つ金髪なんだからここは大人しくしとけ」
「あうっ」
相手をリードする姿勢というものを蘭華との外出で飛彩は一応学んでいた。正確に言えば蘭華のリードを見様見真似しているだけだが。
そしてそれに反抗してよく蘭華を困らせていたな、と内心飛彩は反省する。
「今変な記事でも出回っちまったら奪還作戦なんて撤回されちまうだろうよ」
「……」
全て飛彩なりの心遣いだったが、それをホリィが求めているかは別な話だ。
少しだけ悲しそうな口元が見えた瞬間に、何か対応を誤ったかと慄いてしまう。
「あー、いや、俺はお前を想って……」
駅の近くの大きな歩道の橋でおろおろする少年と傘で顔を隠す少女。
否応なく視線を引いてしまっていた状況の中、様々な広告を往来に届けていたビルに備え付けられている電光掲示板がある一つのコマーシャルを人混みの雑踏に負けない大音量で流し始めた。
『艶やかな髪を、永遠に……』
不意に飛び込んできたその映像は、美しい金髪を靡かせる一人の少女の映像。
煌びやかな宮殿の中を豪華な装飾品とドレスに身を包んだホリィが優雅に歩いている。
「おい、お前あれ……」
「あぁ、あのコマーシャル今日からだったんですね! ヒーローは他の仕事も多くて大変ですよねぇ」
そうなっているのはごく一部の人気ヒーローだけだと心の中で溢す飛彩だったが、衆人のほとんどが目をやった広告と同じ煌びやかな金髪の少女が歩道を歩いているのだ。
日傘で顔を隠しているとはいえ、腰まで伸びている金髪に通行人の視線が集まる。
(こんな状況でバレたらドえらいことになんぞ……!)
『この美しさ、貴方にも……』
そのコマーシャルが終わった瞬間から、人々の視線を感じる飛彩は壁際にホリィを追いやりなんか視線をふさごうと奮闘するが、いわゆる壁ドンの状態になってしまったことでより視線を集めてしまう。
「ちょ、ちょっと……飛彩くん?」
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